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ジェイコブスがデレヴャンチェンコを下してIBF世界ミドル級新王者に カネロとの統一戦は実現するか 

杉浦大介スポーツライター
Photo By Matchroom Boxing

10月27日 ニューヨーク

マディソン・スクウェア・ガーデン・シアター

IBF世界ミドル級王座決定戦

ダニエル・ジェイコブス(アメリカ/31歳/35勝(29KO)2敗)

12回判定(115-112、115-112、113-114)

セルゲイ・デレヴャンチェンコ(ウクライナ/32歳/12勝(10KO)1敗)

ハイレベルな好ファイト

 この2週間で3戦目の世界ミドル級タイトル戦は、同じトレーナー、マネージャーの傘下選手が激突する同門対決となった。馴染みのマッチアップは得てして探り合いになりがちだが、この2人の戦いは序盤からスパークする。

 初回、ジェイコブスがロープ際で放った右オーバーハンドライトでデレヴャンチェンコはダウン。その後は多彩なパンチと的確なカウンターを駆使するジェイコブスと、タフネスと基本に忠実なコンビネーションが売りのデレヴャンチェンコが接戦を繰り広げる。終始ハイレベルな攻防で4691人のファンを沸かせていった。

 特に終盤はウクライナ人が頑張ったために会場は盛り上がったが、全体にジェイコブスの身体能力とポイントを取るうまさが僅かに上回った印象。リングサイドに陣取った記者たちも大方がジェイコブスの勝利を支持しており、僅差での敗北にはデレヴャンチェンコも納得しているようだった。

 「彼は自身の望む角度からパンチを出すことを好み、それを知っていることが私のアドバンテージになることもわかっていた。そして、スパーリングでの経験から、彼は空振りすると疲労しがちなこともわかっていた」

 ジェイコブスのそんな言葉が示す通り、過去に約300ラウンドにも及ぶスパーリングを経験してきたことはプロでの実績で勝る元WBA王者に味方したのだろう。

 年齢では1歳上のデレヴャンチェンコには狡猾さが足りなかった感もある。豊富なアマキャリアを持つウクライナ人が、プロ入り後にももう少し順調に試合を重ねていればこの日の結果は違ったかもしれない(デレヴャンチェンコはルー・ディベラ・プロモーターとの契約満了後に更新の意思はないという)。

群雄割拠のミドル級の核に

 ともあれ、両選手が持ち味を出し合い、クリーンかつエキサイティングなファイトは見応えがあった。最終的には両者ともに商品価値を保ったという意味でも、上質なタイトルマッチだったといって良かったはずだ。

 晴れてIBFタイトルを手にしたジェイコブスは、これでゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)に敗れて以降の19ヶ月間で3連勝。誰も対戦を望まなかった”ハイリスク、ローリターン”の難敵デレヴャンチェンコをも退け、ビッグファイトへの準備を整えたと言って良い。

 ここ2ヶ月の間にゴロフキン、ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)、村田諒太(帝拳)がそれぞれの形で王座を追われ、ミドル級のタイトルホルダーはほぼ一新された。それでもWBA、WBC王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)、ゴロフキン、新WBO王者デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)、WBC暫定王者ジャマール・チャーロ(アメリカ)、新WBA正規王者ロブ・ブラント(アメリカ)、元WBO王者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)といったビッグネームが揃い、群雄割拠のクラスであることは変わらない。

 今後、これらの強豪たちは9月に極小差の判定ながらゴロフキンに初黒星をつけたカネロとの対戦を目指すことになる。そして、その希望者の中にジェイコブスが含まれることは言うまでもない。

 「カネロとの対戦を組みたい。(ジェイコブスが)防衛戦をこなしたいならそうするが、キャリアのこの時点ではカネロ戦に向かうべきだろう」

 ジェイコブスのプロモーターを務めるエディ・ハーンがそう述べた通り、来年5月にラスベガスでカネロ対ジェイコブス戦を挙行というのが多くのメディア、ファンが想定する青写真である。このカードは以前から話に上がっており、カネロが大型契約を結んだばかりのDAZN関係者もそれは認めていた。

12月15日のSミドル級戦後、カネロ側の動きに注目

 ニューヨークでの興行力は意外にもう一つのジェイコブスだが、“Bサイド”としてはほぼ理想的。デレヴャンチェンコ戦でHBOとの3戦契約を終えた新IBF王者はDAZNとの新契約が有力視されており、だとすればカネロ戦のマッチメークはそれほど難しくないはずだ。本来であれば、カネロが12月15日に予定するWBA世界スーパーミドル級王者ロッキー・フィールディング(イギリス)とのタイトル戦後、本格的な交渉がスタートするべきのだろう。

 ただ・・・・・・DAZNと11年3億6500万ドルという途方もない契約を結んだ直後に、カネロがいきなりジェイコブスのような実力者と本当に対戦するのかを疑問視する声もある。カネロにとって、例えば同じゴールデンボーイ・プロモーションズ傘下のデビッド・レミュー(アメリカ)あたりの方がはるかに組みし易いのは事実。そんな背景の中で、すべての鍵を握るメキシコ人王者がフィールディング戦後にどんな選択をするのかが今後の注目になる。

 ともあれ、9月15日のゴロフキン対カネロ再戦を皮切りに始まったミドル級のタイトル戦シリーズはここで一段落。勝ち残ったのはカネロ、アンドレイド、ブラント、ジェイコブスだが、彼らのどれもが“絶対王者”と呼ばれるにはほど遠い。

 そして、敗れた選手たちの多くが完全には脱落していないことがこのクラスの質の高さを物語る。今後も上位選手たちのハイレベルの潰し合いが続けば、2019年もミドル級が最大級の注目階級であり続けることは間違いないはずだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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