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実は精度が高くない「面接」という採用手法について、今一度警鐘を鳴らしてみる。実施の際には慎重に。

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
面接の精度向上は、企業にとっての永遠の課題。(写真:アフロ)

いろいろなところで結構話題にされてきたので、「またか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが(詳しい方は読み飛ばしてください!)、今回は「面接」について少し問題提起してみます。

一般に「面接」は採用で最も重視される選考方法で、筆記試験なしで採用決定をする会社はあっても、面接なしで採用する会社は滅多にありません。それほど重視されている面接ですが、私はいくつか疑問に感じることがあります。

■面接はそれほど精度が高くない選考手法

まず、面接はやり方次第では意外に信頼性の高くない選考手法ということです。自由に話し合う形式ですので、よほど構造化を心がけていなければ、同じ担当者でもうまくインタビューできることもあればできないこともあります。

また、人は自分と同じタイプを高く評価するということは心理学的事実です。この傾向に逆らい公平に相手を評価することは難しいことです。以前某社で、採用時の面接評価と数年後の人事考課の高低の相関を調べたのですが、相関があまり見られず驚きました。むしろ、適性検査の方が入社後の業績を推定していました。このように、面接は必ずしも精度が高いとは言えない手法です。

■自分の面接力に自信のある人は多い

次に問題に思うのは、そのような信頼性の手法にもかかわらず「できてるつもり」の人が多いことです。「人は見た目が9割」「5分も話せば人なんてわかる」と豪語する方は意外に多い気がします。公言せずとも心でそう思っている人もいるかもしれません。

しかし、人は自分の見たいものしか見ません。確証バイアスといって、信じる(信じたい)ものを支持する証拠ばかり採用する心理傾向も存在します。また、求める人物像や選考基準も、過去の経験を過度に一般化し、昔とは異なる今の環境要因を考慮せず「こういう人が良い」とする方も多い。仕事柄、様々な企業の採用基準を拝見しますが、過去の数例を元に一般化した基準も多く、自ら採用ターゲットを絞り、採用をやりにくくしているとも言えます。

■しかし、面接をなくすわけにはいかない

しかし、もちろん、面接をしない方が良いとは思ってはいません。それは、採用はけして「企業が一方的に選抜する」だけの場ではないと思うからです。

まず、面接は相互コミュニケーションの場であり、自社の情報を相手の状況に応じて適切に提供することで、応募者の意思決定を助けるための場でもあります。これは面接という柔軟な場で、相手の様子を見ながらでないとできないことです。

また、人はいつでも成長の可能性を秘めています。それは就職や転職などの節目では特に発現することが多い。人は人によって磨かれます。面接という組織と人が本気で直接交流する機会での言動を通じてコミュニケーションすることで、応募者(や企業)が何かに気づき、可能性を開花させることもあるのではないでしょうか。

このように、面接は一番ポピュラーな手法でありながら、メリットもデメリットも大きいやっかいな手法であると思います。毒にも薬にもなる両刃の剣とも言える手法です。面接選考は、ぜひ慎重に実施されることをお勧めいたします。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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