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オンラインコミュニケーションで、部下が「本当にわかっているのか」のかどうか不安な時、どうするか。

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「ったく、わかってんのかなぁ、彼は」(写真:アフロ)

■わかってきたオンラインコミュニケーションの特性

コロナ禍に突入して2年以上が経過し、テレワーク化に伴うオンラインコミュニケーションに人々が慣れてきて、その特性もいろいろわかってきました。例えば、以下のようなことです。

・表情やうなずき、身振り手振りなどの動きが減る(ので何を考えているのかわからない)

・知的な情報は伝わりやすいが、感情は伝わりにくい(ので何でも言葉にしないとダメ)

・アイコンタクトができずに会話のキャッチボールがうまくできない(のでイライラする)

・発話速度は速くても伝達度には問題はない(ので2倍速でも大丈夫)

・テキストチャットの方が意見がよく出る(ので音声オンでの質問受けはやめたほうがいい)

■そのうち、どんどん適応する可能性も

これらは、あくまで現時点での特性です。というのも、人間は新しいメディアには最初はたどたどしい使い方しかできないのですが、慣れればうまく使えるようになるからです。さすが人間「道具を使うサル」です。

これまでも人間は、車や電話、キーボード、スマホと新しいツールが出てきたときに、まるで自分の感覚をツールにまで延長させるかのように適応してきました。

今はまさに現在進行形で、全世界の人がオンラインコミュニケーションのトレーニングをしているようなものですから、近い将来、「感情が伝わらない」こともなくなるかもしれません。

■わかっていても、わからない「気がする」という不思議

さて、そのような現時点でのオンラインコミュニケーションの特性のひとつに「伝達感(伝わった感)が得られにくい」というものがあります。

上述のように速く話しても情報は意外に伝わっているのにもかかわらず(事後テストで実証されている)、当の本人は「よくわからなかった」「伝わってこなかった」と思ってしまうようです。

とても不思議なことで、正直、私もその理由についてはよくわかりません。ただ、そもそも私たち人間は「我々は語ることができるより、多くのことを知ることができる」(マイケル・ポランニー)存在です。

わかっているのに、わからない気がするという状態自体はよくあります。

■もしかすると本当はわかっているかも

マイケル・ポランニーはこの「わかっていないと思っているのに、実はわかっている」知識を「暗黙知」と呼びました。

自転車に乗れる人は自転車の乗り方を説明できるとは限りませんし、英語ペラペラな人が自分の話した言葉の文法を説明できるとは限りません。でも彼らは確かに自転車に乗れ、英語が話せるわけですから、絶対に「わかっている」のです。

ですから、もし例えばオンライン会議でずっと黙っていたメンバーが、わからないまま過ごしていたと言ってきたとしても、それが本当なのかどうか、決めつけるのは尚早かもしれません。

伝わっているから身体はわかっているのに、伝わった感はないので頭はわかっておらず、言葉にできないということです。

■言葉で説明してもらうのではなくやってみせてもらう

これを確認するためには、言葉での説明を求めても意味がありません。暗黙知は自分でも説明できないのです。メンバーの本当の理解度を知るためには、実際にやってみせてもらうしかありません。

ところがオンラインコミュニケーションは言語化しなければ伝わりにくいという特性がありますので、結局、一度ちゃんと会って仕事ぶりを確認してみる必要があります。

部下ができているか、できていないかを単純な「報告・連絡・相談」で判断してはいけません。膝と膝を突き合わせて、やっているところをきちんと観察して、どこがわかっていて、どこがわからないのかを「発見」する必要があるのです。

■むしろ上司の暗黙知をいかに伝えるかのほうが問題

それで部下が実はわかっていることが判明したら一件落着です。わかっていなければ改めて教えてあげればよいだけです。

ですからご相談はそれほど難しい問題ではありません。難しいのはむしろ、上司の暗黙知をいかに部下に伝えていくかの方ではないでしょうか。

これはまさに野中郁次郎先生の企業の知識創造理論「SECIモデル」(企業の知識創造は「共同化(Socialization)」→「表出化(Externalization)」→「連結化(Combination)」→「内面化(Internalization)」というサイクルで生じるという理論)における「S」=「暗黙知の共同化」ではないでしょうか。

■もっとチームの創造性の低下を心配するべき

「暗黙知の共同化」とは、職人さんの弟子が親方の仕事を見て盗み、体得していくというイメージです。

非言語情報がうまく乗らないオンラインコミュニケーションではこの状況を実現するのは難しい。このため、ある人の暗黙知を別の人の暗黙知に移していく(共同化)ためには、リアルの場で一緒に仕事をするという行為が、今のところどうしても必要なのです。

また、既にある知識を伝達できるかという問題は確認すればよいだけですが、これから創造されるはずの新しい知識が「生まれなかった」ことは確認しようがありません。そうして、知らないうちにチームや組織の創造性は消えていくかもしれないのです。

ですから、上司たちは、部下の仕事ぶりを観察するのは当然ながら、自分の仕事ぶりを部下に見せることで、自分の暗黙知がそこはかとなく伝わっていくよう努力すべきなのです。

OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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