自民党青年局・女性局主催の公開討論会(9月20日)においては、子ども・若者政策への質問が充実していました。

それぞれのお立場から、国民生活や日本の将来を考え、わかりやすく鋭い質問を発してくださった自民党女性局・青年局のみなさまに、敬意を表します。

自民党の人材の層の厚さを私もあらためて実感しました。

この週末に開催された討論会や、報道から把握すると、端的に言えば、現時点で子ども・若者に優しい候補は、以下の通りです。

1位 野田候補  2位 岸田候補・高市候補  3位 河野候補

私自身は自民党が、親子・若者に冷たい子育て罰をなくすためには、総裁候補が2つのポイントについて方針を明確にする必要があると考えています。

1.現金給付(児童手当や若者給付金)の充実

2.教育の無償化の所得制限の緩和

9月20日公開討論会は、これらの点について、候補間の違いを鮮明にするものでした。

1.河野候補、高市候補は若者への現金給付を忌避する候補

令和でも「貧乏人は麦を食え」?

高市候補は会見で子ども・若者への現金給付・無償化拡充を明言

河野候補は現金給付拡充は一切なし

まず残念に思ったのは、河野候補・高市候補が、コロナ禍の学生支援についてもっとも必要な現金給付を明言せず、後述するような学生ローン拡充と、現物給付(食料支援)で乗り切る方針を明言した点にあります。

TBSニュースからは以下のようによくまとまった要点が示されています。

※TBSニュース「自民党総裁選で討論会 4候補主張に“温度差”も」(9月20日)

河野太郎行革相

 「食費にも困っているという方が結構いらっしゃいます 。例えばお米、野菜という現物を学生さんへ支給することも手段として十分あり得る」

高市早苗前総務相

 「子ども食堂、こちらへの支援とともにですね、フードバンクへの支援をとても強化をしたい」

視聴していた私からは「貧乏学生には食べ物でも与えておけばよい」という、家賃や交通費、教科書代、オンライン授業のための通信費にも事欠く中で、それでも勉学に励もうとする学生の苦境に寄り添わない残念な発言に聞こえました。

1960~64年に自民党総裁であった池田勇人氏が、1950年12月の通産省時代に「貧乏人は麦を食え」と発言し、国会が紛糾したという事件がありました。

令和においても「貧乏人は麦を食え」の差別的な発想が総裁候補の中にあるのだとすれば、残念なことです。

子ども・若者こそ所得再分配の中で冷遇され、公助も手薄い日本です。

国民政党を名乗る自民党の総裁には、若い世代にも効果の高い現金給付も実現いただき、相対的に効率の悪い政策手段である現物給付だけを重視なさることがないよう期待したいところです。

ただし高市候補は、別の記者会見の場で、「中所得の世帯を対象に第2子3万円、第3子以降6万円の現金給付というものを確立する。高等教育の無償化も、第2子の所得要件を緩和、第3子以降は要件を撤廃をする。育児休業時の実質手取りをさらに引き上げていく」とおっしゃったことが報道されています(デイリー9月8日報道)。

対称的に河野候補は、これまで子ども・若者や子育て世代への現金給付・教育の無償化の拡充を明言されていません。

9月20日討論会では、返済義務のない奨学金の拡充も明言されていますが、教育の無償化の所得制限緩和、児童手当や若者給付金などへの言及は、総裁選出馬表明以降、私が確認している範囲においてありません。

残念ながらいまのところ子育て罰総裁候補ワーストワンになっているのは、河野氏だと指摘せざるを得ません。

河野氏のおっしゃる「ぬくもりある社会」を作るための政治は、子ども・若者には冷たい政治なのでしょうか。

2.野田候補、岸田候補は、現金給付も重視

いっぽうで、当初から子どもに対しては我が国の成長戦略として大胆な投資を打ち出しておられる野田候補は、若者に対しても現金給付を実施されることを明言されました。

※TBSニュース「自民党総裁選で討論会 4候補主張に“温度差”も」(9月20日)

野田聖子幹事長代行

 「私は速やかに困窮している学生に現金給付をすべきと言い切ります。(財源は)国債でもいいと思います、赤字国債でも」

当初は子ども・若者や子育て世代への投資に消極的なのではという印象もあった岸田候補も、教育費・住居費支援とともに、若者への現金給付にも踏み込んでおられます。

他の候補との対話や、自民党の若い世代からの質問の背景にある、若者も追い詰められる日本社会にも寄り添う姿勢が、確認できます。

岸田文雄前政調会長

 「ぜひ現金等をしっかりとした支援も用意しなければならない。バイトのマッチング、こういった工夫もしなければなりません」

3.現物給付は財政効率も政策効率も、現金給付より相対的に低い政策手段

自民党の困窮者への”上から目線”が心配

さて、河野候補、高市候補がこだわる、子ども食堂やフードバンクなどの現物給付ですが、財政効率が相対的に低い政策手段であり、子ども・若者の貧困解消という政策目的の実現に寄与する度合いでは現金給付の方が有力な政策なのです

仮に子ども1人1万円の予算があるとして、子ども食堂・フードバンクに使うと数十%は関わる団体の人件費や、食料輸送費・倉庫経費などのロジスティクス費用に消えていきます。

つまり実際に子ども・若者が食べられる食料は数千円分になってしまいます。

現物給付の政策的価値は、困難層への「つながり」を作る点にあると私は考えています。

フードロスの改善手段としても重要でしょう、しかし貧乏人は余った食料を食えという”上から目線”の政策手段にもなりかねない点は心配です。

子ども食堂やフードバンクで自治体・団体がカバーできる世帯数には限りがあり、いまのところ貧困解消の有力な手段だという計量的エビデンスは、日本では確立されていません。

これに対し、現金給付であれば、子ども1人1万円を家計で使えることになります。

どちらが困難な状況の子どもに、より良い支援になるか、みなさんもご理解いただけるのではないでしょうか?

