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伊藤雅雪対三代大訓のノンタイトル戦でなぜ仕掛けるのか プロモーターが明かす舞台裏

杉浦大介スポーツライター
写真:山口裕朗/アフロ

12月26日(日本時間) 東京都 墨田区総合体育館

ライト級10回戦

伊藤雅雪(横浜光/29歳/26勝(14KO)2敗1分)

三代大訓(ワタナベ/26歳/9勝(3KO)1分)

 A-Sign Boxingが重要な興行に向けた準備を進めている。

 12月26日のメインには伊藤対三代という国内トップクラスの好カードを据え、アンダーカードにも世界挑戦経験者の赤穂亮(横浜光)、メキシコ帰りの坂井祥紀(横浜光)、デビューから9連勝(8KO)で売り出し中の佐々木尽(八王子中屋)といった注目選手がずらり。特異なキャラクターで8月31日に新宿フェイスで行われた興行では話題を呼んだ山口拓也(W日立)も登場するなど、豪華なラインナップを揃えてきた。

 この興行をより多くのファンに見てもらいたいと願う石井一太郎プロモーターは、テレビ局から放映権料を受け取った上での深夜録画放映ではなく、あえてYouTubeでの生配信を選択。雰囲気のある会場作りにも全力を傾け、「海外遠征に出た際にアメリカで見た景色を墨田区総合体育館で再現したい」と熱い思いを述べている。

 そんな意欲をファンも汲み取ったか、クラウドファンディングにもすでに1850万円以上が集まった。このペースなら、目標とする2500万円への到達も有望。このままいけば、12月26日はノンタイトル戦がメインの興行としては異例の規模を誇るイベントになりそうである。

 本番まで3週間を切り、石井プロモーターにこのイベントへの思いを聞いた。豪華ゲストも迎えた勝負興行を前にしたプロモーターの言葉からは、ビッグイベントを主催する興奮と不安の両方が浮かび上がってくる。

クオリティにこだわった勝負興行

ーー今回、8月31日の興行以来となるクラウドファウンディングを行い、ファンからの支援を求めた理由はどこにあったのでしょうか?

石井一太郎会長(以下、II) : 新型コロナウイルスの影響による試合枯れの状況があったので、8月31日は興行自体を売り物にクラウドファウンディングをやりました。だからといって毎回行うわけではなく、クラウドファウンディングは自信を持った興行のときにしかやりません。その点、今回はメインの格もありますし、アンダーカードにも良い試合を組み込むことができました。クオリティとしてこれだったら恥ずかしくないという思いがあります。

ーー8月31日の興行ではクラウドファウンディングの総額は約360万円ほど。今回はチケット代、激励賞、グッズ売り上げ、A-Sign Boxingへのサポートなどですでに1850万円以上と試みは成功していますね。

II : 今回はチケットの売り上げもクラファンの中に食い込んでいるので、ある程度、大きい数字もいくかなとは思っていました。チケットはだいたい一番高い席と一番安い席から売れていくものですが、高い席ばかり買われているんですよね。チケットも1500枚くらい刷っていて、高いものから売れていっているからこういう金額になっているんだと思います。

ーーファンの期待に応えるため、ライトアップなど、会場内の雰囲気作りにもかなり力を入れるつもりなんですよね?

II : おかげで経費はどんどん積み上がってます(笑)。生配信、撮影で8月31日の興行のだいたい倍の70万円くらいかなと思っていたところが、すでに200万円以上。墨田区総合体育館はこういったイベントをやる仕様ではなかったのが大きかったですね。世界戦がよく行われる大田区総合体育館なんかではそういうイベントをやる前提で建物が作られていて、装備が施設に備わっているんです。それが墨田区総合体育館は本当に体育館なので、1から全部作らなければいけなかった。そういったところで経費が莫大にかかっています。

ーー当日はカメラが4台入り、近くからの映像を撮るためにクレーン車も使用するそうですね。

II : カメラ4台は世界タイトル戦と一緒だって言われました。12月31日の井岡一翔(Ambition)対田中恒成(畑中)戦に関わっている関係者からは、そっちにもヒケをとらないなんて言われたりもしていますね。

ーー元世界王者の山中慎介さん、元プロ野球選手でタレントの長嶋一茂さんがスペシャルゲストに決定したこともすでに発表されています。

II : イベントの格を考えて招待しました。格は周囲が作るもので、こっちが用意しなきゃいけないものですからね。長嶋さんは伊藤雅雪の推薦もあり、ボクシング関係者ではない人にも加わってもらおうということになったんです。

業界関係者にも見て欲しい

ーー少し話は戻りますが、今回このような豪華な興行を開催したいというアイデアはどこから出て来たのでしょう?

II : テレビで生中継される世界タイトル戦以外で、ボクシングの試合を生で見れる機会ってなかなかないじゃないですか。会場に行かないとライブでは見れないですが、今は後楽園ホールにも700人しか入れない。こういう状況だからこそ、僕たちはどうやったらもっと見てもらえるかという部分を常に意識してやっています。とにかく多くの人に生で見てもらいたいという思いで会場も大きくしたし、YouTubeで生配信という形にしました。8月31日の興行は同時接続で5000人くらい見てくれたんで、今回は1万5000人、2万人を狙っています。それをやり遂げたときにどういう化学反応が起きるか、僕らも見てみたい。あとは、日本人同士のノンタイトルマッチでも、こういうイベントができるというのを見せたいという気持ちもあります。

ーーメインをはじめ、好カード揃いだけに、通常通りの運営でもファンは十分に満足してくれそうな気もします。それでもこれほどの舞台を用意した意図は?

II : 体育館で普通に試合を進行していたら、めちゃめちゃ味気なくなってしまうんですよね。せっかくこれだけのカードを提供しているんだから、勝負したいという思いがあります。舞台だけ豪華にしても試合内容がもう一つだったら物足りないですけど、今回のカードだったら派手にやってもいいんじゃないかなと。一般のファンだけでなく、業界内に見せたい部分もあります。他のプロモーターだったら後楽園ホールで開催すると思うんですけど、その場合とは動くお金も違います。費やしているけど、それだけのお金が入ってくるんだというところを業界の人にも見てもらいたいですね。

ーークラウドファウンディングの数字に表れている通り、ファンは好意的ですね。

II : ボクシングファンはもうみんな諦めていたところもあって、だからこそ僕らに協力してくれる。「こういうのを待っていた」「こうやってくれる人を待っていた」みたいな反応なので、だから好き放題やっています(笑)

ーー目標に掲げていた“アメリカで見た景色を墨田区総合体育館で再現する”は達成できそうですか?

II : 設備はすべてイベント会社に頼んでいるんですけど、正直、当日の会場がどんな雰囲気になるのかは当日にならないとわからないところもあります。蓋を開けてみたらこれかよっていうことにならないように、アメリカの興行の写真や動画を見せて、実現させて欲しいと話してあります。ただ、前例のないことなので、本当にどうなるかは当日にならないとわからないんですよね(笑)

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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