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米最王手トップランクと契約を結んだイケメン王者 伊藤雅雪(WBO世界Sフェザー級王者)インタヴュー

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams/Top Rank

5月25日 フロリダ州キシミー

WBO世界スーパーフェザー級タイトル戦

王者

伊藤雅雪(日本/28歳/25勝(13KO)1敗1分)

挑戦者

ジャメル・ヘリング(アメリカ/33歳/19戦(10KO)2敗)

注・今回のインタヴューは4月12日、ロサンジェルスのMaywood Boxing Clubで収録された。The Answerの「伊藤雅雪は世界的なスターになれるのか? ロマチェンコとのメガファイト実現の可能性」に一部が掲載されている。

LA修行開始がキャリアの分岐点

 

ーー試合まであと約1ヶ月半のこの時期、特に気をつけなければならないことは何でしょう?

MI : 今はハードワークができる時期なんで、それをちゃんとこなすことですね。日本で身体作りはしっかりやって、スパーリングもやってきて、身体は一回作ってあります。ここから体重を落としたりする中で、ハードワークをして、それでいてケガをしないことが大事。疲れがたまってくるとケガはあり得ることなんで、1日1日、気を遣わないといけないと思います。今週から来週前半くらいまでは、“抜き”じゃないですけど、7割くらい(の力の入れ具合)。しっかり身体が準備できたかなっていうところから、120%でやっていかなければいけません。今のところはいいんじゃないかなと思いますね。

ーー去年、世界王者になった際、2014年夏(注)からロサンジェルスでトレーニングをするようになったのが自身のキャリアにとって大きかったと仰ってました。その気持ちは変わりませんか?

MI : 100%そうだと思っています。日本では一人で練習する時間が長かったんで、あまり技術という技術を知らなかったんです。そのやり方で、日本タイトルあたりで限界を感じたんですよ。左ジャブに関しても、どうやったらいいんだろうと。結構自己流でやっていたんですが、アメリカに来てジャブから教えてもらえたんです。ボクシングってこんないろんなやり方があるんだと、そこからガラッと変わりましたね。

(注)伊藤が本格的に合宿を行うようになったのは2014年夏だが、2013年にも渡米して練習した経験がある。

ーーまさにキャリアのターニングポイントでしたね。

MI : あのまま日本にいたら知らないことばかりだったと思います。そういう意味ではきっかけをくれた応援してくれる方々、「またおいで」といってくれた大介さん(岡辺大介トレーナー)は“恩人”と言ったら大げさですけど、自分のボクシング人生ですごく大事な人たちですね。

ーー世界王者になり、日々の生活はかなり大きく変わりましたか?

MI : すごく変わったなと思いますね。世界王者になったからといって僕が一番ではないですし、まだやることはたくさんあります。日本にも、アメリカにも、どこに行ってもセンスのある選手はたくさんいます。自分もまだまだだなって思いますけど、でも世界チャンピオンってオンリーワンじゃないですか。(周囲の人が)そういう対応をしてくれるようになって、ファイトマネーの額も変わりましたし、皆さんの目も変わりました。テレビに出ることもありますし、そういう意味ではすごく変わったなとは思いますね。まだまだ上がいるのはすごく理解しているんで、勘違いしないように。変わらずに頑張らないといけないし、余計に気が引き締まりますね。

ーー今回、トップランクと1年間3戦の3年契約を結び、日本だけでなくアメリカでの知名度も上がっていきそうですね。

MI : チャンピオンとして良い契約をして下さったと思うんで、期待を感じます。(昨年7月に)クリストファー・ディアス(プエルトリコ)に勝ってからすぐにトップランクは“またうちで試合をして欲しい”といった感じだったので、期待してもらえているなというのはその時から感じてました。ちゃんと勝って結果を出せば、成り上がれる。そこにすごくワクワクしていますね。

まずはヘリング戦、そして

ーー5月にヘリング戦が決まっていますが、個人的にも伊藤選手はアメリカでもスターになる現実的なチャンスがあると思ってます。

MI : 成り上りじゃないですけど、僕のようになんでもない奴がチャンピオンになって、トップランクと契約して・・・・・・夢があるじゃないですか。だから自分でもすごくワクワクしています。僕がディアスに勝つと思った人は少なかったはずです。そういうサプライズを繰り返していければ、仰る通り、本当にこっちでもスターになれると思います。これで僕がミゲール・ベルチェル(メキシコ)を倒したらとか、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に勝ったらとか、思うだけですごいじゃないですか。まずその対象になること。今でも伊藤とやったらという声は聞こえてきますけど、まだ現実的ではない。ヘリングを倒したら見えてくる世界が変わるのかなと思うんで、今回はその第一歩ですね。

ーーまずはヘリング戦ですね。海兵隊出身の元オリンピアンというバックグラウンドが珍しいので、ヘリングはアメリカ東海岸では存在感のある選手ではあります。

MI : 人気があるみたいですね。

ーーうーん、人気というよりも知名度がありますね。一応みんな名前は知っている選手といった感じです。ボクサーとしてのヘリングの印象を話してもらえますか?

MI : 長身サウスポー、キャリアがある、オリンピックに出ている。やっぱり崩れないのかなという印象があります。あとサウスポーにしか負けてないんですよね。アマチュア経験があり、右が得意なのかな。そんな相手をカウンターで倒せれば楽なんですけど、そんなことはなかなか起きない。キャリアがあって崩れない選手で、気合も入っているだろう相手をKOで倒すというのは簡単ではないと思うんで、僕のハートの部分を仕上げていかなければいけません。見ている限りではそんなにスピードが突出しているわけでもないですし、パワーが特別かといったらそんなこともない。ちゃんと戦えば通用すると思うんで、あとは気持ちの部分でどこまで相手を叩きのめせるか。絶対あきらめないと思うんで、気持ちの勝負になると思います。

ーーあきらめないであろう挑戦者をやはりKOしたいですか?

MI : この試合は勝つことが目的じゃないと思いますね。やってみて、結構いけるなと思った時に、安パイな試合をするのか、僕の気持ちを見せる試合をするのかで、たぶん今後に開ける未来がすごく変わってくる。ボクシングの世界でやっていて、防衛戦でいくら稼ぐとかそういうことを考え始めたら終わりだと思っています。やっぱり夢を見なきゃいけない。どれだけリスクがあっても、勝ったときのリターンの方が大きいのであれば倒しに行かないと。その気持ちは絶対に出さなければいけないと思います。

後編「日本ボクシング史上最大級の一戦、ロマチェンコ戦へと通ずる道」に続く

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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