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悪童ネリにKO勝ちした男、Sバンタム級統一戦を控える王者フィゲロア直撃インタビュー

杉浦大介スポーツライター
Sean Michael Ham/TGB Promotions

11月27日 ネバダ州ラスベガス パークMGM

WBC、WBO世界スーパーバンタム級タイトル戦

WBC王者

ブランドン・フィゲロア(アメリカ/22勝(17KO)1分)

12回戦

WBO王者

スティーブン・フルトン(アメリカ/19戦全勝(8KO))

*フィゲロアのインタビューは電話で収録された

前戦では会心の内容でメキシコの問題児をKO

――まずは5月15日に行われたルイス・ネリ(メキシコ)とのタイトル戦を改めて振り返って下さい。7回KOでネリを下した一戦は自身のやりたいことができたファイトでしたか?

ブランドン・フィゲロア(以下、BF) : プラン通りに戦うことができた試合でした。ネリの過去の試合を見て、私が普段通りの手数とプレッシャーで攻めれば持ち堪えられないことはわかっていました。彼は最初の2ラウンドはパワフルですが、それさえ過ぎれば私のペースになると考えたんです。ボディを攻め、ネリのエネルギーを奪い、中盤以降にフィニッシュするというのが私のプランでした。

――あなたはスーパーバンタム級では長身で、リーチも長いので、もっと距離を取るべきと指摘する人がいます。ただ、実際には接近戦に自信を持っているんですよね?

BF : 仰る通り、なぜもっとリーチを生かさないのかとずっと言われ続けてきました。しかし、私はボディ打ちが得意。その戦い方こそが持ち味だと考えています。もちろんその気になればアウトボクシングもできますが、接近戦からボディで崩していく戦い方は今後も続けるつもりです。

――バンタム級時代のネリはパンチャーとして定評がありました。スーパーバンタム級ではそのパワーはどうでした?

BF : 正直、パンチ力は感じませんでした。戦前、ネリは自慢のパンチ力で私をKOすると話していたのは知っていましたが、私は逆に彼を倒してアピールしてやりたいと思っていました。試合前、ネリは盛んにトラッシュトークを仕掛けてきましたが、結局は私の願い通りの結果になったのです。

――ネリはこれまで対戦した中で最高の選手と感じましたか?

BF : これまでで最も思い出深い一戦であり、この試合のことは忘れないでしょう。ただ、もっと厳しい試合は過去にありました。ネリとの試合はエキサイティングでファンを喜ばせる内容になりましたが、彼は私のことを過小評価していたように思います。私にあれほど力強い戦いができるとは思っていなかったのでしょう。

甘いマスクのフィゲロア(右)だが、激しい戦いを好む Sean Michael Ham/TGB Promotions
甘いマスクのフィゲロア(右)だが、激しい戦いを好む Sean Michael Ham/TGB Promotions

――試合後、ネリは病院送りになりましたが、ボディにあれほどのダメージを受けていることを試合中に気づいていましたか?

BF : レバーにパンチを受け、ネリが病院に行かねばならなかったことは後に知らされるまで知りませんでした。ラウンド中盤の彼のパンチにはもう威力がなく、叩くような打ち方になっていました。スタミナ切れしたところにまともに私のボディブローが当たったので、ダメージは激しかったのでしょう。フィニッシュの前から、手応えがあるボディブローは何発かあり、ボディが効いているのはわかっていました。

「NARUTO-ナルト-」が大好き

――インパクトの大きかったあの試合後、周囲の人々のリアクションはどうでした?

BF : みんなショックを受けたみたいでした。あの日、会場にいた観客のほとんどはネリの支持者だったですからね。私の応援をしてくれていたのは私の家族、友人たちくらい。KO勝ちを飾り、アリーナを静まり返らせることができて気持ちが良かったですよ。本当に最高の経験でした。

――日本のファンからも多くのメッセージが届いたのでは?

BF : それは凄かったですよ(笑)。ほとんどクレイジーなほどでした。ネリがあそこまで日本の人たちの間で不人気だとは知りませんでした。日本人は名誉を重んじる人たちなので、ネリが過去に日本で体重超過や薬物の事件を起こしたのを知って納得しました。日本のファンのサムライ魂は、メキシコ人ファンのメキシカン・ブラッドと似ていると思います。リング上では常に110%の力を発揮する日本人ボクサーをリスペクトしています。私の知っているボクサーたちの間でも、「日本人選手はすべてをかけて臨んでくるから、しっかり準備しておいた方がいい」と声をかけあったりして来ました。そんな日本の人たちに喜んでもらえて本当に嬉しいし、国外にもファンがいることは新たなモチベーションになります。

――あなたのお兄さんのオマーは2013年にサンアントニオで荒川仁人(ワタナベ)と戦い、激闘の末に判定勝ちを飾りました。その試合のことは覚えていますか?

