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バンタム級最強を目指すWBO2位マロニーに直撃「井上尚弥に勝てると信じています」

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams/Top Rank

6月25日 ラスベガス

MGMグランド ボールルーム・カンファレンス・センター

バンタム級10回戦

WBO2位

ジェイソン・マロニー(オーストラリア/29歳/21勝(18KO)1敗)

7回終了TKO

レオナルド・バエズ(メキシコ/24歳/18勝(9KO)3敗)

*インタビューは6月29日、電話で行われた

キャリア最高の瞬間

――25日のバエズ戦で快勝し、試合内容の良さで評価を上げました。今の気分はいかがでしょう?

ジェイソン・マロニー(以下、JM): もちろん気分は良いですよ。とても幸福です。あの試合の内容は自分としても満足できるもので、これまでのキャリアでも最高の瞬間でした。目標である世界タイトル再挑戦に近づき、今後に向けて大きな一歩を踏み出せたと思います。自分の将来がさらに楽しみになりました。

――試合を振り返って、自身の何が良かったと思いますか?

JM : ほとんどすべてが上手くいった試合でした。リングに立つ前にバエズの映像をよく見て、トレーナーと一緒に作戦を考えたのですが、そこでパーフェクトなファイトプランを授けてもらえたことに感謝しています。やるべきことをやり、やるべきでないことはやらなかった。自分のパフォーマンスに満足しています。

――具体的にはインファイトの上手さで称賛されました。距離を詰め、インサイドで戦うことが事前からのプランだったんでしょうか?

JM : いや、そんなことはないですよ。まずはジャブをついてアウトボクシングし、必要に応じてサイドに動き、彼の射程距離に長居しないように心がけました。距離が詰まった際には彼の胸をプッシュし、私の馬力を生かしたことも上手くいきました。ただインサイドに入るだけでなく、イン、アウトの両方でバランスよく戦おうとしたつもりです。そのプランが功を奏し、開始直後から最後までファイトをコントロールできたのです。

――今回はESPNで生中継されるイベントのメインという大舞台でした。アピールのためにも、KOを望む気持ちはあったんでしょうか?

JM :KOしようと考えて戦ったわけではありません。もちろん理想を言えば、すべての試合をKO勝ちで終わらせたいものです。一生懸命に練習した結果、良い試合をして、KOを手にできれば最高ですからね。ただ、今回の試合ではゲームプラン通りに戦うことが重要で、そうしたおかげで徐々に相手を崩すことができたのだと思います。7ラウンド終盤には、ストップ勝ちはもう時間の問題だと感じながら戦っていました。

ーーあなたの試合の2日前、双子の弟アンドリューが初黒星を喫し、WBA世界スーパーフライ級王座を失いました。そんな結果を見て、モチベーションを掻き立てられたのでしょうか?それとも普段通り、自分の戦いに集中したのでしょうか?

JM :おそらくモチベーションになっていたのでしょう。弟のハードワークを目の当たりにしてきた私にとって、彼の敗北を見るのはとても辛いことでした。だから絶対に勝たなければいけないとは感じていたのは事実です。その一方で、あの日の私はしっかり集中し、自分のファイトのことだけを考えられていたとは思います。

Photo By Mikey Williams/Top Rank
Photo By Mikey Williams/Top Rank

”バブル”でのクレイジーな日々

ーー今回の試合はMGM内の隔離された空間で開催されました。もちろん初めての経験だったと思いますが、(隔離された)いわゆる“バブル”で生活した印象は?

JM : クレイジーな環境でしたが、トップランクは素晴らしい仕事をしてくれました。すべてがカバーされていて、全員の安全を配慮し、試合を無事に行うために最大限の努力をしてくれていたと思います。多くの検査を受けましたし、どこにいってもマスク着用、消毒、検温が義務付けられていました。ホテルの部屋からも自由には出られず、ジムで練習できる時間は定められていて、誰かがトレーニングした後にはすべて消毒されていました。とても厳格な規則があり、現状ではそれが必要だということ。そうすることには賛成ですし、おかげで無事にファイトできたのだと感じています。

ーー“バブル”では全部で何日間を過ごしたんでしょうか?

JM : 6日間ですね。本来であればもっと短いはずなのですが、23日に弟の試合があったため、私も早めに会場入りしたんです。”バブル”に入る前にラスベガスで6週間を過ごし、準備を続けてきました。

ーー今後のプランについても話して下さい。ラスベガスでもう1戦を行うという報道も見ましたが、このまま滞在するんでしょうか?

