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【STOP!教員の性暴力】免許法改正見送りでも子どもを守る!被害者ゼロへの道はあるのか?6つの提案

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(提供:Paylessimages/イメージマート)

 わいせつ教員に対する教員免許の再交付を、実質無期限でにしようとする教員免許法改正ですが、1月からの次期国会での法改正断念・見送りとなりました。

 萩生田文部科学大臣および文部科学省は、子どもを被害から守りたいという方針で、この間、関係省庁と協議を続けてきました。

 しかし日本の現実はとても厳しかったのです。

 今回の法改正断念・見送りには、日本の法制そのものの課題や、小児性愛に関する医療の遅れなど、内閣法制局や厚生労働省含め、子どもの安全を置き去りにしている日本政府の実態があきらかになりました

法制局との協議の中で、刑法の規定上、実刑判決を受けても服役後10年が経過すれば、刑を受けたことがない者として取り扱われるとの指摘があった。

また、小児性愛との診断を受けると免許を取得できなくする規定を新設する案もあったが、法制局や厚生労働省から小児性愛の概念や診断基準が不明確との見解が示され、見送った。

※時事通信「教員免許の無期限失効、見送りへ わいせつ厳罰化で検討―文科省」(12月25日)

 もちろん刑法犯でも服役後10年経過すれば、罪を償えば刑を受けたことがない者として取り扱われるのは、人権保護や社会復帰の上で大切なことです。

 しかし教員の性暴力から子どもを守ることこそ、とても大切なことのはずです

 文科省だけでなく、政府をあげて、今回あきらかになった課題を改善し、早期の法改正を実現すべきです。

 この記事では、教員免許法改正を待たずとも自治体・教育委員会・学校で可能な対策についてまとめていきます。

 場合によっては保護者の方やPTAで、これらの対策を冷静に学校に提案することも重要であろうと思われます。

1.全小中高校(教育委員会・学校法人)でセクハラアンケートのオンライン実施を!

―予防・早期相談こそ被害者ゼロへの最速の道

 まず全小中高校でセクハラアンケートのオンライン実施をすることは、有効な予防策になります。

 わいせつ教員がいる学校環境で紙で配布されるアンケートではなく、オンラインで教育委員会に直接回答が届く方式であれば子どものプライバシーが保たれます

 こうしたアンケートが重要なのは、性教育が十分とはいえない日本で、子どもの側にアンケートの内容にある行為が性暴力に相当するのだと気づかせることで、予防や早期相談につなげることができるからです。

 また教員にとっても抑止力となることが期待できます。

 アンケートに記載されているような内容が、教育委員会に直接子どもから被害深刻されうると意識すれば、わいせつ教員が子どもに加害することができづらい環境を整えることができるでしょう。

 しかしながら、わいせつ・セクハラアンケートは4府県(千葉県、神奈川県、大阪府、静岡県)でしか実施されていません。

※弁護士ドットコム「教員から生徒への『性暴力被害』調査、実施は4府県のみ NPO代表『懲戒処分は氷山の一角』」(9月20日記事)

 だからこそ、全小中高校でのわいせつ・セクハラアンケートが必要なのです。

 教育委員会が所管する公立学校だけでなく、国立大学付属校や学校法人設置の私立学校などすべての設置者が、教員の性加害は学校中でも外でもで児童生徒に対して起こしてはならないこと、という意識を共有し、実施すべきではないでしょうか?

 教員の性暴力は起きてしまえば、性別を問わず被害者の心身に重大な被害を与えます。

 大人になっても被害に苦しむことを考えれば、予防こそもっとも重要な対策はずです。

2.教師―生徒間の恋愛関係などあり得ない!

―ル―ルの明確化が必要、学校の服務規定、自治体の性暴力防止条例・青少年保護条例等への明記を

 被害の相談や発見がしづらいのは、教師―生徒間に恋愛感情があるという認識を、被害者の側が有している場合に起こりえます

 自己責任論の強い日本では、被害者の側が、好きになった自分が悪いと被害を相談しづらくしてしまいがちな環境があることにも留意しなければなりません。

 もちろん責任は大人である教員の側に全面的にあります。

 児童生徒が恋愛感情を教員に持つことは、成長の中では、ごく自然に起こりうることの1つです。

 だからこそ、大人である教員の側が「教師―生徒間の恋愛関係などあり得ない!」と強く意識を持っていなければ、自分も児童生徒も守ることができないのです。

 学校の服務規定への明記はもちろんのこと、自治体の性暴力防止条例・青少年保護条例等に、教員から児童生徒への性暴力・性加害の禁止を含む規定を明記し、何重にも子どもを守るためのルールを整備をすることも必要です。

3.被害者のケア・保護の体制の整備は急務

―体罰・暴言にも同様の課題

 とはいえ、実際に被害が起きてしまったときに、被害者のケア・保護の体制を整備することも重要です。

 しかし、私の知る限り、教育委員会で被害者のケア・保護の体制の整備がされ、マニュアル化されている事例はありません。(もしご存知でしたらSNS等でお教えください。)

