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【痴漢は重大犯罪】文科大臣も動いた!子ども若者に被害相談されたときの対応ポイント【被害者は悪くない】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
痴漢は重大犯罪、被害者は悪くない!

はじめに:痴漢は犯罪、痴漢は「強制わいせつ罪」

―痴漢の被害者の76.9%が10 代・20 代の若年層

―小学生~大学生・若者まで性別を問わない被害の実態はもっと深刻

日本の子ども・若者を取り巻く課題は多いのですが、その中でも、性犯罪である痴漢の被害は深刻です。

大学で勤務している私も、学生から、痴漢に遭って怖かった、どう対応すればよいのかわからなかった、という相談を受けることがあります。

痴漢相談の被害は女子学生だけでなく男子学生からもあります。

性別を問わず、痴漢加害者は、子どもや若者に加害しているのです。

痴漢は刑法上、「強制わいせつ罪」に分類されます。

また自治体の迷惑防止条例でも摘発され、国・自治体を挙げ対策に取り組んでいます。

政府が2023年3月に公表した「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」では、痴漢の被害者の76.9%が10 代・20 代の若年層であることが把握されています。

※「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」については、政府への取り組みを働きかけてこられたYahoo!オーサーの室橋祐貴さんがポイントをまとめておられます、ご参照ください。

また警察庁「令和3年刑法犯に関する統計資料」では、最新データである令和3(2022)年度の「強制わいせつ」罪の被害者は、19歳以下の若者1958人が被害、うち12歳以下の被害者は782人でした。

卑劣な痴漢犯罪者は、小学生にも、中高生や専門学校生・大学生にも危害を加えるのです。

警察庁の統計で把握された数字は氷山の一角です。

実際には、学校に急いでいるからと被害を訴え出ない事例も多いのです。

痴漢、Chikanは今や、性犯罪、特に子どもや若者への性犯罪に甘い「人権後進国」日本を象徴するキーワードとして、世界的に有名になってしまっています。

痴漢加害者を撲滅できず、子ども・若者に多くの被害者を生んでしまう恥ずかしい国のままで良いのでしょうか?

そんな日本ではよくない、といま政府も痴漢撲滅に動きだしています。

1.永岡文科大臣も動いた!「痴漢(ちかん)は重大犯罪、被害者は全く悪くない」

私がこの記事を書くきっかけとなったのは、永岡桂子文部科学大臣の会見です(令和5年4月18日)。

痴漢被害に遭った児童生徒に対するメッセージを記者に問われた永岡大臣は、このようにコメントされました。

痴漢は、重大な犯罪であります。本当に重大です。個人の尊厳を踏みにじる行為でございますし、また、断じて許すことはできません。本当に被害者は全く悪くない、そう思っております。児童生徒の皆さんもですね、もし痴漢被害に遭ってしまった場合は、ためらわず、安心できる大人、近所にいる大人にですね、相談していただきたいなというふうに思っております。

子どもや女性のために政治家として尽力されてきた永岡大臣の「痴漢は重大な犯罪」、「本当に被害者は全く悪くない」というメッセージには、心がこもっています。

そして子ども・若者に対し「もし痴漢被害に遭ってしまった場合は、ためらわず、安心できる大人、近所にいる大人にですね、相談していただきたい」とメッセージを発しておられます。

これに対し、私が「駅員や保護者、学校の教員が子どもから相談されたらどうすればいい?」とツイッターで発信したところ、大臣秘書官や文部科学省大臣室のみなさんがすぐに文科省はじめ関係省庁に確認いただいたのです。

大学教員の小さなつぶやきにも対応いただいて驚きましたが、痴漢を許さない、被害者は悪くないという真剣な姿勢を理解する機会となりました。

その内容はとても重要で私だけではなく、より多くの子ども・若者や、大人たちにも知ってほしいということでこの記事を書いています。

2.子ども若者に痴漢を相談されたときの対応ポイント

―緊急時や痴漢被害直後は、ためらわず110番、警視庁開発デジポリスアプリも活用!

―学校は遅刻・欠席カウントしない、入試でも対応を

―相談を受けた保護者・教員は#8103(痴漢相談窓口)に相談を

―子ども・若者に無理に聞きすぎず、警察等の関係機関につなごう

子ども・若者に痴漢を相談されたときの対応ポイントは4つです。

(1)緊急時や痴漢被害直後は、ためらわず110番、警視庁開発デジポリスアプリも活用!

まず、あなたが、子ども・若者が痴漢にあっているところを発見した緊急時や、痴漢被害にあった直後であれば、迷わず、110番してください。

車内でも駅でも110番は大丈夫です(犯罪の起きた場所、時間の近くで通報するべきだそうです)。

警視庁が開発した防犯アプリ・デジポリス(Digi Police)では、スマホから「痴漢です助けてください」という音声を流すことができたり、「ちかんされていませんか?」と近くの人に確認をする機能があります。

防犯アプリ Digi Police(警視庁HPより)
防犯アプリ Digi Police(警視庁HPより)

デジポリスは位置情報を切り替えることで、なんと日本全国どこでも使えるそうです。

※MIZUNO BLOG「デジポリスは東京だけ?大阪や埼玉・神奈川・愛知などほかの地域にもある?

