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このタイミングもまた運命。マジでかっけぇ、木村拓哉『無限の住人』

杉谷伸子映画ライター
(c)沙村広明/講談社 (c)2017映画「無限の住人」製作委員会

「最初に話をもらった時に、木村拓哉以外ありえないという直感というか、自分の中でそれありきと閃いたというか。原作読んでもそうだし、それは俺がそう思ったとか、誰かが決めたってことじゃなくて、まったくそれまで出会ったことのない沙村先生が19年間描かれたことと、木村拓哉という生き方をしてきた人間が引きあって、そこに逆に我々が巻き込まれたというくらいの感触」

沙村広明の同名コミックを実写化した『無限の住人』。2月15日の完成報告会見で、主人公の万次木村拓哉をキャスティングした理由を尋ねられた監督の三池崇史はこう答えた。完成した作品を観て、「やっぱりそうなんだな」と感じたという三池だが、『無限の住人』を観た者もまた、まさにそのとおりと思わずにいられないだろう。

愛する妹の命を奪われ、生きる意味を失ったとき、謎の老婆・八百比丘尼によって、自らの意思とは裏腹に不死身の体にされてしまった人斬り・万次。しかし、孤独のなか無限の命を生きていた万次は、妹に瓜二つの少女・凛から仇討ちの助っ人を頼まれたことから、無限の命を生きる意味を見出していく。

その世界を描くのは、三池崇史監督・木村拓哉主演というそそるタッグ。しかも、次々と万次の前に現れる敵役には、これでもかというくらいに主演級がずらりと揃う。『十三人の刺客』でも壮絶な斬り合いに興奮させた三池だが、今度は1人対300人。ますます破天荒になった世界は、クライマックスのみならず、冒頭から触れこみどおりに“ぶった斬り”エンタテイメントが炸裂している。

けれども、そのぶった斬りエンタテイメントが興奮させるのは、木村がノースタントで臨んだ立ち回りや漫画原作ならではの斬新な武器が登場するアクションが壮絶だからだけではない。スタッフの情熱が築きあげた世界で、役者たちがそれぞれの役に、自身だからこそ吹き込める命を与えているからだ。

それはまさに「キャスティングっていうのは運命なんだなと思いますね。それぞれの役を演じた人たちも、それぞれの場所でそれぞれのキャリアがあってというなかで作り出すことができる唯一のシーンが詰まっている」と、その会見で三池が話したとおり。

同時に、そうして生み出された映画『無限の住人』は、木村拓哉という存在の大きさを改めて思い知らせるものでもある。

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伝説の人斬りと呼ばれる万次の桁はずれな強さ。凛とのやりとりにのぞく、ぶっきらぼうの奥にある優しさ。隻眼で顔に大きな刀傷があってもなお絵になる男っぷりと、白と黒の着流しの泥臭くもモードな香り。

エンタメ作品の主演は、どんなに無様な生き方を演じても、男も女も痺れさせてくれる存在でなければいけないが、男から見てもかっこいいに違いない男を演じてハマるのは木村だからこそ。いや、語弊を恐れずに言えば、万次は木村拓哉そのもの。原作と木村拓哉という生き方をしてきた人間が引き合ったと三池が感じたように、木村が演じるからこそ、万次という男の魅力も増幅される。

なにより、死にたくても死ねないという運命を背負った万次が、凛のために無限の命を使うと決めたことから再び生きることに意味を見出すあたりも、常々「求められる存在でいたい」と口にする木村とも重なるのである。

三池は「キャスティングは運命」と話したが、木村拓哉の新たな章の始まりである2017年に公開されるこのタイミングもまた運命。木村拓哉が木村拓哉であることがあたりまえだった昨年までだったら、映画『無限の住人』の木村のかっこよさを、観客はあたりまえのこととして受けとめていただろう。けれども、激動の一年を経た現在、木村拓哉であるという運命を受け入れ、木村拓哉として立ち続けてきた彼は、何度ぶった斬られても立ちあがる万次にさらなる凄みを与えると同時に、木村が稀代のスターであることを再認識させずにいないのだ。何が起ころうと木村拓哉として立ち続ける、その凄さ。万次風に言わせてもらうなら、マジでかっけぇ。

敵役たちの怪異なビジュアルや斬り落とされた腕が再生する描写など、女子が苦手そうな要素もあるものの、結果として女性ファンにとってもそれらを軽くふきとばす、木村拓哉史上最高に“漢”なエンタテイメント。

そして、スターだからこそキマる、ラストカット。「Some rise」「Some live」という歌詞が「サムライ」と響くMIYAVIの主題歌『Live to Die Another Day-存在証明-』も、そのラストの興奮をさらにアゲてくれる。会見でもフォトセッションの待ち時間に会場に流れる主題歌に合わせて木村の唇が動いているのが印象的だった。

カンヌ国際映画祭の特別招待作品にも選ばれた本作。世界の反応も楽しみだ。

『無限の住人』は2017年4月29日(土)より全国ロードショー

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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