メインディーズの必見作。フィリピン発『SHIFT~恋よりも強いミカタ~』

(c)2013 Cinema One Originals

面白い映画に出会えば、映画好きなら興奮せずにいられない。それが新しい才能ならなおのことだ。そんな興奮が味わえるのが、公開中のシージ・レデスマ監督の『SHIFT~恋よりも強いミカタ~』。10月中旬にはレデスマ監督が来日し、日本大学芸術学部試写会も開催された。

『SHIFT~恋よりも強いミカタ~』は、大阪アジアン映画祭2014グランプリに輝いたフィリピン映画。昨今のフィリピンで台頭している「メインディーズ(メインストリームとインディーズの中間に位置する作品)」を代表する1作でもある。

ヒロインは、ミュージシャンか写真家になりたいというざっくりした夢を抱いているものの、なかなか思うようにならない現実に苛立ちながらコールセンターで働いている赤い髪エステラ。彼女が、職場の同僚であるゲイの青年トレヴァーに次第に恋心を抱いていく。たんにせつない恋を描くだけでなく、友達以上恋人未満な存在との語らいによって、エステラが自分自身を見つめ直すことにもなる成長物語としても秀逸だ。

ポップで洗練されたビジュアル。(c)Cinema One Originals
ポップで洗練されたビジュアル。(c)Cinema One Originals

恋の相手がゲイレズビアンだと、かつては悲恋としてシリアスに描かれることが多かったが、この作品はキュートでポップ。それはエステラの赤い髪に象徴されるファッションや、彼女とトレヴァーが出かけるカフェやギャラリーなどのおしゃれな空気感によるものであることはもちろんだが、エステラたちの職場ではゲイやレズビアンがあたりまえのように受け入れられ、彼らが痛快なジョークを飛ばしているのも大きい。どうもフィリピンではLGBTへの偏見が少なそうなのだが、実際のところはどうなのか。それは観ていて、気になるところだ。

コールセンターで働いていた経験のあるレデスマ監督は、こう話す。

「10年ほど前はフィリピンもまだ性に対して閉鎖的でした。私のリサーチによると、コールセンターはフィリピンのなかでも独自のカルチャーを持っているので、ゲイやレズビアンは非常に多い。海外とのやりとりも必要とされるため、国際的な多様性を持った人材を求めていて、ゲイやレズビアンといったことにこだわらず、採用行っているという背景もあります。そうした職場に集まる人は、海外ドラマをよく観ていたり、欧米文化に触れているおしゃれな人が多いため、ジェンダーに寛容です」。「ただ、ゲイやレズに対してはとても寛容になりましたが、バイセクシャルに関してはまだ偏見が残っています」

シージ・レデスマ監督。自身もコールセンターで働いていた経験が。
シージ・レデスマ監督。自身もコールセンターで働いていた経験が。
日芸試写会後には学生とのQ&Aも開催。中央がレデスマ。
日芸試写会後には学生とのQ&Aも開催。中央がレデスマ。

コールセンターに勤務しながら助成金審査に応募していたレデスマ。一念発起して、仕事を辞め、フィルムスクールで学び、経験を積んでシネマワン・オリジナルズ映画祭の企画コンペに入選。同映画祭から資金交付を得て製作されたのが『SHIFT~恋よりも強いミカタ~』。

この映画祭をはじめ、フィリピンでは映画祭に提出した企画書が入選してからの短期間で製作することが多く、本作も製作費200万円・撮影期間6日で製作されている。この製作費を撮影日数を聞いた日芸試写会に参加していた学生たちからは、どよめきが起こったことをお伝えせずにいられない。実際、この作品を観たら、この条件でこのハイクオリティな作品を作り上げた才能にも感動せずにいられなくなるが、レデスマが学んだフィルムスクールでは1年間で40本も短編を製作するというのも さらなる驚きだ。

ちなみに、エステラを演じているイェン・コンスタンティーノは、フィリピンの大人気シンガーソングライター。無名の新人監督の低予算映画に映画初出演とはいえスターが出演するというあたりからも、シナリオのクオリティの高さが想像できるではありませんか。

赤い髪のヒロインにちなんで公開中の新宿シネマカリテでは、〈赤い髪〉割引も実施されているほど、カラフルな映像も印象的な本作。ウィッグでもOK、赤っぽければOKということで、初日から赤い髪割引の観客が見受けられたそう。観客層は20代の映画好き層を中心に、フィリピン映画という物珍しさから30~40代映画ファンと思しき層の姿もあるという。

いわゆる映画ファンにかぎらず、観れば確実におしゃれ女子のハートにもアピールするこの作品。クチコミでどこまで広がるかにも、注目だ。

『SHIFT~恋よりも強いミカタ~』は新宿シネマカリテでレイトショー公開中。全国順次ロードショー。