デジポリスを使って、少女に卑劣な痴漢をした犯罪者が逮捕された事例もあります(読売新聞・2022年4月19日報道)。

(2) 子ども・若者が痴漢を通報・相談した場合、学校は遅刻欠席カウントしない、入試でも対応を

痴漢を通報したり、周囲の人に助けを求めている場合、学校に遅れてしまったり、登校できなかったりすることがあります。

入試のため被害を訴えづらい1月の大学入学 共通テストや、2月の入試シーズンを狙う卑怯な犯罪者もいます。

こうした事態に対し、文部科学省は子ども・若者が痴漢を通報・相談した場合、学校は遅刻欠席カウントしない、入試でも対応を、という要請を学校・教育委員会に対し行っています。

痴漢撲滅に向けた政策パッケージ,pp.6-7

(3)相談を受けた保護者・教員は#8103(痴漢相談窓口)に相談を

痴漢の被害にあっても、すぐに訴えられる子ども・若者ばかりではありません。

いきなり痴漢の被害に遭えば、混乱したり、思考もフリーズしてしまうことだって少なくないのです。

帰宅後、あるいは時間が経ってからでも、保護者や教員に「痴漢にあった」と相談してくれることもめずらしくありません。

大学教員である私も、むしろ少し時間が経過してからの被害の相談を受けることの方が多いのです。

そんな時には、どうすればよいのでしょう。

実は全国の都道府県警には、痴漢相談窓口が設置されているそうです。

大人として、以下の番号に被害を伝えてくれた、子どもや若者のことを相談してみましょう。

#8103(全国どこからでも相談できる共通の電話番号)

#8891(性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター、全国どこからでも相談できる共通の電話番号)への相談もできるそうです。

すぐに犯人逮捕には結びつかなくても、多くの相談が集まれば、警察の警戒や捜査にもつながります。

(4) 子ども・若者に無理に聞きすぎず、警察等の関係機関につなごう

子ども・若者が、痴漢被害を相談してくれたとき、まず「よく相談してくれたね」と、被害にあって嫌な思い、つらい思いをしたことを受け止め、その勇気を認めることはとても大切です。

いっぽうで、文部科学省が作成した「生徒指導提要」にあるように、「痴漢(性犯罪)のくわしい被害については無理に聞きすぎない」ことも大切です。

また被害を訴えてくれた子ども、若者を一人きりにしないことも大切です。

痴漢は性犯罪、性犯罪被害は被害者の心身に、意識せずとも深刻なダメージをおよぼしていることもあるのです。

(3)に示した#8103(全国の都道府県警の相談窓口)に相談し、詳細な状況を警察に伝えることなどは、捜査の専門家に任せることも重要です。

警察も痴漢被害を話しやすいように、電話相談などを含めて被害者に寄り添って女性担当者でも男性担当者でも、子どもたちが話しやすい人に相談できる対応をされているそうです。

埼玉県警の相談体制の例

#8891(性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター) では、医療機関やカウンセリングなども含めて相談できるそうです。

3.痴漢加害者をゆるさない日本へ!

―この国会でさらなる痴漢厳罰化に向けた刑法改正も

―「生命(いのち)の安全教育 」を軸に、教科横断的、実践的な学びを

あらためて永岡文科大臣の言葉を思い出しましょう。

「痴漢は重大な犯罪」、「本当に被害者は全く悪くない」

これは日本政府の姿勢そのものです。

ではどうすれば痴漢被害をゼロにできるのか?

被害者に痴漢に気をつけろ、というだけでは、日本は私がこれまで批判してきた「加害者加担社会」のままです。

そうではなく、痴漢加害者をゆるさない日本へ、国をあげて進化していかなくてはなりません。

性犯罪である痴漢の加害者をゆるさないためには、厳罰化も必要です。

この国会では従来、「強制わいせつ罪」としてきた罪名を「不同意わいせつ罪」とし、痴漢も含め、同意のない性暴力はいままで以上に厳しく「犯罪」として捜査され立件されることになります。

時効も現在の7年から5年延長されます。

また被害時に18歳未満の場合、18歳になるまでの期間を加算するなど、時間が経過した性犯罪被害の立件にも取り組むことができるようになります。

そして、加害者を生まない教育こそ、性犯罪である痴漢の未然予防にとって重要です。

文部科学省は、子供たちを性暴力の加害者・被害者・傍観者にさせない「生命(いのち)の安全教育」を令和3年度から開始したところですが、 加害者にならない教育については、厳罰化された場合に受ける刑罰を具体的に学んだり、痴漢加害者やその家族も深刻なダメージを受けることなど、もっと内容を充実していくことも大切でしょう。

道徳、社会科、公民科、特別活動、総合的な学習の時間などでの教科横断的、実践的な学びも重要です。

最後にもう一度繰り返しておきます。

痴漢は重大犯罪です、悪いのは加害者です。

被害者は悪くありません。

この記事が、痴漢被害を受けた子ども・若者や、相談を受けた大人のみなさんにとって少しでも役立てばと願っています。

そして、痴漢被害ゼロの日本が一刻も早く実現されることも。

※この記事の執筆に際してご協力いただいた文部科学省はじめ関係省庁のみなさまに感謝申し上げます。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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