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こども家庭庁設置法がすごかった!でもやはり #こども基本法 が必要な2つの理由

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
内閣官房・こども家庭庁設置法案

こども家庭庁設置法の法案が閣議決定され、3月国会での成立が既定路線となりました。子供の権利を考慮することを基本とし、こども政策を推進する省庁が日本に創設される素晴らしい法案です。

それとともに、やはり政策の共通理念としての子供の権利を明記した「こども基本法」が必要です。

こども基本法が、国会・全省庁・自治体等の関係者はじめ日本国民に共有されることで、こども政策に横串を通し、どのような場面でも子どもが安全安心に育まれる日本の基盤になっていくからです。

私自身もこども基本法の成立を求めます!PTの呼びかけ人として、署名キャンペーンを実施しつつ、与野党に要望書を提出している途中です。

前半1,2ではこども家庭庁設置法の特徴と課題、後半3ではこども基本法が必要な理由について、状況を整理しました。

1.こども家庭庁は「こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本」としている

こども家庭庁設置法案は昨日2月28日に内閣官房のHPで公開されていますが、こどもの意見の尊重、こどもの最善の利益を考慮することを基本とする点で、素晴らしい内容です。

第3条にこども家庭庁は「こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本」としていることが明記されているのです。

またこどもの権利擁護も、こども家庭庁の役割に含まれており、子供の権利の尊重と実現が進むことが期待されます。

「子育てにおける家庭の役割の重要性を踏まえつつ」政策が推進される点も、これまでの内閣府・厚労省・文科省にまたがる子育て支援政策の蓄積を反映したという特徴があるでしょう。

内閣府・厚労省・文科省だけでなく、民間からも人材を集め、300人規模で発足予定のこども家庭庁ですが、官民の人材が力を合わせ、子供たちのために充実した政策を展開することを期待しています。

2.ちょっと心配な縦割り化、不登校対策も明記されず

少し心配な点もあります、こども家庭庁の所掌事務(組織の役割)を定めた第4条18号です。

こどもの権利利益の擁護に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)

これは法務省の「子どもの人権110番制度」等がすでに設置されている実態をふまえたものだと考えられますが、こども家庭庁の役割がどうなるのかは今後明確にされる必要があります。

また、こどもの権利利益の擁護に関することが、縦割り化してしまうのではないかという心配もあります。

不登校対策もこども家庭庁の役割には明記されておらず、学ぶことだけでなく休養やケアも含めた支援が必要な子どもたちへの取り組みが置き去りにならないか、などの心配もしています。

いじめについてはこども家庭庁の任務(第4条第17号)に以下のように明記されています。

いじめ防止対策推進法(平成二十五年法律第七十一号)の規定によるいじめの防止等に関する相談の体制その他の地域における体制の整備に関すること

いじめ相談体制だけではなく、被害者ケアや加害者アプローチ・再発防止支援などへの取り組みが進むことも期待しています。

同時に不登校対策も急務です。

もちろん、「こどもの安全で安心な生活環境の整備に関する基本的な政策の企画及び立案」(第4条第9号)には、不登校対策も含まれているという解釈も可能ですが、こども家庭庁をめぐる国会質疑の中で、ぜひ確認していただきたいものです。

いっぽうで「行政各部の施策の統一を図るために必要となる」総合調整機能(第4条第2項、第3項)、こども家庭庁長官の「資料の提出、説明その他必要な協力を求めることができる」権限(第5条)などが定められており、司令塔機能がしっかり発揮されることも急務です。

コロナ禍の中で、不登校・長期欠席の児童生徒が30万人に拡大する中で、安全安心な生活や学び・つながりの保障については、文部科学省だけではなく関連省庁をあげた取り組みが必須であり、こども家庭庁の司令塔機能に大きな期待を寄せています。

3.こども家庭庁の任務は「こどもが自立した個人としてひとしく健やかに成長することのできる社会の実現」

―子供に実現すべき理念の規定はこども家庭庁設置法だけでは不足

ところでこども家庭庁設置法第3条には、こども家庭庁の任務が以下のように示されています。

第三条(任務)

