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不登校・自殺過去最悪、なぜ改善できないか?政府調査・体制の問題点 #子ども基本法 #こども庁

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

つらいニュースが飛び込んできました。

小中高生の不登校・自殺者数が昨年度(2020年度)、過去最悪になったのです(文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要」)。

1.ついに不登校約20万人に

「新型コロナウイルスの感染回避」による長期欠席3万人超

中高生の自殺者も過去最悪

文科省「令和2年度・問題行動・不登校調査」によって、日本の子ども若者が大変な状況に置かれていることがあきらかとなりました。

とくに衝撃的だったのは以下の3点です。

・小中学生の不登校がとうとう約20万人に(196,127人)

・自主登校は小中高校生で3万人超(30,287人)

・小中高校生の自殺者数は415人、統計開始以来最悪

2.なぜ小中高校生の不登校・自殺は改善できないか?政府調査の問題

厚労省・警察庁・文科省調査で見過ごされる教員ハラスメントと家庭の社会経済階層(SES)

なぜ小中高校生の不登校・自殺は改善できないのでしょうか?

主な原因は、そもそも文科省「問題行動・不登校調査」や厚生労働省・警察統計などにおいて、子ども若者の不登校・自殺の原因分析や予防・改善に必要なデータが十分に取られていないことにあります。

具体的には、子ども若者の不登校・自殺対策のために、収集されるべきデータが調査項目から外されているのです。

そもそも文科省の「問題行動・不登校調査」は、学校の教員が認知した小中高校生の状況が集計されているにすぎません。

したがって教員による性暴力・虐待・ハラスメントが原因となった不登校・自殺は隠蔽されていてもおかしくありません。

自殺リスクの高い児童生徒の自殺未遂の調査もないのです。

教員からのわいせつ行為で自殺未遂になりいまも意識不明になっている生徒がいますが、この生徒の自殺未遂は自殺者の統計に含まれていないはずです(読売新聞「元担任と親密な関係、やがて苦しんだ女子生徒は自殺図る[心の傷]<上>」(2021年4月22日))。

こうした実態を考えると、学校経由の調査だけでは不足であり、当事者の児童生徒や保護者への調査も必要となることがご理解いただけるでしょう。

また既存の政府調査には次のような問題があります。

まず不登校に関する調査の問題点は次の通りです。

問題行動・不登校調査の場合には、以下の表のように「親子の関わり方」に問題があると学校が把握したケースが最多となっています。

文部科学省「令和2年度問題行動・不登校調査結果概要」より
文部科学省「令和2年度問題行動・不登校調査結果概要」より

問題は、その親子の生活困窮度、虐待の有無、所得、ひとり親等、家庭の困難度が調査されていないことなのです。

不登校の中には、生活困難や保護者の疾患などにより、子どもだけで生活習慣を整えられない家庭などの、「脱落型不登校」と呼ばれるケースが一定数あることが研究者によって指摘されてきました。

※酒井朗・川畑俊一,2011,「不登校問題の批判的検討--脱落型不登校の顕在化と支援体制の変化に基づいて」『大妻女子大学家政系研究紀要』第47号, pp.47-58.

子ども若者の貧困支援を行っている団体も、生活困難な家庭に不登校児童生徒が多く発生していることを把握しています。

しかし政府調査で不登校・自殺の背景に潜む家庭の困難度の検証ができないのです。

多くの研究者・専門家が長年この調査の改善を訴えてきましたが、現在まで文科省の対応はされていません。

問題行動調査をはじめとする文科省調査で、保護者の社会経済階層(SES)等の家庭のバックグラウンドデータを収集し、分析する必要性については、私も教育政策分野の研究者として、今年(2021年)7月15日の中央教育審議会・教育課程部会で指摘しています。

また自殺については、警察庁の「自殺の状況」、警察庁自殺原票データに基づいて、厚生労働省が集計を行う「自殺統計に基づく自殺者数」、学校からの報告にもとづく文部科学省の「問題行動・不登校調査」の3種類の統計が存在しています。

しかし下図のように警察庁調査と文科省調査の自殺者数が一致しないなど、大きな問題があります。

文部科学省「令和2年度問題行動・不登校調査」
文部科学省「令和2年度問題行動・不登校調査」

また警察庁が自殺の原因を詳しく捜査しても、子ども・若者の自殺予防のためにその情報が活用できないというもどかしい現状があります。

この3省庁の連携のうまくいかなさが、子ども若者の自殺対策の障壁でもあるのです。

3.子ども若者の自殺予防体制は、警察庁・厚労省・文科省の間で「パス回し」

誰も子どもの命を守らない?

子ども若者の命を守る子ども基本法成立、そしてこども庁、子ども予算が必要

コロナ禍直前に、子ども若者支援団体と連携して、私も改善しようとしていたのが、子ども若者の自殺予防の体制でした。

しかし子ども若者の自殺予防こそ、警察庁・厚労省・文科省の間で「パス回し」(責任逃れ)に終始しています。

なぜならどの省庁もその設置法に、子どもの命を守ることに責任を持つとは書いていないからです。

その前提として子ども若者の生命や尊厳、人権を守る子どもの権利基本法(子ども基本法)が我が国には存在しないことが課題としてあげられます。

子ども若者の命を「パス回し」せず守るためには以下の法・政策・予算が急務です。

・子どもの生命、尊厳と人権を守る子ども基本法の成立

・子ども基本法にもとづき、子どもの命を守る業務を設置法に明記したこども庁の創設

・子ども若者の自殺予防に有効な対策への政府予算拡充

(家庭の生活困難の解消、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー常勤化・増員による子ども若者の相談体制の整備、政府調査の抜本的改善等)

また不登校についても、政府調査の改善により要因を特定し、貧困・虐待等が要因となっているケースについては、省庁の施策に横串を通し、効果的な政策・予算を構築することが急務です。

おわりに:子どもの命を守る法・政策・予算は自公連立政権に課せられたノルマである

全国一斉休校を強行した安倍晋三総理大臣(当時)は「生じる課題に政府として責任をもつ」と明言

子ども若者の命も学びも脅かされる日本にあって、子どもの命を守る法・政策・予算は自公連立政権に課せられたノルマであるともいえます。

2020(令和2)年度に、子ども若者の不登校・自殺者数が最悪となるだろうことは、昨年2月27日の一斉休校宣言当時から、支援者・専門家・研究者が懸念していた事態でした。

その最悪の事態を私たちは、目の当たりにしているのです。

全国一斉休校を強行した安倍晋三総理大臣(当時)は「生じる課題に政府として責任をもつ」と明言されました(NHK「臨時休校『生じる課題に政府として責任をもつ』首相(2020年2月28日))。

だとすれば、子どもの命を守る法・政策・予算は自公連立政権に課せられたノルマだと言えます。

法・政策・予算もいずれも充実させなければ、子どもたちの命も再び守れず、学校に行くことのできない小中高生は来年度も増加するリスクも高いと考えています。

政府調査により一斉休校と不登校・自殺との関連性もより明確にする必要があります。

自民党・公明党も子ども若者の命や学びは「パス回し」して責任逃れするのでしょうか?

それとも、子ども基本法、こども庁、そして抜本的な予算増で、子ども若者の命を守るというゴールを決められる政治になるのか。

衆議院選挙での各党とくに与党自民党・公明党の公約・主張を見守り、選挙後の取り組みでこそ、子ども基本法・こども庁・子ども若者予算増が実現されるかどうか、私も注視しつづけます。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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