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”戦う王者”テビン・ファーマーがハイペースで3度目の防衛に成功 ジャーボンタ・デービス戦は実現するか

杉浦大介スポーツライター
Ed Mulholland / Matchroom Boxing USA

3月15日 フィラデルフィア リアコーラスセンター

IBF世界スーパーフェザー級タイトル戦

王者  

テビン・ファーマー(アメリカ/28歳/29勝(KO)4敗1NC)

12回判定(117-110, 117-111, 117-111)

挑戦者

ジョノ・キャロル(アイルランド/26歳/16勝(3KO)1敗1分)

チャンピオンが順当勝ち

 試合後に「自己採点はBマイナスかCプラス」と述べていた通り、ファーマーにとって必ずしも会心の出来とは言えなかったはずだ。

 執拗にボディを狙ってくるキャロルに対し、的確さで勝って明白な勝利を手にした。ディフェンスの安定感と、高速コンビネーションも健在。11回には右フックのカウンターで相手をストップ寸前に追い込み、地元フィラデルフィアに集まった5246人のファンを喜ばせる見せ場も作った。

 「(キャロルは)大口をたたいたが、それだけのことはやった。素晴らしい試合になったよ」

 サウスポー同士の対戦がファンを喜ばせる内容だったことは確かである。

 もっとも、セント・パトリックデイ週末の初挑戦で決意の感じられたキャロルの手数を、特に前半のファーマーはやや持て余し気味でもあった。流麗なムーブメントとカウンターパンチに秀でた王者がより優れたボクサーだったことは明らかで、本人は完勝したと思っていたのだろうが、ディフェンス重視の時間帯も頻繁なため、採点の難しいラウンドが多かったのは事実。おかげでリング誌の記者が114-114のドローとつけたのをはじめ、実力差以上に拮抗した採点のメディアはリングサイドに少なくなかった(筆者は116-112でファーマー勝利)。

 タフなアメリカ東海岸で叩き上げたファーマーが、リスペクトに価するスキルを持っていることは間違いない。その捉えにくさゆえに、対戦相手にフラストレーションを感じさせる王者であり続けるだろう。それでも、元来のパワー不足もあり、今のスタイルでは一昨年12月の尾川堅一(帝拳)戦のように自身が明白に勝ったと思った試合でも相手にポイントが流れることはあるかもしれない。

マッチメイクの難しさ

 ともあれ、昨年8月の戴冠以降、10、12、3月と矢継ぎ早に3度目の防衛を果たしたファーマーはすっかり現代の“戦うチャンピオン”になった。

 DAZN、ESPN+のいわゆる“ストリーミングマネー”のおかげで、昨今は新たに高額の複数戦契約を受け取る選手が続出。見栄えのしない戦績の技巧派ながら、DAZNと契約以降の3戦で合計100万ドル以上いう報酬を手にしてきたファーマーはその代表格と言える。

 前戦はマディソン・スクウェア・ガーデンでサウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)がメインを務めた大興行のセミファイナル、今戦では地元凱旋防衛戦と、順調に階段を上がっている印象もある。

 ただ、必ずしも層が厚いとはいえない階級で、これから先のマッチメイクの持って行き方は少々難しくなる。同級のWBC王者ミゲル・ベルチェル(メキシコ)、WBO王者伊藤雅雪(伴流)はともにESPNとの結びつきが強く、DAZN傘下のファーマーとのマッチメイクは容易ではない。

 WBA王者ジャーボンタ・“タンク”・デービス(アメリカ)との統一戦もこれまで何度も話題になっているが、PBCの大事なスター候補であるデービスとの対戦交渉の難しさはベルチェル、伊藤戦以上だろう。

デービス戦の意味

 「みんなデービス戦を見たいと思っているが、テビンはすでにアメリカの業界での価値の高さを示してきた。4ヶ月間で3度も防衛したんだからね。一方、タンクは5年間で世界戦3戦のみだ。(この試合が実現すれば)テビンのレガシーを確固たるものにするファイトになるだろう」

 ファーマー対キャロル戦後、エディ・ハーン・プロモーターのそんなコメントを聞いても、やはり統一戦の成立には楽観的にはなり難い。商品価値では上回るデービスの実績を否定するような姿勢を継続する限り、交渉の進展は簡単ではないからだ。

 フィラデルフィア出身のファーマー、メリーランドに拠点を置くデービスという近郊都市のライバルが激突すれば、特にアメリカ東海岸では大きな注目を集めることは確実。報酬も双方にとってこれまでで最高になるはずだ。両者のキャリアにとっても意味は大きい一戦だけに、交渉の難解さを理解した上で、何とか着地点を見つけて欲しいと願わずにはいられない。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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