こども家庭庁は、心身の発達の過程にある者(以下「こども」という。)が自立した個人としてひとしく健やかに成長することのできる社会の実現に向け、子育てにおける家庭の役割の重要性を踏まえつつ、こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本とし、こども及びこどものある家庭の福祉の増進及び保健の向上その他のこどもの健やかな成長及びこどものある家庭における子育てに対する支援並びにこどもの権利利益の擁護に関する事務を行うことを任務とする。

つまり「こどもが自立した個人としてひとしく健やかに成長することのできる社会の実現」が最大の任務であるということが示されています。

そのために3つの主要任務が明記されています。

①こども及びこどものある家庭の福祉の増進及び保健の向上

②その他のこどもの健やかな成長及びこどものある家庭における子育てに対する支援

③こどもの権利利益の擁護

「子育てにおける家庭の役割の重要性を踏まえつつ、こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本」とされていますが、これは任務そのものではなく、その前提となる理念的なルールです。

すなわち子供自身の権利の尊重については、任務の際に考慮すべき基本ルールとして明記はされていますが、「こどもに実現されるべき理念(子供の権利の尊重と推進)」自体は明記されていません

教育関係者が見れば、すぐにご理解いただけると思いますが、教育政策では、教育基本法において「教育の目的および理念」が第1章に掲げられていることを考えると、もの足りなさがあります。

こども家庭庁設置法は、国の行政機関の新設に関する法律です。

当然のことながら「こどもが自立した個人としてひとしく健やかに成長することのできる社会の実現」のために「こどもに実現すべき理念」を定めるための法律ではありません。

共通の理念がなければ、それぞれの省庁や自治体部局で、大人たちがバラバラの理念、違うルールのもと、違うゴールを目指し、子供たちはいままでどおり置き去りになってしまいかねません。

すでにこどもの安全を守る政策で、関係省庁が「やらない理由さがし」をそれぞれの省庁の理屈で展開している実態も把握されています。

私自身は、当初からこうした事態が発生しないように、こども家庭庁が有効に機能するためには、財源・人員とこども基本法の3点セットが必要であると主張してきました。

※末冨芳,こども庁は財源論と子ども基本法とセットで本気の公約!#子育て罰をなくそう、#児童手当削減やめよう(2021年4月2日,Yahoo!個人)

また、こども家庭庁設置のための内閣官房ヒアリングでも、こども政策に横串を刺すための理念法であるこども基本法の重要性を指摘しつづけてきました。

内閣官房・こども政策の推進に関わる有識者会議・第3回資料
内閣官房・こども政策の推進に関わる有識者会議・第3回資料

セーブザチルドレンジャパンの「こども家庭庁の設置法案の閣議決定にかかわる声明」でも、こども家庭庁の政策理念を提示するものとして、こども基本法が重要であることを訴えています。

3.権利基盤の基本法を:こども家庭庁創設と並行して与党内で議論されているこども基本法は、こども家庭庁の政策理念を提示するものになります。同基本法が、子どもを権利の主体として認識し、その最善の利益を確保し、意見表明権を含む条約で認められる権利を実現するためのもの、つまり、子どもの権利を基盤とするものになり、今国会で成立することを強く望みます。

この際に、教育基本法、成育基本法、児童福祉法など、関連法規との整合性を重視することも重要でしょう。

こども基本法自体に厳しい姿勢を示し「誤った子ども中心主義」という懸念を表明する国会議員もおられますが、その懸念にも対応することは対話を重んじる民主主義国家として重要だと私自身は考えています。

日本国憲法に定める基本的人権を子供にも実現し、国内法として体系性整合性を保つための具体的な検討が行われることで、こども基本法に対する懸念も解消していくことが重要でしょう。

小括:こども基本法が必要な2つの理由

ここまでの議論をまとめると、こども基本法が必要な理由は2つです。

1.こども政策に横串を通すために全関係者が共有する「共通理念」が国内法として必要

2.こども家庭庁設置法だけでは、「共通理念」は明記しきれない

このような状況の中で、こども家庭庁と同時に、こども基本法の成立が重要であり、自民党公明党も議論を進めているのです。

次の記事では、こども基本法にどのような理念が明記されるべきか、日本国憲法や関連法制、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)から考えてみたいと思います。

※次回記事については3月4日までに公開する予定です。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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