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「女性が働きやすい職場」とは一体どのような職場なのでしょうか?

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「あー、おっさんだらけの職場ってしんどいわー」(写真:アフロ)

◾️女性活躍は目指してきたが

みなさんの会社で、「えるぼし認定」や「くるみん認定」を目指して、職場環境の改善を図っているようなところもあるのではないかと思います。男女雇用機会均等法以来、これまでも多くの企業が女性の働き方には気を配ってきたようにも見えますが、相変わらず日本は男性社会で、腫れものにさわるような過剰な接し方になっているようにも思います。さて、どうすればよいのでしょうか。

◾️「えるぼし認定」「くるみん認定」とは

まず、「えるぼし認定」とは、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な会社に与えられる認定です。

「くるみん認定」とは、子育てサポート企業として行動計画を策定して、定めた目標を達成するなどの一定の要件を満たした会社に与えられる認定です。

後者は最近では男性も育児休暇を取得する人が増えているので(そもそも認定基準の中にも入っています)、けして女性だけを対象としたものということではありませんが、現状としてはこの2つの認定は、主には女性の働き方に対して影響を与えるものと言ってよいでしょう。

◾️日本はまだまだ女性が活躍しにくい社会

男女問わず各人の個性を活かして社会に貢献することができることは、人が等しく幸せに生きるためにはとても重要ですから、女性が働きやすい世の中になる動きは素晴らしいことです。

しかし、日本において、未だ女性が働きやすい環境になっているとは残念ながら言い難いのが現状です。

例えば、世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数(各国の男女平等の度合いを示した指数)では、日本は156カ国中、なんと120位です。

この指数には教育・健康・経済・政治と4つの領域があり、教育と健康は高いスコアなのですが、政治と経済が低いスコアとなりこのような結果になっています。

◾️どのくらい女性が活躍できていないのか

わかりやすい例を挙げると、政治については、日本は国会議員の女性の割合は10%に満たないですし、女性総理大臣も未だ出ていません。

経済の面で言えば、2021年版「男女共同参画白書」によると、このコロナ禍における雇用情勢の悪化によって、2020年の第1波での就業者の減少をみると、男性は1カ月あたりで39万人減少したのに対し、女性は70万人も減少しています。

ほかにも、帝国データバンクが2021年に実施した調査での女性管理職比率は過去最高ではあるものの、数字としては平均8.9%です。男女半々いる中では相当少ないと言わざるをえません。

◾️目標を掲げるとともに真の原因を探る必要がある

日本が、本当に女性が働きやすくなる国になるためには、冒頭の認定制度のような目標を掲げ達成することも重要であるとは思います。

しかし、1985年に男女雇用機会均等法が制定されて以来、既に40年近く経っているのにこの現状ですから、単に目標だけを掲げて「とにかくなんとかしよう」では、なかなか実現することは難しいのではないかと思います。

女性が働きやすくない「真の原因」を探らないまま、目標を作ったり掛け声だけを整えたりするだけだと、「これだけやっているのに女性が社会進出しないのだから、それが日本女性の意志なのだ」などという誤った考えなども生まれかねません。

◾️「出産・育児の仕事の両立の難しさ」が理由と言われている

「少子化社会白書」などの公の資料では、女性の社会進出が遅れている最大の理由は「出産や育児と仕事の両立の難しさ」だと言われています。

例えば、結婚や出産の予定のある女性が採用されにくかったり、育児休暇を取ると元の職位に戻れなかったり、正規雇用の労働時間の長いために育児中の女性は不安定な非正規雇用を選ばざるをえなかったり、ということです。

このために日本が女性の社会進出が遅れているというのは、確かになるほどと思う背景です。しかし、こんなことは何十年も前から言われていることですから、「それがわかっているのになぜ」という点がさらに本質的な問題ではないでしょうか。

◾️結局、他人事になっていないか

私見ですが、このようなことになるのは、女性が働きやすい職場にするという課題が、多くの男性管理職にとって、本当はどうでもいい「他人事」になっているからではないでしょうか。

そうでなければ、原因も対策もある程度わかっているのに、なかなか問題が解決されないなどということにならないからです。人は他人事だと思えば、なおざりに対応するものです。

自分が女性であればこの問題を本気で考えますし、あるいは自分の配偶者が女性で、実際に苦労しているところを見ればなんとかしようと思うことでしょう。

しかし、そうではないからテキトーに対応してしまい、成果が出ないのではないかと思うのです。

◾️「女性は腫れ物」というアンコンシャス・バイアス

多くの男性に悪意はないと思うのですが、言葉としてよく女性のことを「腫れ物」と表現しています(冒頭にも書いてしまいました)。「腫れ物」とは皮膚が腫れて膿んだもので、転じて「気難しい難儀な人」という意味です。

つまり、もしかすると、多くの男性にとって「女性が働きやすい職場にする」という課題は「本当は必要性を感じないが、社会情勢上必要と言われているので、面倒くさいが対応する」、そして「女性は、非合理な要求をしてくる面倒くさい難儀な人」と無意識に思っている、最近流行りの言葉で言えばアンコンシャス・バイアスがあるのではないかということです。

そんな状態では、女性が働きやすい職場など作れるはずはありません。

◾️自分の「女性が働くことへの偏見」を自覚する

どんな人でもアンコンシャス・バイアスはあります。

自分だけは「偏見などない」と思うこと自体が偏見を自覚し改善することを妨げます。そういう大勢の男性のアンコンシャス・バイアスが女性にとっての見えない壁になっているのです。

ですから、まず「男女平等は重々承知」「これまでかなり気を配ってきた」などと思わず、「もしかすると無意識のうちに女性を働きにくくする行動をしてないか」と振り返る姿勢が重要です。

そのためには、数少ない女性管理職にこれまで味わった苦労話を聞いたり、自分の日々のマネジメントについて職場の女性からダメ出しをもらったり(信頼関係が必要ですが)してみてはどうでしょうか。

そして、自分で無意識に行っていたダメな行動がわかれば、それを直していくことが、最初の第一歩なのではないかと私は考えます。

OCEANSにて20代のマネジメントに関する連載をしています。こちらもぜひご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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