 神奈川県は、私の知る都道府県の中では、児童生徒へのケアの視点を持つ自治体ですが、「教員のコンプライアンスマニュアル~より良い学校づくりのために~」(平成30年12月)にも被害者の保護・ケアについての記載はなく、被害者のケア・保護の体制に特化したマニュアルもオンライン公開の範囲内では確認できません

 実は体罰や暴言などの他の犯罪行為・虐待的行為も含め、教員から加害を受けたときの被害者のケア・保護の体制は整備されていないのです。

 だからこそ、教育委員会や学校側から被害者およびその家族に、心ない対応がされ、二次被害を受けてしまうという例が後をたたないのです。

 弁護士、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、精神科医といった専門家や第三者の関与のもとで、適切な被害者保護の体制を、各自治体や学校法人が速やかに整備することも重要です。

4.不祥事という言葉の使用をやめる

―犯罪行為としての対応と処分を

 そもそも教員の不祥事、という呼び方自体も、犯罪でもある性暴力を隠蔽する言い方です。

 たとえば埼玉県は教員不祥事ポータルサイトを立ち上げていますが、そこにあげられている不祥事の例は、性犯罪以外にも覚せい剤使用や酒気帯び運転など犯罪行為ばかりです。

埼玉県教育委員会ホームページより
埼玉県教育委員会ホームページより

 埼玉県のHPはあくまでひとつの事例ですので、糾弾する意図はありません。

 むしろコンテンツを見る限り、教員の犯罪行為をなんとかしたいという埼玉県教育委員会の懸命な様子が理解できます

 だからこそ、不祥事ではなく犯罪行為と言い切る姿勢も重要なのではないでしょうか?

 教員による犯罪を不祥事という言葉でごまかすのではなく、犯罪行為として対応と処分をすることが、隠蔽を防ぎ、児童生徒・保護者や地域住民からの信頼を高める教育委員会・学校の前提条件となるはずです。

 もちろんこれは国立・私立にも同じことがいえます。

5.わいせつ教員の免職規定は文科省の精力的な努力により懲戒権を持つ都道府県・政令市で整備・運用中

―私立学校・国立学校は大丈夫か?

 文部科学省の精力的な努力により、今年9月に、懲戒権を持つ都道府県・政令市教育委員会で性犯罪を犯した教員は懲戒免職とするという指針規定が、整備・運用されるようになったことは、明記しておくべきでしょう。

 教育委員会の懲戒権の及ばない私立学校、国立学校でも同様の規定があるかどうかは学校によってさまざまだと思われます。

 文科省・都道府県による実態調査や、規定整備の例示など、公立学校以外も教員の性加害撲滅に取り組みやすい支援が重要と考えます。 

6.子ども基本条例制定と子どもオンブズパーソン設置

―学校以外の相談窓口と第三者関与を

 ここまで述べてきたのは、学校や教育委員会に必要とされる対策・対応でした。

 しかしながら、学校や教育委員会に不信を持たざるを得ない状況にある子ども・保護者の存在を前提としたときには、外部の相談窓口の存在も重要になります。

 この意味で重要なのは、性被害含め子どもの尊厳と権利を守ることができる仕組みです。

 具体的には、自治体での子ども基本条例制定と子どもオンブズパーソンの設置への取り組みが重要になります。

川崎市人権オンブズパーソンHPより
川崎市人権オンブズパーソンHPより

 川崎市では子どもの権利条例にもとづき、子どもをを含めた人権侵害から住民の尊厳と権利を守るオンブズパーソンを設置し「人権オンブズパーソン相談受付のお知らせ(いじめ・セクハラ等)」を市のHPにかかげています。

 このような学校・教育委員会外部の窓口が全国の自治体に設置され、学校・教育委員会の対策とともに機能することは、被害者をゼロに近づけていくうえでもとても重要な対策と言えます。

最後に:やはり法改正は重要

―教員免許法以外にも”子どもを守る”関連法整備を

 以上、教員免許法改正を待たずとも、自治体・学校でできる取り組みについて述べてきました。

 しかしながら、やはり法改正は重要です。

 私自身も2020年12月15日放送のNHK・クローズアップ現代プラスで学校教育法を含む関連法制の改正について述べたことがあります。

 日本は子どもを守る法制があまりに脆弱なのです

 教員免許法以外にも学校教育法・学校保健安全法・児童虐待防止法等の関連法制の整備こそ政府責任で行うべきであることを最後に強調しておきたいと思います。

 子どもが教員からの性暴力の犠牲者になりつづける日本のままでよいのでしょうか?

参考文献・サイト

池谷孝司,2017,『スクールセクハラ』,幻冬舎文庫.

NHK「学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/前編【vol.108】」(クローズアップ現代+,みんなでプラス)

NHK「学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/後編【vol.109】」(クローズアップ現代+,みんなでプラス)

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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