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NYでシンデレラボーイ誕生なるか 高橋竜平(横浜光)IBF世界Sバンタム級タイトル戦直前インタヴュー

杉浦大介スポーツライター
撮影・杉浦大介

1月18日 ニューヨーク マディソン・スクウェア・ガーデン・シアター

IBF世界スーパーバンタム級タイトル戦

王者

TJ・ドヘニー(アイルランド/32歳/20戦全勝(14KO))

挑戦者

高橋竜平(横浜光/28歳/16勝(6KO)3敗1分)

約10日前に決まった大勝負

ーー直前に決まった世界タイトル挑戦というのが話題になっていますが、最初に話があったのは昨年12月だったんですよね?一応1ヶ月強は準備期間があったということでしょうか? 

RT : (ロサンジェルスでの)合宿中の12月1、2日くらいに(石井一太郎)会長が来て、その日に世界戦の話があるっていう話を聞きました。そこから一応準備はしていました。正式に決まったのは10日くらい前だったんで、体調、体重のことをよく聞かれるんですが、しっかり準備はしてきたんで問題ないです。

ーーLAでの合宿だけでなく、オーストラリア、タイでの試合経験があるためか、海外で戦うこと自体には慣れている感じが見ていてもします。 

RT : これが海外4戦目になります。(海外では)当たり前が通用しない。僕は浴槽を使って体重を落とすんですけど、今回のホテルには浴槽なかったです。いつものルーティンは通用しないですが、それなら違う方法で落とせばいい。もうある程度予測はできます。そういった意味では、4回目でタフになってきたんですかね。

ーーむしろ海外の方が戦い易いといったコメントも拝見しました。 

RT : それは自分の知り合いが誰もいないんで(笑)。普段は(試合場の)ヤジがもの凄く聞こえてしまうんですよ。海外を経験したあとに3月、9月と後楽園ホールで試合やったんですけど、やり難かったですね。 

ーー高橋選手はかなり運動量が多く、絶えず動いている印象ですが、それでも試合中に観客のヤジは聞こえてくるんですね(笑)

RT : 全然聞こえます。そっちの方を向いちゃいますもん(笑)

Photo By Matchroom Boxing
Photo By Matchroom Boxing

ーー海外戦の話に戻りますが、タイで2戦2勝の日本人ボクサーはなかなかいません。異国でも問題なく力は出せたんでしょうか? 

RT : 2017年12月の試合は相手がそんなに強くなかったんですよ。前に出て、TKOで勝てました。(去年6月の)次の試合の相手は日本でもお馴染みのマイク・タワッチャイという選手。タワッチャイは日本ではしょっちゅう負けてるんですけど、ドヘニーに2-1の判定で負けた以外はタイではほぼ負けなしだったと思います。だから物凄く怖かったですけど、やることは手数と前に出ることと考えて戦いました。

ーータワッチャイにも勝って、IBF環太平洋スーパーバンタム級統一王者になったことはやはり自信になりましたか? 

RT : 「タイで判定勝ちなんて聞いたことないよ」ってよく言われるんですよ。ああ、そうなのか、言われてみたらそうだなと。後からそう言われたりして、自信になったところもありました。

ーー何試合か映像を見させて頂きましたが、自身の持ち味はやはりスタミナと手数でしょうか?

RT : 自分の長所はスタミナ、手数、あとは運動量。それから独特の間合い、トリッキーな動きですね。相手からしたら対戦したことないようなスタイルが武器だと思います。

ーー先ほど、ジムでの練習中には水を口に含んだまま動いていましたが、スタミナ養成のトレーニングでしょうか?  

RT : いえ、あれは最後の汗出しの時にしかやらないんですが、口の中に水を含むことで、喉が渇いていないように脳を騙しているんです。喉が渇いていると、汗が出ないように脳が認識するのかなと思ったんです。水を含みながらやっているとけっこう喉は渇かず、渇かないまま汗が出る。これは僕の独学です(笑)

会場を湧かせたい

ーー具体的に今回の試合の話もして頂きたいんですが、ドヘニーの印象は? 

RT : 2017年12月に僕はドヘニーと同じ興行で試合をしているんですよ。そのときはドヘニーは倒すつもりで前に出ていて、そういう選手なんだなと思いました。ただ、(昨年8月の)岩佐亮佑(セレス)選手との対戦時はアウトボクシング。トップにいる選手は1つだけでなく、なんでもできるんだな、1つしか武器がない選手は通用しないんだなと感じました。器用な選手ですね。

王者ドヘニーは日本で岩佐亮佑(セレス)に勝ってタイトルを奪い、今回が初防衛戦  Photo By Matchroom Boxing
王者ドヘニーは日本で岩佐亮佑(セレス)に勝ってタイトルを奪い、今回が初防衛戦  Photo By Matchroom Boxing

ーー岩佐選手も実際に対戦して戸惑ったのかもしれませんね。  

RT : たぶん岩佐選手も前に出てくることを想定して練習していたと思います。他の試合はすべて前に出てて、ドヘニーが足使ったのってあの試合くらいじゃないでしょうか。

ーー高橋選手にはどういった戦略で来ると考えていますか? 

RT : 向こうは良いところを見せたいと思うんですよね。マッチルーム、DAZNと契約して、MSGの大舞台。だから僕という手頃な相手を選んだわけですし、綺麗なボクシングで魅せるために、足を使ってくると思っています。ただ、僕の方もどちらかといえば相手には足を使って下がって欲しい。どんどん足を使えよっていう感じです。相手が前に出てくるとしたら、それはそれでいつものボクシングなんで、凄く強いと思うんですよ。だから僕が前に出て、足を使わせたいです。

ーーファイトプランは“かきまわして、後ろに下がらせる”?

