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今、転職してはいけない人はどんな人でしょうか〜転職理由によっては、もったいないことになる可能性も大〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
転職すべきか、ここに残るべきか・・・。(提供:イメージマート)

■労働力人口は減少に転じ、転職者は増え続ける

政府や民間あげての「働き方改革」などの成果として、総務省『労働力調査』によると、2012年から2019年にかけて、労働力人口は6565万人から6886万人へ300万人以上増加していました。

しかし、直近の調査では、2020年では6868万人と再度減少に移りました。労働力が増えていた原因は女性の職場復帰やシニアの定年延長などでしたが、そういった施策の限界が来たのかもしれません。

一方で、コロナ禍による経済的不安にもかかわらず、転職者は右肩上がりで漸増しています。要因は様々でしょうが、コロナによってテレワークが進み、組織の一体感が失われてしまったことなども一因とする人もいます。「コロナ転職」という言葉もあるくらいです。いずれにせよ、企業にとっては由々しき事態です。

■ただ、転職は慎重に考えるべきではないか

「転職するのが当たり前」になれば、転職時にあまりモノを考えなくなります。転職が珍しいことなら、「なぜそんなことをするのか」と自問自答しますでしょうし、関係者にもきちんと説明しなければなりません。ところが転職が一般化すれば、誰もが「ああ、そう」と思うだけで、詳しい背景を説明しなくてすみます。

もし転職に失敗したとしても、次も転職できる可能性が高ければ、気軽な転職を繰り返すこともできてしまいます。人生をやり直せる機会があるのはよいことですが、転職は大変なリスクを背負うもの。本来はもっと慎重になったほうがよいでしょう。

■もう少し待てば「壁」は壊せるかもしれない

転職を慎重にすべき理由はいくつかあります。最もお伝えしたいのは、もう少しだけ我慢して待っていれば、転職をしようとする人が感じていた何らかの「壁」が壊せるかもしれないということです。

転職者は現状に何らかの「壁」=「キャリアに関する障害物」を感じており、それがなかなか破れないから、自分が動くことで環境を変えようとします。その「壁」とは「昇進」や「給与」「能力開発」「人間関係」などいろいろありますが、とくにこのうち「昇進」と「能力開発」には要注意です。なぜならば、転職によってこの2つはリセットされてしまう可能性があるからです。

■「昇進の壁」について

まず「昇進」について、とくに一般社員から管理職へ役割の変化を伴う昇進について考えてみましょう。もしあなたが社内でマネジャーやリーダーなど管理職への昇進が見込まれているなら、できるだけ今の会社に留まったほうがよいのではないかと思います。

そういうのも、現在は「3割しか課長になれない時代」と言われるぐらい管理職になりマネジメント経験を積む機会が希少になっているからです。内外で高く評価されるマネジメント経験を捨てるのはもったいないことです。

しかも、多くの会社は中途採用者をいきなり管理職に登用しません。スキルは認められても、すぐには信頼されないものです。転職希望者はゼロから信頼を築く必要があり、管理職になるのはしばらく先になってしまうかもしれません。

■転職したいと思う時は「昇進間近」かもしれない

もしあなたが「もっと活躍できる機会を与えてほしい」と思っているとすれば、そろそろ昇進するタイミングである可能性があります。野球に例えるなら、もう次に打順が回ってきていて、すでにネクストバッターズサークルに入っているのに、気づいていないだけかもしれないのです。

確かめもせずに「会社が自分を評価していない」と思うのではなく、辞めるぐらいの勇気があるのであれば、人事や上司に「私はいつ昇進できるのでしょうか」と確認してみてはどうでしょうか。プレーヤーと違い、マネジャーになるためにはそのポジションが空かなくてはなりません。評価されていないのか、待たされているだけなのかをきちんと確かめるべきです。

■「能力開発の壁」について

次に「能力開発」について考えてみます。人はどうやって能力を身に付けるのでしょうか。それは「長期間の反復、繰り返し」によってです。どんな能力も一夜のうちに身に付くことはありません。何度も繰り返すことで意識しなくても自動的に処理ができるようになることが「身に付く」(身体化する)ということです。

つまり、もし「繰り返しが多くて仕事に飽きてきた」という感覚が出てきたとすれば、それはその能力がようやく自分のものになる一歩手前なのです。能力が完全に身に付けばあまり意識しなくてもスラスラこなせるために、繰り返しがつらくなくなります。しかし、その前にやめてしまうとせっかくの長い間の努力が水の泡になるのです。

■「今の仕事に飽きたから」転職するのは危険

もし転職希望者が「今の仕事に飽きたから新しいことをやりたい」と思っているとすれば、まさに今こそが能力定着のタイミングである可能性もあるということです。これまで頑張ってきた時間の長さに比べれば、あともうほんの少しだけの辛抱で、長く通用する能力が手に入るのです。

能力獲得というのは、ある瞬間「わかった」だけではダメで、定着して再現できるようになるまでやらなければいけません。多くの人はここで我慢できず次に移ってしまうので、一度できたことが結局再現できないのです。逆に一度自動化するまで定着した能力はなかなか消えません。何年も自転車に乗らなくても、一度覚えた乗り方を忘れる人はほとんどいないでしょう。

■理由が「人間関係」「給与」なら転職もまたよし

「昇進間近ではないか」「能力定着間近ではないか」、この2つのチェックポイントで問題がないのであれば、転職に踏み切っていいかもしれません。よく「人間関係」や「給与」を理由に転職したことを後ろめたく感じる人を見かけますが、私は決して悪いことではないと思います。

職場の人間関係は、配属先の居心地やパフォーマンスに大きく影響します。相性の悪い上司や同僚と我慢して一緒に仕事をするくらいなら、相性のいい上司や同僚と余計なことを考えず伸び伸び頑張るのもよいのではないでしょうか。

また、給与水準は業界や会社の利益率などである程度決まり、個人の努力ではどうしようもないところもあります。ですから、給与への不満がどうしてもあるなら、もっと水準の高い業界や会社への転職もありではないでしょうか。

■転職はくれぐれも慎重に

以上、転職を希望する動機について、よい場合と悪い場合を挙げてはみましたが、究極的には転職はしないに越したことはないとも思います。

理由は単純で、今の会社がどうであれ、新しい会社で活躍するのも思いのほか難易度が高いことだからです。「隣の芝生は青い」で、今はよく見えているだけのこともありますし、実際いい会社だったとしても、新しい環境や文化に適応するだけでも大変ストレスフルなことです。それを覚悟した上で何らかの理由であえて転職するというなら、それもまたよし、でしょう。

今の時期、転職すべきか、留まるべきか、悩んでいる方も多いと思いますが、少しでも参考になりましたら幸いです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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