BF : よく覚えていますよ。すごい打撃戦で、年間最高試合候補にもなりました。家族や親しい人たちと一緒にあの一戦をビデオで何度も見たものです。さっきも言った通り、私と私の周囲の人たちが日本人ボクサーをリスペクトしているのはまさにああいう試合をするからです。

ネリ戦後に日本での知名度も大きく上がった Esther Lin/SHOWTIME
ネリ戦後に日本での知名度も大きく上がった Esther Lin/SHOWTIME

――いつか日本を訪れるつもりですか?

BF : そうなったら最高ですね!夢のようです。私はアニメ、ラーメンといった日本のカルチャーに魅了されているんです。特にアニメが大好き。日本行きは私の“バケットリスト(生きている間にやっておきたいことのリスト)” に含まれています。ネリ戦後には日本の多くのファンから「日本に来てください!」というメッセージもいただきました(笑)

――アニメは何が好きなんですか?

BF : まずはやはり「NARUTO-ナルト-」ですね。もう何度も何度も繰り返し見ました。それから「HUNTER×HUNTER」、「呪術廻戦」も好きだし、今では「BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-」がお気に入りです。私は本当にアニメが大好きなので、挙げていったらキリがないですよ。

今週末、Sバンタム級の統一戦へ。そして井上尚弥戦は?

――次の試合の話をさせて下さい。WBO王者フルトンとの統一戦が間近に迫っています。フルトンにはどんな印象を抱いていますか?

BF : 非常に狡猾な選手というイメージです。ネリとはまったく違うタイプですね。 序盤から見栄えの良いパンチでポイントを奪おうとしてくるでしょう。ただ、私のゲームプランとしては今回もプレッシャーをかけ、ボディから崩していくという点では変わりはありません。

――勝負を分ける鍵はどこにあると思いますか?

BF : なるべく速く動き、タイミングを合わせ、上手にカウンターを取ることです。手数で圧倒することも重要になるでしょう。 私はどちらかといえばスロースターターですが、終盤の強さには自信を持っていて、これまでも試合後半に多くのKOをマークしてきました。中盤以降にペースを奪えると考えています。

――今回の統一戦に勝てばスーパーバンタム級では最高級のファイターとして評価されると思います。今後、誰と戦っていきたいという希望はありますか?

BF : フルトン戦に勝ったら、フェザー級に上げるかもしれません。身体が大きくなって、122パウンドでは厳しくなっています。次はフェザー級で世界タイトル挑戦のチャンスを模索する可能性もあります。

実力者のフルトン(左)との対戦も好ファイトになることは必至だ Sean Michael Ham/TGB Promotions
実力者のフルトン(左)との対戦も好ファイトになることは必至だ Sean Michael Ham/TGB Promotions

――WBAスーパー、IBFバンタム級王者の井上尚弥(大橋)はバンタム級統一後にスーパーバンタム級に上げることが確実視されています。ネリを倒したあなたと井上選手の激突を楽しみにしているファンは日本には多いと思いますが、スーパーバンタム級の対戦は難しそうですね。

BF : 井上のことはもちろんよく知ってますよ。とてつもないボクサーです。いつか戦ってみたいし、日本のファンからもそんなメッセージを受け取りました。私と井上が戦ったらすごい試合になるでしょう。ただ、現状での私のプランは、遠からずうちにフェザー級に進出することです。

――幼少期に好きだったボクサーは?

BF : サルバドール・サンチェスです。サンチェスは私の父のフェイバリット・ファイターでもありました。あとはフリオ・セサール・チャベス、マルコ・アントニオ・バレラ。メキシコの誇りを胸に秘めて戦うメキシカンスタイルのファイターが大好きでした。成長過程で彼らの試合を見られたことは喜びでした。

――ボクシングは何歳から始めたのですか?

BF : 3歳からです。プロで戦い始めたのは18歳の時ですね。

――今後、ボクサーとして何を成し遂げたいですか?

BF : 若い選手たちに、努力次第で何でも成し遂げられると示すボクサーになっていきたいです。私は当初から大成を期待された選手ではなく、「痩せすぎだ」とか「綺麗な顔をしているのだからボクサーじゃなくモデルになるべきだ」とかいろいろ言われました。ただ、私は戦うのが好きで、3歳の頃からずっと戦い続けて来たのです。同じような境遇の子供たちをインスパイアしていきたいですね。クリスマス・プレゼントをもらえない子供たちにプレゼントを渡したり、といった活動にも励んできました。自分がボクシングで得たものを、地域に還元できるようなボクサーになっていきたいです。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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