RT : かきまわす。そうですね。僕はスロースターターとよく言われるんですけど、3、4ラウンド目には自分のペースに持っていけると思うんで、そこから左右の動きだったり、出入りだったり、機動力でかきまわしてやろうかなと。圧倒的な運動量で12ラウンドのゴールテープを切ろうというイメージでやっています。

ーーフルラウンドを想定されているとは思いますが、さっき話があったように、今戦はマッチルームがドヘニーを輝かせるためにセットしたファイトとみなされています。そんな試合で勝つために、できればストップしたいという思いはありますか? 

RT : もちろんTKOは狙いたいです。そうではなくとも、誰がどう見ても高橋の勝ちだなという試合を見せたい。だから圧倒的な手数でいきたいですね。イメージはタイのときのような感じです。

ーーMSGという舞台への思い入れはありますか? 

RT : 実は僕、WOWOW(エキサイトマッチを)見てないんですよ(笑)。だから適当なことは言えないです。ただ、ボクシングの聖地と言われている場所であることはもちろん知っています。

ーーメインアリーナではなくシアターとはいえ、MSGで世界タイトル戦に臨む初めての日本人選手になると報道されています。 

RT : テンション上がるのは確かですが、どちらかといえば恐縮というか、「ごめんなさい」というか・・・・・・。「え、僕が?僕でいいの?」という感じではあります(笑)。

ーーMSGに集まってくる目の肥えたファンに、高橋選手のどういったところを見てもらいたいですか? 

RT : 「なんだこのボクシングは?こんなボクシング見たことない」といった独特なものを表現して、ニューヨークの人たちの心を掴みたいです。最初は「なんだこの日本人は」と思われてしまうのかもしれませんが、見入ってしまうような試合をして、会場を湧かせたいですね。海外って熱いボクシングをしたらみんな乗ってくれるじゃないですか。その感じがもの凄く好きなんです。

世界王者になれば心が満たされる

ーーアマ時代の戦績は10勝10敗ですが、プロでここまでたどり着いたことには自分自身で誇りを感じていますか? 

RT : いえ、僕はまだ何もやっていないです。何も残していないです。だから今回の試合でやり遂げて、初めて誇りに思えるんだと思っています。もともと自分に自信がなくて、コンプレックスのようなものがありました。何か欲しいなと思って、それで高校1年でアマチュアボクシングを始めたんです。ここで世界チャンピオンになることで、自分に自信がつくのかなと思っています。

ーー敵地タイでIBF下部タイトルを取っても、何かを成し遂げた気持ちにはならなかったですか? 

RT : (タイトルを取って、)嬉しかったです。ただ、終わってみて、まだここじゃないなという気持ちはありました。それは変わってないです。

ーーそうやってさらに上を目指す上で、LA修行で学んだことは大きかったですか?

RT : 本当に行って良かったです。行ってなかったら、(トレーナーの)岡辺大介さんとも会ってなかったですからね。そういったことまで含めて、(LAに行くことで)引き寄せたというか、縁が繋がっていったのを感じます。

石井一太郎会長(中央)、岡辺大介トレーナー(右)に見守られながら、マンハッタンのジムで最終調整を行う高橋竜平 撮影・杉浦大介
石井一太郎会長(中央)、岡辺大介トレーナー(右)に見守られながら、マンハッタンのジムで最終調整を行う高橋竜平 撮影・杉浦大介

ーー岡辺トレーナーの良いところとは?

RT : 遠慮したりしないですし、僕のためになる大事なことをしっかり伝えてくれます。まだ付き合いは浅いですけど、裏表がない人です。

ーーLAでは伊藤雅雪(伴流)チャンピオンと一緒に練習し、刺激になりましたか?

RT : 一緒にトレーニングをさせて頂いて、いろいろと話す機会もありました。ボクシングに取り組むときに何を意識しているのかとか、僕が気になることを投げていくとしっかり答えてくれました。シャドーボクシングにしても、やっぱり凄いなと。当たり前のことでも、実際にはみんなできているようで、できていない。伊藤選手はそこが違くて、始まってから3分ちょうどまで1秒も無駄にせず、課題に思っていることを全部つぎ込む。シャドーって本気でやったらめちゃくちゃ疲れると思うんですよ。伊藤選手はそれをやっている。動きを見ていてもわかります。

ーースパーでの印象は?

RT : スパーリングでも、右のガードが空いているときに、(ボディを指差し)強く打たず、トンって叩いてくれるんですよ。そうやって教えてくれる。上の選手はそういう拳の会話ができるんですよね。凄いなと思いました。 格好いいですよ、歳下なんですけど(笑)

ーー今後、世界でも、日本でも、戦ってみたい選手はいますか? 

RT : 日本スーパーバンタム級は層が厚く、レベルが高いと思います。だから国内でトップに立っている選手たちとは戦ってみたいという気持ちはあります。これは誰とは限らずですが。

ーーボクサーとしての最終的な目標は? 

RT : 自分の自尊心を満たしたいです。そのためのゴールがたぶん世界チャンピオンなんですよ。世界王者になっても、たぶんまだ違うなって感じるんだとは思います。でもまずは目の前の世界タイトルを取れば僕は満たされると思うので、ここは頑張らなければいけません。

ーーところで昨年9月にご結婚されたばかりということですが、結婚して何か変わったことはありますか? 

RT : 結婚して次の試合で負けたりしたら、浮かれているからだとか言われてしまう。自分のためだけではなく、家族のためにも、次の試合には負けられない。1つ負けられない理由ができたと思っています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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