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アイアンマンとの最強コンビ誕生。オトナ女子もアガる『スパイダーマン:ホームカミング』

杉谷伸子映画ライター

アイアンマンとの“師弟”関係にも注目が集まっていた『スパイダーマン:ホームカミング』。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に初お目見えした『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(’16年)で 憧れのヒーローたちに会えた少年の はしゃぎっぷりで楽しませてくれたトム・ホランドは、ジョン・ワッツ監督とともに、スパイダーマンの世界にとびきりの軽快感をもたらした。原点回帰と革新で本格始動した新シリーズは、15歳の高校生ピーター・パーカーの青春にもときめかせてくれて、これがほんと面白い! 

アベンジャーズを二分した“シビル・ウォー”に参戦したことで、ますます彼らへの憧れを募らせたピーターは、高校生活に戻っても気もそぞろ。トニー・スターク/アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)に認められてアベンジャーズの一員となるべく、放課後にご近所でのヒーロー活動に励んでいる。ある夜、ハイテク武器の密売現場を目撃。彼らを追うものの、やる気と正義感が空回りし、 やがて 真のヒーローになるための大きな試練に直面することに。

そのハイテク武器は、アベンジャーズのニューヨークでの戦いの瓦礫の中から回収された地球外物質からエイドリアン・トゥームス/バルチャー(マイケル・キートン)の一味が製造しているものという具合に、MCUとのリンクもお見事だ。

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“シビル・ウォー”との繋がりを 今どきの高校生らしいピーターの自撮り映像で見せる 導入部からして、とにかく全編テンポがいい。スパイダーマンの正体を知った親友との共闘作戦や憧れの女子リズとの恋模様など、15歳の高校生らしく青春モードも全開。そう、これは理系くんのポップな青春映画でもある。

トニーに認められたくて空回りしてしまう青臭さも微笑ましく感じさせるのは、津波に巻きこまれた家族を描いた『インポッシブル』(12年)で母親を支える健気な長男を演じるなど、少年時代演技力に定評があったホランドならでは。心理的な緊迫感でも楽しませてくるトゥームスとの戦いはもちろん、ピーターの成長でも魅せるあたりには、一見B級サスペンスな『COP CAR/コップ・カー』(‘15年)で少年たちの成長を描いて深い余韻を残したワッツのセンスが光っている。

スパイダーマン誕生の経緯や ベンおじさんの死など、これまで映画で繰り返し描かれてきたピーターの苦悩は、既に常識として観客に織り込まれているものとして 本作では描いていないのも、この軽快感をさらに増すことに。おばのメイも、年齢設定がグッと下がってピーターにも「メイおばさん」とは呼ばれないほど。マリサ・トメイが演じるとはいえ、ずっと「メイおばさん」という響きに馴染んできたファンには、これはなかなかのショーゲキだったりする。

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そんなピーターの成長に大きな役割を担うのがトニー・スターク。予告編に登場するピーターとのコミカルなやりとりぐらいで、本編には大して登場しないのではという不安もあったのだが、これが期待以上の大活躍。天才科学者にして大富豪の彼らしく、かずかずの新機能を搭載したスパイダーマン・スーツを提供するわ、ピーターをあしらうようなやりとりのみならず、その新スーツに補助輪モードをつける親心でも笑いを誘うわ。その一方で、ヒーローの責任をピーターが背負いきれるのかと案じる姿に、グッとくるものがあったり。オトナの観客としては、トニーのこの保護者目線も たまらない。メイのことを「いい女」として意識してみせて、オトナの男の茶目っ気も楽しませてくれるのも一興。もう、トニー・スターク様さま なのだ。

ピーターが高校生というスパイダーマンのスタート地点に戻りつつ、MCUに参加したからこそもたらされる革新で、迫力とスピード感溢れるアクションはもちろん、予期せぬ展開をも楽しませてくれる新シリーズ。新たなファンにも昔からのファンにも、コミックや従来のシリーズとの設定の違いなどトリビアの知識を競う楽しみもくれそうなのも、作品が面白いからこそ。

スパイダーマンとは何か。その問いかけを“ホームカミング”というタイトルにこめた新スパイダーマンが、これから何を見せてくれるのか? ロバート・ダウニー・Jr.とトム・ホランドの相性も最高なだけに、『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー(原題)』や本作の続編など、既に発表されているプロジェクトでの展開もますます楽しみになる。

『スパイダーマン:ホームカミング』

(c)Marvel Studios 2017. (c)2017 CTMG. All Rights Reserved.

2017年8月11日(祝・金)全国ロードショー。

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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