衝撃の設定が、観客に自身の内面を突きつける『羊の木』。6人の転入者は全員元殺人犯だった!

(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

刑務所のコスト削減と地方の過疎対策を兼ねた国家の極秘プロジェクトにより、仮釈放になった受刑者を自治体が住民として受け入れる。彼らが元受刑者であることを知るのはプロジェクトの担当者だけ。

衝撃的な設定に惹きつけられずにいられない吉田大八監督作『羊の木』。山上たつひこ、いがらしみきおという漫画界の巨匠がタッグを組み、2014年文化庁メディア芸術祭優秀賞に選ばれた同名コミックの映画化です。

主人公は、さびれた港町・魚深(うおぶか)市の市役所職員・月末一(錦戸亮)。6人の新規転入者の受け入れ担当を命じられた月末は、彼らが全員仮釈放中の元殺人犯と知って、驚きつつも、つとめてフラットに彼らに接しようとするのですが…。はたして、元殺人犯という究極の“異物”との共生は可能なのか?

騒ぎを起こしたがっている杉山は、いかにもいわくありげな大野に近づく。(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社
騒ぎを起こしたがっている杉山は、いかにもいわくありげな大野に近づく。(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

威圧的で何事か企んでいそうな杉山勝志(北村一輝)、妙な色香を発散して危うげな太田理江子(優香)、人見知りで極度に几帳面な栗本清美(市川実日子)、いつも何かに怯えているような福元宏喜(水澤紳吾)、寡黙で凄みのある大野克美(田中泯)。好奇心旺盛で月末に積極的に近づいてくる宮腰一郎(松田龍平)。

6人が漂わせる空気はさまざまですが、おたがいの存在を知らない彼らがそれぞれ、市が用意した仕事に就き、生活を始めた町を、のろろ様という奇怪な姿の神様の巨像が崖の上から見下ろす世界は、どこか不穏な空気に包まれています。

原作の設定と世界観は借りながらも、ストーリーの展開も結末も映画オリジナル。転入者たちの人数も違えば、罪状も違います。錦戸が演じる月末も、原作では市役所職員ではなく、市長の同級生である年配の男性。けれども、月末を市役所勤務の青年にしたことで、仕事のみならず、同級生の石田文(木村文乃)らも絡んで、私生活でも転入者たちと関わることになる普通の青年の成長物語としての趣も加わることに。

優香が、理江子の危うい色気を体現。(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社
優香が、理江子の危うい色気を体現。(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

それにしても、錦戸がうまい。もともと、彼は「うまい」ということを意識させないくらい、役として自然に作品の中にいることのできる俳優です。その力量が、吉田監督によって存分にいかされている。

究極の恋愛体質と思しき理江子の色香や、その色香を体現する優香の女優魂にかたずを飲んだり、内面の未発達をうかがわせる抑揚のない話し方で、松田が醸し出す宮腰の得体の知れなさに息を詰めさせたり。クセの強い転入者たちには月末も観客も圧倒されたり、困惑させられたりするのですが、その受け身の感覚を、あくまで自然に月末として存在している錦戸が、観客に共有させてくれるのです。

言ってはいけない言葉を口にしてしまった月末の嫉妬や後悔が、観る者の胸にも抜けない棘のように残るのも、それだからこそ。役者1本でやっているわけではなく、アイドルとして10代から脚光を浴びつづけている錦戸が、そのオーラを消しつつ、普通の青年・月末の優しさや穏やかさといった魅力を表現できる。その事実と才能に興奮するのもまた、この作品の楽しみ。

そんな月末と同化して、転入者として魚深の町に入りこんだ"異物"が引き起こす事態を見つめる不安な思い。それが気づかせてくれるのは、 “異物"への「不安」は、“異物"への「偏見」が生み出すものなのだということ。

けれども、この転入者たちも6人6様。変わりたい者もいれば、変わる気のない者もいる。そして、彼らを受け入れる住民の対応もまたさまざま。『羊の木』の登場人物たちは、人間は何かのレッテルでひと括りでは語れない生き物だということにも気づかせてくれるのです。

異物を受け入れることを描いたヒューマン・サスペンスは、人の弱さを描き出すと同時に、転入者と彼らを受け入れる者との関係に、人の優しさや強さを信じさせる映画でもあるのでした。

『羊の木』

2月3日(土)全国ロードショー

(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社