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ニューヨーク対ブルックリンの初対決 〜NBAに新ライバル関係誕生か

杉浦大介スポーツライター

ニューヨーカーのためのゲーム

「このゲームで気持ちが盛り上がらないとしたら、いつ盛り上がるって言うんだ?ニューヨーク対ブルックリン。ニューヨークの街のためのゲームなんだ」

ニックスのカーメロ・アンソニーのそんな言葉に、地元の多くのバスケットボールファンは同意したに違いない。

11月26日にブルックリンで行なわれたブルックリン・ネッツ対ニューヨーク・ニックス戦は、ここしばらくのニューヨークで最も大きな話題を呼んだレギュラーシーズンゲームだったかもしれない。

昨季までニュージャージーに本拠を置いたネッツが、今季からブルックリンに移転。10億ドルが投入されて建設された新アリーナ・バークレイズセンターのオープンと足並みを併せ、昨季まで有数の不人気球団だったネッツは一転してリーグ最大級の注目チームとなった。

ニックスとは本来なら開幕戦で激突するはずが、ハリケーン・サンディの影響もあって止むなく延期。約4週間遅れで、同市内のチーム同士の初対戦は26日にようやく実現の運びになったのだった。

「素晴らしい雰囲気になるだろうね。ファンはずっとこのゲームを待っていたし、それは僕たちプレーヤーも同じ。特に今のニックスはイースタンカンファレンスのベストレコードを保持する良いチームだから、対戦には余計に重要な意味があるんだ」

試合前にネッツのデロン・ウィリアムスがそう語った通り、今季好スタートを切ったニックスはこの日まで9勝3敗でアトランティック地区の首位に立っていた。一方のネッツも8勝4敗で2位。両チームが予想以上の好成績を残していることも新たなスパイスとなり、注目度に拍車がかかったのである。

期待以上の大熱戦

超満員17.732人の観衆が見守る中で始まった首位攻防戦は、期待に違わぬ好試合となった。ゲームを通じて常に7点差以内の接戦を続け、結局は同点のままオーバータイムに突入。先の読めないサスペンスによって、普段はせっかちに家路につくニューヨーカーを最後まで座席に釘付けにした。

カーメロが35得点&13リバウンド、タイソン・チャンドラーが28得点&10リバウンド、ウィリアムスが16得点&14アシスト、ブルック・ロペスが22得点&11リバウンドと両軍のスター選手がそれぞれ大活躍。カーメロとそのディフェンスに奔走したジェラルド・ウォーレス、ゴール下で張り合ったロペスとチャンドラーなど、個々のマッチアップに見応えがあったのも試合が引き締まった原因だった。

「ニックスファンが大歓声を挙げ始めるたび、私たちのファンも負けずに声を張り上げてくれた。私たちがずっと夢見て来たシーンだった。素晴らしい気分だったし、ファンに勝利と言う形で報いてあげられて良かったよ」

96対89でニックスを何とか振り切り、ホームコートを守ったネッツのエイブリー・ジョンソンHCは試合後に笑顔でそう語った。

両チームのファンがそれぞれ湧くシーンがあり、最後はホームチームが勝ち残った。ネッツとブルックリンの街にとって、大きな価値のある1勝だったことは言うまでもない。

チームリーダーのジェイソン・キッド不在が響いた感のあったニックスも、向上の跡を感じさせるディフェンス(平均失点でリーグ3位)は乱れず、敗れてもプライドは保った。結果的に、新たな歴史の始まりを飾るゲームとしては、考え得る限り最高の内容、結末と言えたのではないだろうか。

まだ”宿敵”と呼ぶべきではないが

もちろんこの見応えある一戦の後でも、新ライバル誕生などと騒ぐのは少々早過ぎる。試合前日にチャンドラーが残した「ネッツをライバルだとは思っていない。正直言って、ネッツよりもヒートやセルティックスの方を意識している」という言葉は、おそらくは本音だったはずだ。

ただそれでも、ニューヨークのバスケットボール界にとって極めて重要な意味を持つ2012〜13年シーズンが、ここまで良い滑り出しを見せていることに疑いの余地はない。

今やニックスの顔となったブルックリン出身のカーメロは、序盤戦はMVP候補と呼ばれるレベルでプレーしている。オフに的確な補強を施したネッツも、まだディフェンスや控えの層に不安を残してはいるが、22勝44敗と惨敗に終わった昨季と比べて段違いに向上していることは間違いない。

今季のイースタンカンファレンスは高レベルと言えないこともあり、現時点でイースタンにはマイアミ・ヒート以外にニックスとネッツが対戦して絶対不利と思えるチームは存在しない。9勝4敗で並んだ両チームが、シーズンを通じて上位シードを争う位置に居続けてもまったく不思議はないはずだ。

彼らがまだ“宿敵同士”とは呼べないことは前記した通り。ただ、今季にニックスとネッツがともにプレーオフに進み、そこで対戦するようなことがあればどうだろう?地下鉄でわずか20分の距離にあるマディソンスクウェア・ガーデンとバークレイズセンターを転戦して行なわれるシリーズは、地元のスポーツファンを熱狂させることは確実。そのときには、MLBのヤンキースとメッツがシーズン中に対戦する“サブウェイシリーズ”を上回るほどの注目を集めることになるに違いない。

大切なのはこれから

「(ネッツはマンハッタンから)橋を渡ったブルックリンのチーム。俺たちはニューヨークシティのチーム。同じ地区に属していて、同じくスポーツが盛んな街に本拠を置いている。今夜のゲームは(特別な)何かの始まりなんじゃないかな」

26日のゲームを誰よりも楽しみにしていた感があったカーメロは、26日の試合後のロッカールームでそう語った。“ニューヨークダービー”を満喫できた後味の良さからか、敗戦にもどこか満足げですらあった。

次のニックスとネッツの対戦は12月11日、再びブルックリンが舞台。ESPNで全米中継されるビッグゲームに、両チームがどんな状態で臨んで来るかが1つのポイントとなる。カーメロを微笑ませた初対戦の好ムードを保ち、クロスタウン・ライバルは今後も順調に前に進んで行けるのかどうか。

ニューヨークのバスケットボールファンを異常にそわそわさせた11月26日は終わった。しかし1つの終わりは、新しい歴史の始まりでしかない。その先に、カーメロ、ウィリアムス、Jay-Z、スパイク・リー、そして多くのニューヨーカーが待ち望む、“真のライバル関係”誕生の瞬間がうっすらと見えて来る。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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