テン年代のアントワーヌ・ドワネルと出会う幸せ、『若き詩人』。
「半ズボンのジャック・タチ」、「テン年代のアントワーヌ・ドワネル」。キャッチーなコピーも魅力的なダミアン・マニヴェル監督の長編第1作『若き詩人』(併映『犬を連れた女』)が公開中だ。
ダミアン・マニヴェルは、『犬を連れた女』でジャン・ヴィゴ賞、『日曜日の朝』でカンヌ国際映画祭批評家週間短編大賞を受賞している気鋭の映画作家。その彼が、『犬を連れた女』の主演でもあるレミ・タファネルと再びタッグを組み、監督を含めスタッフはわずか4名、撮影期間10日で取りあげ、ロカルノ映画祭特別大賞に輝いたのが『若き詩人』だ。
昨年11月には広島映画祭の審査員などをつとめるために来日し、約1ヶ月半にわたる日本滞在の間にも大阪での舞台挨拶や立教大学や映画美学校で特別講義を行うなど精力的に活動。最後の来日イベントとなった12月11日のイメージフォーラムでのスペシャル先行上映会も満員の大盛況だった。そこでのコメントを交えて、『若き詩人』を紹介したい。
レミ・タファネルとの出会いから生まれたストーリー
短編『犬を連れた女』が描くのは、プール帰りに公園で迷い犬を見つけた少年レミが、その飼い主の女性の家で過ごす夏のある昼下がり。
「リアリティーのセンスを持つと同時に、非常に夢見がちな男の子を探していた」というマニヴェルが、レミ・タファネルに出会い、その強い印象に合わせてシナリオを変更。レミの強い存在感に対抗する女性を探している最中に知人から紹介された大柄なエルザ・ウォリアストンがまた独特な空気を醸し出すことに。
汗ばむ夏の午後。グラスの氷が立てる音。風に揺れるカーテン。階段を上る犬の爪の音。映像と音が想像力をかきたてる世界は、思いがけずエロティックでありながらユーモアも滲む。マニヴェルによれば、撮影当時14歳だったタファネルは、2年後に漸くこの作品の意味する世界に気づいたとか。
「役者を選ぶのではなく、撮る人物をまず決めて、その人物を面白く撮るにはどうしたらいいかと、自分からストーリーを撮る人に合わせていく」のがマニヴェルのスタイル。時間がないのがそうしたスタイルをとる理由の一つだと言うが、『若き詩人』も18歳になったタファネルから「もう一回一緒にやりたい」と連絡を受け、時間がないのでどこかに行って一緒に撮ろうとなったという。
「シナリオがないというのはトラブルも起こりがちだけれど、自分は何がしたいのかと向き合うことにもなる。私はレミが撮りたい。レミを信じているし、選んだ街の事も信じている。街で光り輝いている太陽とレミを合わせたら何が起こるかということを見てみたかったんです」(マニヴェル)
少年レミから青年レミへ
そうして誕生したのが『若き詩人』。作品が後世に残るような詩人になりたいと願い、ひらめきを求めて、南仏の海辺の町へやってきた青年レミが、尊敬する詩人の墓の前で夢を語り、土地の若者と友情を育み、偶然出会った女性への若いというより幼い恋心を抱き、もちろん詩作もしながら、人生や自分は何者にもなれないかもしれないという怖さとも向き合う若き日々が眩しい陽光のなか綴られていく。
ドキュメンタリーではなく、あくまでフィクションだが、前述の言葉通り、レミが出会う漁師の青年も実際に地元の漁師なら、レミが出会う女の子も映画で描かれる通りバカンスで町を訪れていた女性。
ベンチに腰掛け、海が見える丘の上の墓に語りかけるレミの頭をかすめるように鳥が飛んで行く。そうした何気ないシーンのひとつひとつがまさに詩のような情感に溢れている。波の音や鳥の鳴き声はもちろん、背景に聞こえる街の音や人々の話し声が、観るものの五感もとぎすまさせるのだ。
この2作、もちろんそれぞれ独立して面白いが、2作同時に公開されることで、レミという映画の中の人物とレミ・タファネルという演者自身の成長物語としても楽しめる。それは映画好きにとっては、なかなか素敵な出会いだ。そもそもタファネルに初めて出会った時にマニヴェルが強い印象を感じたように、レミ・タファネルには観客をひきつける何か不思議な魅力があるのだから。
『若き詩人』(併映『犬を連れた女』)はシアター・イメージフォーラムにて公開中。