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「日本で村田諒太となぜ戦うのですか?」最強王者ゲンナジー・ゴロフキンとの一問一答

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

12月29日 さいたまスーパーアリーナ

WBAスーパー、IBF世界ミドル級タイトル戦

WBAスーパー王者

村田諒太(帝拳/35歳/16勝(13KO)2敗)

12回戦

IBF王者

ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン/39歳/41勝(36KO)1敗1分)

 *今回の一問一答はゴロフキン側の広報を通じたEメールの交換で行われた

日本リング登場を望んだワケ

――あなたは数年前から日本で戦うのを楽しみにしていた印象があります。来日を熱望した理由はどこにあったのでしょう?

ゲンナジー・ゴロフキン(以下、GGG) : プロでは今回の試合が日本での初めての試合になりますが、アマチュア時代に日本で1戦をこなし、それは私にとって素晴らしい経験になりました。当時の記憶は良い思い出として残っており、いずれビッグイベントで日本に戻りたいと望むようになったのです。2人のチャンピオンが戦うわけですから、村田諒太との対戦はビッグイベントです。日本にはボクシングの豊富な伝統があり、ファンは情熱的です。そんな環境の中で戦えるのであれば、私はどこにでも行きます。これほどの規模のスポーツイベントで1年を締め括れるのは最高です。

――村田選手との戦いには現時点でどのような意味があるのでしょう?新たな挑戦?ミドル級統一への過程?それとも大金を稼ぐ機会でしょうか?

GGG : ボクシングはスポーツであり、その部分こそが私にとっての優先順位です。私はこのスポーツを愛し、リスペクトしており、ビジネス面によってそれが覆い隠されることはありません。私と諒太の対戦はファンを喜ばせるはずですし、この試合の実現はボクシング界にとっても良いこと。2人のチャンピオンが対戦し、誰が最強かを決めるわけですから、単なる1戦以上の意味があります。私たちには互いに証明すべきものがあり、この試合はテストでもあります。また、今戦が諒太の母国で開催されることも私は喜ばしく感じています。最高の雰囲気になるでしょう。

――村田選手の印象、あなたが考える長所と短所を話してもらえますか?

GGG : 私は諒太に多くのリスペクトを抱いています。彼はオリンピックで金メダルを取り、プロでも世界王者になりました。1戦ごとに向上しており、それは前の試合で見せた欠点をトレーニングキャンプで克服し、さらに上達するという意思を持っているからこそ可能になることです。諒太が達成したことは、心身両面のハードワークがなければやり遂げられないこと。私が考える彼の長所と短所に関しては、試合前に明かすつもりはありません。それらは試合で示されるでしょう。

――村田選手とは過去にスパーリング経験がありますが、どんな内容だったかを覚えていますか?直に接した村田選手の人柄をどう感じましたか?

GGG : 諒太とのスパーリングのことは覚えています。質の高い練習になりました。諒太はガッツのある選手で、それはスパーリングでも示されました。彼と彼の陣営は私との手合わせを非常に真剣に捉えていて、貴重な経験にしたいという気持ちが印象的でした。彼の人柄に関してはそれほどよくは知りませんが、非常に誠実で、ボクシング界における自分の役割を真摯に受け止めているという印象を受けたのも覚えています。日本のファンが彼のことを誇りに思う理由がそこでわかったような気もしました。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

日本の人々のエナジーに触れたい

――今後、試合前までのスケジュールを話してもらえますか?来日はいつになるのでしょう?

GGG : ストレングス&コンディショニングのトレーニングはカリフォルニア州ビッグベアでのキャンプ中にすべて終えました。今はフロリダ州フォートローダーデイルの温暖な気候の中で練習を続けています。日本到着はまだ未定。隔離の日程次第にもなって来るのですが、近いうちにはっきりするでしょう。

――日本にもあなたのファンは多く、敵地でもブーイングされるようなことはないと思います。ファンからのどんな反応を期待していますか?