子どもの貧困の解消には現金給付の拡充がもっとも高い政策効果があることはアメリカの研究からもわかっており、現物給付(フードスタンプ)よりもその効果は高いのです。

アメリカのフードスタンプは、子ども食堂やフードバンクと異なり、低所得層が食料を買う際にデビッドカードのように決済ができる仕組みですが、それでも現金給付である子ども手当のほうが貧困削減効果が高いのです。

内閣府・子供の対策に関する有識者会議でも、2019年5月に周燕飛氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構・当時)より報告されています。

第12回内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議・周燕飛氏報告資料(2019年5月13日)
第12回内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議・周燕飛氏報告資料(2019年5月13日)

4.自民党が現金給付を嫌うのは困窮世帯への差別意識では?

自民党はとにかく現金給付(児童手当含む)が嫌いな政治家が多い政党です。

私はその根底には、困窮世帯への差別意識があるのではないかとも懸念しています。

貧乏人に現金を与えても、パチンコやアルコールに使うのではないか、といった賎民観を持っているのだとすれば、わが国の憲法が保障する基本的人権を理解していないことになります。

そのような国会議員は日本国の選良たる政治家としてふさわしいのでしょうか?

私自身は、日本国憲法に定める人権を理解せず、差別意識を持つ国会議員に私も納めている税金を使ってほしくありません。

コロナ前から日本の子育て世帯の約2割は、食料も衣服も買えない実態があります。アルコールやパチンコどころではないのです。

1日3食どころか1食ですら満足に食べられない、肉も卵も食べられない、豆腐ともやしで親子が飢えをしのぐ子育て罰大国・日本の実態を自民党議員はご存知ないのでしょうか?

※瀬谷俊介「子どもに豆腐ともやししか食べさせられない、年収50万円ない家庭も。最貧困層の『限界』」(BuzzFeed News,2021年2月8日)

繰り返しますが、このような親子を救うには、現物給付より現金給付のほうが効果が高いのです。

河野氏を含め自民党総裁候補は、エビデンスにもとづく政策立案(EBPM)の重要性を分かっておられるはずです。

とくに子ども若者世代を冷遇しているといっても過言ではない日本政府の所得再分配制度のもとでは、現物給付よりも現金給付のほうが、日本でも子どもの貧困の改善に効果が高いことは、研究者たちからも支援団体からも何度も自民党に提言されてきました

新しい自民党総裁が、エビデンスを無視するのであれば、コロナ禍対応と同じく、政治リーダーのいう安全安心を信じることができない日本になってしまうのではないでしょうか。

5.HECSは学生ローンの拡充にすぎない

卒業後の返済負担が今より重くなる学生も

さていま自民党はHECSという学生の所得連動型返済ローンに注目しています。

在学中の授業料は国が立て替え、卒業後に所得や職業に応じて返済する仕組みになります。

オーストラリアの仕組みを参考にして作られていますが、たとえば弁護士になって高い所得を稼ぐ学生ほど返済額が、在学中に実質的に要した経費よりも高くなる仕組みとなります。

逆に教師や看護師など、社会的役割が高いわりに、所得が低い専門分野の学生は、その職業に従事すれば低いローン返済額になるという仕組みです。

国によっては低所得状態が一定期間(25年等)継続すれば返済免除となる時効制度も整備されています。

HECSの詳細は以下の論文もご参照ください。

※寺倉憲一,2011,「高等教育費の負担軽減をめぐる諸問題-我が国の課題とオーストラリアにおける所得連動型学生ローンの事例-」『レファレンス』平成23年9月号

このほかオーストラリアは低所得の若者への若者手当も日本より充実しており、HECSを利用できる大学の認証制度も大学生の卒業後の労働市場への貢献を計量的に評価するスキームを利用しているなど、そもそも前提条件が大きく異なります。

日本においてHECSを導入するに際しては、様々な課題をクリアしなければなりません。

教育費問題の専門家として私も10年以上、日本におけるHECSの導入可能性の議論に関わってきましたが、日本での導入は簡単にはいかない、ということを専門家として申し上げておきたいと思います。

6.自民党総裁は進化する存在、脱子育て罰政党への転換を!

9月22日こども庁所見表明にも注目

ここまで、一部の候補には厳しい批判もしてきましたが、自民党総裁も学習し進化する存在だと思って、総裁選を見守っています。

日本から子育て罰をなくすためのもっとも重要な政策手段が、現金給付です。

とくに人気が高いとされる河野氏が現金給付を忌避しつづけるのかどうかは、注目に値します。

自民党が子育て罰政党として少子化亡国に我が国を導いてしまう可能性もあるのですから。

9月22日には、自民党において「こどもまんなか」の政策を打ち出し、子ども庁創設を提言くださった、Children First の子ども行政のあり方勉強会が主催する「こども庁創設にむけて自民党総裁選立候補者より所見表明」が開催されます。

自民党は脱子育て罰政党になれるのでしょうか?

この場において、各総裁候補がどのようなメッセージを打ち出すのか、現金給付に踏み込めるのか、子どもにやさしい日本にならなければと願う大人たちこそ注視しなければなりません。