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井岡一翔対アンカハスの統一戦はどう実現したのか IBF王者陣営が交渉の舞台裏を語る

杉浦大介スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

12月31日 東京都 大田区総合体育館

IBF、WBO世界スーパーフライ級王座統一戦

WBO王者

井岡一翔(志成/32歳/27勝(15KO)2敗)

12回戦

IBF王者

ジェルウィン・アンカハス(フィリピン/29歳/33勝(22KO)1敗2分)

 日本時間25日、ついに正式発表された井岡対アンカハスはどう決定に至ったのか。アンカハスの代理人を務めたショーン・ギボンズ(MPプロモーションズ代表)が交渉の過程を振り返り、アンカハスの今後にも展望を巡らせた。

タイミング良く浮上した井岡戦

 大晦日に日本で行われる井岡対アンカハス戦の交渉は、非常に順調に進みました。交渉途中から成立まで持っていけるという自信がありましたし、最後までその通りに持っていけたのです。

 ビッグファイトを組むのには何よりもタイミングが大事。私たちの当初の目標は元WBC世界スーパーフライ級王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)とのタイトル戦を組むことで、実は私は交渉のためにタイにまで足を運んだのです。ただ、今回は両サイドのタイミングが合わず、成立には至りませんでした。

 アンカハスにはホセ・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)対ローマン・“チョコラティート”・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳)戦の勝者との統一戦を待つという選択肢もあり、プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)のアル・ヘイモンも(現在はマッチルーム傘下の)彼らとの試合を追い求めることを支持してくれました。しかし、もともと10月に計画されていたゴンサレスとエストラーダのラバーマッチは延期に。彼らの決着を待っていたら時間がかかりすぎるのがネックだったところに、タイミング良く浮上したのが井岡との統一戦でした。

唯一、主張した部分とは

 今年4月に挙行された前戦では、アンカハスはPBCの興行に出場しました。井岡陣営からはこれまでにも何度かオファーを受けており、今回、彼らはPBCに接触してきました。アンカハスは米国内のPBC興行で他の相手と戦うこともできたのですが、ここでは日本でのビッグファイトを受けるのが最適に感じられたのです。

 交渉を進める上で、井岡にはアメリカでのプロモーター、テレビ局の縛りがないことも大きかったですね。また、金銭的にも満足できるオファーを受けていたことも助けになりました。

 日本での開催は私たちにとって大きな問題ではありませんでした。こちらが主張したのはレフェリー、ジャッジを中立国から派遣してほしいという点だけ。私は日本の人たちを信頼しているので、ジャッジが3人とも日本人であっても大きな違いはないのかもしれませんが、やはりアンカハスのために最善を期したいのです。

井岡戦の契約書にサインしたアンカハス(中央)。左はギボンズ・プロモーター。右はジョベン・ヒメネス・トレーナー 写真提供:Sean Gibbons
井岡戦の契約書にサインしたアンカハス(中央)。左はギボンズ・プロモーター。右はジョベン・ヒメネス・トレーナー 写真提供:Sean Gibbons

 新型コロナウイルスの影響がなければ30秒で終わるような容易な交渉のはずが、パンデミックのおかげでジャッジ、隔離の期間、方法などを話し合わねばならなくなりました。日本では同じ時期にゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)対村田諒太(帝拳)という巨大興行が計画され、調整しなければいけないことが多かったのは事実です。ここで2つの興行が成立し、すごい年末になりますね。アンカハスの誕生日は1月1日なのですが、素晴らしいニューイヤー、素晴らしいバースデーを迎えたいものです。

勝てば夢の井上尚弥戦も視界に

 今後のアンカハスはもう無名相手の防衛戦ではなく、統一戦、井上尚弥(大橋)戦といった重要な試合だけがターゲットになります。井岡との試合に勝てば、アンカハスは絶好の位置に身を置くことになります。その時にはチョコラティート、エストラーダの勝者との統一戦が改めて視界に入ってくるでしょう。

 また、井岡に勝てば日本での知名度も上がるので、バンタム級に上げての井上戦はビッグファイトになります。最近のアンカハスは減量時に最後の3パウンドを落とすのが容易ではなくなっており、バンタム級に上げた方が強さを発揮できるというのが私の考え方です。

 過去5年間、アンカハスは対戦相手の質で批判を受け、ここ2年はパンデミックのおかげでビザを取得すること、フィリピンを出ることが難しくなりました。おかげで試合ペースが落ちましたが、これから先、アンカハスが真のレガシーを築き上げる戦いが始まろうとしているのです。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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