GGG : もちろんほとんどのファンが諒太を応援することはわかっていますよ。私も彼のことは好きですから、それは当然ですし、気にはなりません。会場のファン、世界中の視聴者はすごい試合を目撃することになり、日本のファンがそんな戦いに敬意を払ってくれることもわかっています。日本のファンには、このような巨大なインターナショナルイベントを開催することを誇りに感じてほしいですね。

――依然として続くパンデミックの中で、来日直後は隔離を余儀なくされることに不安は感じませんか?また、機会があれば、試合以外で日本で経験してみたいことはありますか?

GGG : 隔離に関しては何も心配はしていません。どんな状況かはわかっていますし、すべてを理解した上で私はこの試合を承諾したのです。日本では人々の活力あふれる雰囲気に直に触れてみたいですね。それができれば素晴らしいと思います。

――ここに辿り着くまでにあなたはすでに多くを成し遂げてきましたが、戦い続ける上で何がモチベーションになっているのでしょう?

GGG : 私は競争者であり、常にベストの自分を追い求めたいのです。日々、ハードワークを自身に課しており、それができることは喜びです。新たな目標は常に頭に浮かんできます。また、私は2010年から10年間、世界王者であり続け、今でも世界チャンピオンですから、その立場であり続けたいという気持ちもあります。

宿敵カネロとの第3戦は実現するのか

――アメリカでのキャリアを少し振り返っていただくと、あなたはある時期からほとんど神格化されるようになりました。もちろんすごいパフォーマンスを見せたからそうなったわけですが、周囲の期待を重圧に感じたことはなかったですか?

GGG : プレッシャーを感じたことはありませんよ。ファンを喜ばせるのは好きでしたが、それ以上に、トレーニング、パフォーマンスで自分自身を満足させたいという気持ちの方が優ってきました。自分の能力とポテンシャルは理解しており、試合ごとにそれを発揮できるだけの準備をすることが何よりも大事だったのです。トレーニングキャンプの度ごとに、自身の限界を試してきたつもりです。それらをやり遂げられてきたからこそ、プレッシャーを感じる必要はなかったのでしょう。自分自身に正直でいることが何よりも重要なのです。

――宿敵サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)との第3戦はまだ望んでいますか?現状では実現するとすれば1階級上のスーパーミドル級での対戦になると思いますが、それでも構わないでしょうか?

GGG : カネロとの第3戦を表現するなら、株価の上昇を待っている感じですね。それがIPOのレベルにまで達すれば、私たちは戦うことになるかもしれません。

カネロとの対戦は1敗1分。2戦ともゴロフキンが勝っていたという見方もある
カネロとの対戦は1敗1分。2戦ともゴロフキンが勝っていたという見方もある写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

――あなたはアメリカでもスーパースターと称されるボクサーになりましたが、特にカネロとの第1戦で判定勝ちを収めていたらもっと大きな存在になっていたでしょう。カネロとの2戦での微妙な結果について今でも考えることはありますか?

GGG : もうかなり前に、それらの試合に関しては考えることはなくなりました。関わったものたちは真実を知っているし、彼らこそがそれに対処していかなければならないのです。知識がある人たちは、誰が勝ったのかをわかっているはずです。

――カネロとの2戦後、公の場で英語を話さなくなった理由は?

GGG : 母国の言葉で喋った方が、自分が考えていることをより正確に表現できると感じたからです。

――もちろんまずは村田選手との試合に集中しなければいけませんが、村田戦後に成し遂げたいと思っていることはありますか?

GGG : 決まっているのは母国に帰り、家族と一緒に新年を祝うことだけ。諒太との試合はあまりにも大きく、重要なので、その先のことはまだ考えられません。

――来年で40歳になりますが、引退後に何をするかを考えていますか?

GGG : 私はまだ現役のプロボクサーなので、その質問に応える準備はできていません。また新しいスタートになると思いますが、“人生は40歳から始まる”なんて言葉もあるくらいですから、やるべきことはたくさん見つかるはずです。まずは家族と一緒に人生を楽しむことが優先項目になるのでしょう。特に父親として、忙しい日々を過ごすんじゃないでしょうか。

Photo By Tom Hogan/GGG Promotions
Photo By Tom Hogan/GGG Promotions

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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