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アレハンドロ・ホドロフスキーに学ぶ、魂の“不老長寿”の秘訣

杉谷伸子映画ライター
撮影:杉谷伸子

パワースポットめぐりが人気だが、存在そのものがパワースポットのような人もいる。アレハンドロ・ホドロフスキー、85歳。監督作『エル・トポ』に感動して配給権を買い取ったジョン・レノンをはじめ、多くのクリエイターを心酔させてきたカルトムービーの巨匠である。その彼が23年ぶりの新作『リアリティのダンス』(7月12日公開)を引っさげて、25年ぶりに来日した。これは行かないわけにはいかない。なぜなら、最近、ホドロフスキーは“心の師”と仰がずにいられない存在なのだ。

撮影:杉谷伸子
撮影:杉谷伸子

そのきっかけとなったのは、『リアリティのダンス』に先駆けて公開されるフランク・パヴィッチ監督の『ホドロフスキーのDUNE』(6月14日公開)。この作品は、サルバドール・ダリ(銀座帝国の皇帝)やオーソン・ウェルズ(ハルコンネン男爵)をキャストに迎え、メビウスやH・R・ギーガーといった錚々たるスタッフを集めながら頓挫したホドロフスキーの未完の超大作についてのドキュメンタリー。ホドロフスキーが“魂の戦士”と呼ぶスタッフや、豪華なキャストが集められていく過程や、彼ら戦士たちによって描かれていく世界を観ているだけでもテンションが上がるが、何がすごいってやはりそこに溢れるホドロフスキーのエネルギーなのだ。撮影されなかった映画であるにもかかわらず、『DUNE』について語るホドロフスキーは嬉々としている。そのポジティブなエネルギーときたら、とても実現しなかった映画についてのドキュメンタリーとは思えないほど。それもすべては世界を変える芸術を作っているという誇りと自信があるからこそ。そして、実際、ホドロフスキーの『DUNE』のために集まったスタッフたちがのちのSF映画に多くの影響を与えることになった。

もちろん会見でのホドロフスキーも陽気でパワフル。「私が映画を作るときは、言うべきことがあるとき」と23年ぶりに映画を撮った理由について語り、ときには立ち上がったりステップを踏んだりしながら、いろいろあったプロデューサーたちとの闘いと和解を茶目っ気たっぷりに話す姿はとってもチャーミング。『ホドロフスキーのDUNE』でデヴィッド・リンチの『DUNE』を観たときの気持ちを率直に話してくれるシーンと重なります。

撮影:杉谷伸子
撮影:杉谷伸子

当然、元気の秘訣について訊ねられる一幕もあったが、「一度もたばこを喫ったことがない。基本的にアルコールは飲まない。コーヒーももう飲まないし、赤身の肉ももう食べない。そして、若い妻がいること。彼女に触れるたびに若返ります。そして、常に考えつづけ、作りつづけていること」とのこと。日本の辞世の句に影響を受けて「毎日、短い詩を書いているのが一番効果がある」そうだ。

だが、彼のみならず、誰にとってももっとも大切なことは、お金に対する質問への答のなかで語られたのではないだろうか。『リアリティのダンス』は、ホドロフスキーがお金について語るシーンで幕を開ける。会見でお金について訊ねられたホドロフスキーは「物質的な欲望を満たすためだけにお金を使うのは悪。だが、精神的な価値やクリエイティブな価値を高めるため、ポジティブなライフスタイルを作るために使えばお金は良いもの」と語るなかでも、「私たちの人生にいちばん大切なのは希望」と語っている。それは『ホドロフスキーのDUNE』や『リアリティのダンス』からも、ひしひしと伝わってくる。そう、85歳にして次回作を準備中のホドロフスキー、その彼の精神を“不老長寿”にしているのは、人生や芸術への希望なのだ。

ホドロフスキーは一部のマニアに熱狂的に支持されているイメージだが、『ホドロフスキーのDUNE』も『リアリティのダンス』も、アートなビジュアルのみならず、普遍的なテーマが魅力。ハリウッド映画を観て育った私のようなミーハーのテンションも上がるってことが、ヒットを予感させます。

『ホドロフスキーのDUNE』は6月14日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

『リアリティのダンス』は7月12日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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