Yahoo!ニュース

NBAの名門セルティックスはなぜ低迷している? ベテランスカウトが指摘した改善策

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NBAを代表する名門ボストン・セルティックスが苦しんでいる。

 1月6日、ニューヨークでのニックス戦では一時は25点をリードしながら、その後に反撃を許して逆転負け。19点以上の差をひっくり返されての敗戦はこれが今季4度目だった。その後、8日のニックス戦には勝ったものの、10日のペイサーズ戦開始前の時点で19勝21敗と低迷中だ。

 ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウンというオールスターデュオを軸に、開幕前は上位争いが期待されたチームに何が起こっているのか。今回、イースタン・カンファレンス某チームのベテランスカウトに分析を求めた。このスカウトが所属するチーム名はここでは明かせないが、匿名であるがゆえに、正直で大胆な興味深い意見が聞ける。

 疑問の残る新コーチの方向性

 一般的に期待外れという見方がされているが、セルティックスは去年も36勝36敗だったことを忘れるべきじゃない。ケンバ・ウォーカー、エバン・フォーニエは抜けたが、彼らはもともとチームにフィットしなかった選手たち。コアメンバーは昨季からほとんど同じだ。だとすれば、ここまで勝率5割を少々下回る成績なのは実力通りだろう。

 チーム内に信頼できるボールハンドラーが不在なため、ボールムーブメントに乏しく、オフェンスはジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウンの個人技頼みで終わることが多い。ベンチの層も厚いとは言えない。近年、ドラフト全体10位以下で指名されたグラント・ウィリアムズ、ロミオ・ラングフォード、アーロン・ネスミス、ペイトン・プリチャードといった選手たちは誰も大きな伸びしろを見せていない。

 昨季限りで現場を離れたブラッド・スティーブンス(昨季までセルティックスのHCとして8シーズン指揮を取り、現在はGM)、ダニー・エインジ(昨季までセルティックスのバスケットボール運営部代表を務め、現在はジャズのCEO)は、今の陣容にはもう大きな可能性がないことに気付いていたんじゃないかと思う。後を引き継いだイメイ・ウドカHCもまだコーチとしての資質を証明しておらず、チームをまとめるには至っていない。

ウドカHCは1月6日、ニックス戦での逆転負け後、「チームの精神的な弱さ」を敗因として指摘していた
ウドカHCは1月6日、ニックス戦での逆転負け後、「チームの精神的な弱さ」を敗因として指摘していた写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ウドカHCに関しては、シーズン序盤からアイソレーション重視のプレーを続ける選手を名指ししてメディアの前で批判していた。それを現在でも繰り返している。彼が指摘している問題点は間違いではないが、選手の個人名を公に挙げるのは実績あるベテランコーチでもリスクの大きなやり方だ。うまくいかなかった場合、ロッカールームの信頼を失っても不思議はない。

 機能していない部分を指摘するのではなく、修正するのがコーチの本来の仕事であり、ウドカにはそれができていない。ゲーム中のアジャストメントにも正直、疑問が残り、選手も不信感を抱いているように見える。

 チームを転換させるトレードは実行されるのか

 ここまできたら、セルティックスはテイタム、ブラウンという2人のスコアラーのうちの1人を放出すべきだろう。ブラウンは非常に聡明な男ではあるが、バスケットボールIQは微妙で、パス力はもう一つだ。ブラウンを出して司令塔タイプを手に入れれば、テイタムの良さはより生きるに違いない。

 ブラウン放出を避けるのなら、せめてマーカス・スマートをトレードしてPGを獲得するべきだ。スマートは良いパサーではあるが、いわゆるピュアPGからはほど遠い。

 スティーブンスは変化の必要性に気付いているとは思うが、オーナーサイドから許可が出るかどうか。エインジがエグゼクティブだった時代には人事の全権が与えられていたが、スティーブンスに関しても同じなのかはわからない。看板スターのうちの1人を放出するトレードがリスキーなことは間違いなく、失敗した時の代償は大きい。 

攻守の要であるブラウンの放出という荒療治は実行されるのか
攻守の要であるブラウンの放出という荒療治は実行されるのか写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 1つの具体的な案として、ブラウンをトレードし、フィラデルフィア・76ersからマーケットに出ているベン・シモンズを獲得すれば多くの問題が解決するとは思う。優勝争いに絡むにはテイタム、シモンズに次ぐ第3のスターが必要だが、現状よりは向上するだろう。

 ただ、先ほども話した通り、そんな方向性はギャンブルでもあり、引き金が引かれるかはわからない。今のセルティックスは勝率5割に届けばラッキーと言えるメンバーだが、それでも今季中に大きな変化はもたらされないまま、進んでいく可能性の方が高いのではないかと思う。

最近のNBA記事

クレイジーなシーズンの渡邊雄太が属するラプターズ、中盤からの逆襲のポイントとは

なぜワクチン接種を拒否するアービングをネッツは“パートタイム”で復帰させるのか

昨季のニックス大躍進は一体どこへ──。ニューヨークを落胆させる停滞の要因とは?

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事