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菅総理、仕事人内閣はどこへ?親子・国民の命を守る補正予算は総裁選・衆院選に優先では?#子ども緊急事態

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
菅義偉総理大臣(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1.総理の自分ファースト選挙は選挙の王道でも、政治の王道でもないのでは?

菅総理が、国会を開催せず、衆議院解散や総裁選を優先させる報道ばかり流れています(NHKニュース9月1日)。

もしもこれが事実だとすれば、菅総理は自らが総理の座にとどまることを優先し、親子や国民の命を守る補正予算を後回しにしようとする態度です。

これが国民の信頼に値する政治と言えるでしょうか?

また支持率26%にまで下落した中で、自民党の選挙戦略として合理的な選択なのでしょうか(毎日新聞世論調査・8月28日)?

政治の王道とも、選挙の王道だとも思えません。

2.いま最優先すべきは国会をひらき、親子や国民の命を守る補正予算を成立させること

騒々しい政局報道の中で、与党野党とも、この瞬間も親子や国民の命を守るために、地道で丁寧な活動をされている国会議員も多くおられます。

このような国民ファースト、子どもファーストの国会議員は、国民の命と暮らしを守るための補正予算こそ政治がいま最優先で取り組むべき事項であり、総裁選、衆議院選は後回しである、という思いを持って、活動されています。

それこそが政治への信頼を回復させることになるはずでもあるからです。

多くの子どもの貧困支援団体や、生活困窮者支援団体は、親子や国民の命を守るために、困窮子育て世帯の特別給付金のいますぐの支給、生活保護の要件緩和、住宅確保金等の支援制度の延長など求めてきました。

私自身は教育学の研究者として、子どもの学びを守るための補正予算を、与党野党問わずお願いし、政党やご自身の選挙対応もある中で、国会議員の方々が昼夜を問わずご尽力くださっています。

昨日、加藤官房長官厚生労働省が迅速に対応を発表された、保護者の休業補償の個人申請も、こうした親子を大切にする与党野党議員の活動があってのことなのです。

3.いまの日本は子ども緊急事態

子どもが感染するデルタ株まん延の恐怖

子ども食堂から食料が消えた夏

オンライン授業を受けたくても受けられない高校生

私が急いでこのような記事を書いているのは、いまの日本は子ども緊急事態、とでも言うべき状況だからです。

とくに子どもが感染するデルタ株がまん延し、都市部を中心に医療崩壊が起きている状況の中で、親子の不安はかつてなく高まっています。

感染拡大につながりかねないパラリンピック学校連携観戦を菅政権が推進したことも、政治不信に拍車をかけています。

子どもが感染するデルタ株まん延の恐怖の中で、学校に行きたくない、行かせたくない児童生徒や保護者は多くいます。

いっぽうで、2020年安倍政権一斉休校の時のように、臨時休校で職を失うことを恐れる保護者も多くいます。

親子の命と暮らし、子どもの学びを守る政策、補正予算がこれほど急がれるタイミングはありません。

困窮する親子の増加で、各地の子ども食堂からは食料が消えたという悲鳴があがった夏でした。

また、デルタ株休校により、オンライン授業になったとしても、小中学校と違い国が予算をつけていない高校では、パソコンや通信環境が家にないためにオンライン授業が受けたくても受けられない高校生がいます。

このような子ども緊急事態を放置する政治であってはならないはずです。

4.仕事人内閣はどこへ?親子・国民の命を守る補正予算は総裁選・衆院選に優先

菅総理の現内閣は仕事人内閣と呼ばれています。

多くの批判はあるでしょうが、加藤官房長官、萩生田文部科学大臣、田村厚生労働大臣、坂本少子化担当大臣はじめ、私が政府委員としての役職を通じて動向に触れることのある閣僚は、多忙を極める中でも、全国一斉休校という愚策を阻止し、必要な補正予算案にむけて動きを速めておられます

親子・国民の命を守る補正予算、子どもの学びを保障する補正予算は、総裁選・衆院選に優先するという理解があればこそ、政局に流されず着実な動きをすすめておられると推測しております。

5.菅総理、選挙の前に、補正予算で親子・国民に急いで実現すべきことをお願い申し上げます

最後にあらためて菅総理にお願い申し上げます。

総裁選や、衆議院選挙の前に、親子や国民が安心して暮らせるための補正予算成立をお急ぎください。

短い会期でかまいません、補正予算のための国会を召集してください。

親子の命を守るため、子ども若者の学びを守るためにお願いしたいことをリストにしました。

ほんとうはもっとたくさんありますがとくに優先度の高い補正予算を一覧にしました。

・困窮子育て世帯給付金の緊急給付(子ども1人5万円まず予備費から選挙前に急いで給付、大人の困窮世帯にも同様の緊急給付金)

・生活保護の要件緩和(自治体水際作戦の禁止、子どものための貯蓄の保全、仕事・通院等のための車保有を認める)

・休校時等のオンライン授業が受けられるための児童生徒の自宅用デバイス・通信環境の整備(とくに高校生)

・オンライン授業対応や消毒で多忙化する学校現場のためのスクールサポートスタッフ増員

・オンライン授業後進自治体を中心にICT支援員配置、全自治体での増員

・低所得世帯の受験生のための受験料支援・入学金貸付制度の全都道府県への創設

親子と国民の命と暮らし、子どもの学びを守ることこそが、政治の王道であり、仕事人内閣を率いてこられた菅総理の実力を発揮されるべき場面です。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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