JM : 実は今日、ボブ・アラムとトップランクのオフィスで話し合い、私たちは明日の朝にオーストラリアに帰国することになったんです。母国で休養し、ジムで練習し、準備を整え、またラスベガスに戻ってくるつもりです。少し早まる可能性もありますが、次の試合はおそらく9月になると思います。対戦相手は誰でも構わないと、今日、トップランクの人間に伝えたところです。私の目標は世界王者になること。挑戦できるのであれば、世界タイトルを持っている王者の誰でも構いません。バンタム級の誰と戦っても勝てると信じています。

ーー明日、帰ることになった理由は?ご自身の希望だったのでしょうか?それともトップランクのプランですか?

JM : 現在、トップランクは毎週2、3の興行を行っていますが、(8月以降は)ペースが落ちるとのことでした。おかげで今後は試合をこなす選手はより限られます。それに加え、私とアンドリューはタフな試合を経験したので、少し休む必要もあります。そういった理由で、一度家族のもとに帰ることになったのです。準備が出来次第、またすぐに戻ってくるつもりです。

いずれ日本で井上戦も?

ーーバンタム級で戦い続けるのであれば、WBA、IBF王者・井上尚弥(大橋)選手との対戦も視界に入ってくるはずです。井上選手の印象を聞かせてもらえますか?

JM : 井上は素晴らしい選手であり、現在のバンタム級では彼が主役(The Man)であることは疑いもありません。私の目標は世界最高のバンタム級として認められることですから、もちろん井上とも戦いたいと思っています。彼の力量には莫大なリスペクトを抱いていますが、私は彼に勝てると信じていますし、それを証明できる機会が来ることを願っています。

ーー井上選手は次戦でWBO王者のジョンリエル・カシメロ(フィリピン)との統一戦を予定しています。あなたはWBO1位に上がる可能性が高く、そうなったらこの試合の勝者への指名挑戦者ということになります。井上対カシメロはどんな展開になると予想しますか?

JM : 私も楽しみにしているファイトです。スキルと総合力で上回る井上が勝ち残ると予想しますが、カシメロは危険な選手ですので、イージーな試合だとは思いません。興味深く見守るつもりですし、勝者と対戦できるのを楽しみにしています。

ーーいずれ井上選手と対戦するとしたら、場所はやはりラスベガスが希望ですか?それとも日本でも構いませんか?

JM : 彼の家の庭でも良いし、いつでも、どこでも構いません(笑)。いつか日本でも戦いたいんですよ。まだ日本に行ったことはないですが、日本人選手のことは深くリスペクトしていますし、日本食も大好きです。

 注) His backyard(彼の庭)はスポーツでよく使われる表現。「対戦相手の本拠地、快適に感じる場所での対戦でも構わない」といった意味で用いられる

左は双子の弟アンドリュー。2人とも爽やかな笑顔の好漢だ。 Photo By Mikey Williams/Top Rank
左は双子の弟アンドリュー。2人とも爽やかな笑顔の好漢だ。 Photo By Mikey Williams/Top Rank

ーーあなたはもともと4月に井上対カシメロのセミファイナルでWBO1位のジョシュア・グリーア Jr.(アメリカ)と対戦予定でした。そのグリーアが16日に無名のマイク・プラニア(フィリピン)に敗れたことには驚かされましたか?

JM : いえ、特に驚きはしませんでした。私との対戦が流れ、代わりにより容易なはずの相手と戦かったにもかかわらず、グリーアは敗れました。これで彼のランキングは下がり、私が1位に上がるはずです。

ーー近いうちに世界戦が実現すれば、あなたにとって2度目の世界挑戦となります。2018年10月、IBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)には僅差の判定負けを喫しましたが、あの試合でどんなことを学びましたか?

JM : 本当にたくさんのことを学びました。ロドリゲスに負けた後、決して現状に満足せず、さらなる向上を渇望するようになりました。もっともっと強くなりたいし、そのためなら何でもやるつもりです。このスポーツにすべてを捧げ、最高の自分を引き出していくつもりです。18ヶ月前、初めての世界戦で悲願を達成できなかったのは残念でしたが、それ以降、私は様々な面でより良いボクサーになっているはずです。パワーが増し、精神的に成熟し、ボクシングIQにも磨きをかけてきました。バエズ戦でも良いパフォーマンスができて、今では私の上達に多くの人が気付いているに違いありません。ロドリゲス戦でも近くまで迫りましたが、今度こそ世界王者になるという夢を叶えるつもり。その自信もあります。

ーーキャリアの最終目標は?

JM : 現在の目標はまず世界王者になることですが、それを叶えたら、今度はバンタム級の4団体統一王者になりたいですね。リングマガジンの王者としても認められ、バンタム級最高の男になりたいのです。

●プロフィール

ジェイソン・マロニー。1991年1月10日生まれ、オーストラリア出身。プロデビューから17連勝を飾り、2018年10月にIBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に挑むも僅差の判定負け。その後、4連続KO勝利で世界ランクを上げてきた。昨夏、トップランクと契約し、世界再挑戦の機会をうかがっている。双子の弟アンドリューは前WBA世界スーパーフライ級王者。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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