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元祖“スーパーサラリーマン”田端信太郎さんに聞いてみたオトナの転職②「唯一無二を目指すピボット転職」

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
片方の足は軸として残しながら、もう片方の足はどんどん変えていく。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

■「転職ブートキャンプ」に参加している人の実態

昨日に引き続き、“元祖・スーパーサラリーマン”の田端信太郎さんと、オトナの転職の極意について語ったことをご紹介します。このたび、田端さん本人がみっちりメンタリングして、年収2割増で転職させてくれるという「転職ブートキャンプ」の第1期生が始動したということですが、どんな人が参加しているのでしょうか。

「20代後半から30代の人で、20数名の応募がありました。超一流企業と呼ばれるところではないけれど、結構名前が通った企業でそこそこ大きな仕事をしているという感じでしょうか。

すでに毎週1回の面談をオンラインではじめていて、オフラインでも会いました。年収を上げることが最優先、という人は実はほとんどいないですね。『このままこの環境にいると他の場所で通用しなくなってしまうのが怖い』という思いを持っているようです。

メンタリングする中で、今の仕事を丸3年やっていて、あと2年頑張って5年で仕上げたほうがいいという人もいるし、TOEICスコアが700ならば、900目指して外資系狙っていったほうがいい、とか、すぐ転職すべきでないと判断することもあります。」(田端さん)

確かに、本人が転職を希望しても転職は待ったほうがいいケースは多々あります。転職した結果、環境の不一致を感じて後悔する人も多いですし、転職はABテストができないからこそ見極めは慎重に。転職のミスマッチを防ぐために田端さんのような猛者の手のひらの上でしばらく踊らせてもらう、みたいな方法は確かにおすすめかもしれないですね。また、田端さんという強烈なフィルターを通した人材ならば、採用するほうも転職するほうも環境の不一致を起こしにくいのではないでしょうか。

■自分を正しく査定できる上司を唯一選べる機会が、転職

前回、「“一点モノ”の自分のバリューを正しく査定できる人と巡り合えればいい」という話が出ました。とはいえ、現職の上司がそんな人ではないというケースもままあるでしょう。そのときこそ、まさに転職の決断し時かもしれません。上司は自分で選べないことが多く、大きな企業ならそれこそ、上司が出世すると自分も出世できるという構造もあります。

「唯一上司を選べるタイミングが『転職』。僥倖を待つよりは、自分で上司を選べる転職をしてしまったほうがいいですよね。生え抜きプロパーで最後まで上り詰めるほうが、普通にレッドオーシャンだし、それよりは新天地にいくほうがブルーオーシャンなのは確実ですし。」(田端さん)

また、第二新卒などのリベンジ転職によく見られる傾向ですが、有名な会社だから、とか、自分が新卒で入れなかった会社を闇雲にターゲットにしてしまったり、名前を知っているだけで受けてしまうケースも。これも自分のバリューを正しく査定してもらえるチャンスを遠ざけてしまうリスクがあります。

「誰がレポートラインにいるのか、自分が誰にダイレクトレポートするのかが、実は社名なんかよりよっぽど重要ですよね。会社なんて概念でしかなくて、会社とハグも握手もキスもできないじゃないですか。せっかく上司を選べるチャンスに、その視点を持たずに転職するのはもったいないです。」(田端さん)

私自身も不動産系新興企業であったオープンハウスに転職した際も、そこの社長に惚れ込んでその社長と仕事をしたいと思ったゆえだったので、レポートラインをダイレクトに社長にしてもらったりしたことを思い出します。転職は、貴重な「上司を選べる」機会と心得て、最大限、より良いコンディションを目指したいものです。

■“ピボット”を意識することで唯一無二の価値が出る

自分の知っている会社のみ、業界のみを転職先のターゲットにしないほうがいい理由は他にもあります。同じ業界・業種のみのステップアップだと、その業界ではコモディティ化した能力しか身に着かない、同じ業務ができる経験の長い人に負けてしまう、などのデメリットがあります。

NTTデータに入社し、以来、リクルート、出版社のコンデナストを挟んで、Livedoor、その後NHN JAPAN(のちのLINE)と、IT産業やメディアプロデュース界隈でキャリアアップをされてきた田端さんのビジネスマンとしてのバリューの高さは、一つ一つの実績のみならず、キャリアの業種を“ピボット”して、オンリーワンな職能なりビジネス手腕を身に着けてきたことによるところも大きいように思います。

田端さんの場合は、「積み上げたこと:新しいこと=50%:50%」になるような感覚を意識して、軸をずらして転職する、いわゆる“ピボット”のような動き方を意識していたといいます。100%新たな内容であると今までのキャリアが活きないことになりますが、半分は従来のキャリアを活かし、半分は新しいことを吸収する、という意識だそうです。例えばITメディアから紙の出版をするコンデナストに移った時は、同じメディアでありながらも“外資系”で“紙媒体である”という、環境や仕事内容の5割が新しいコンディションであることで決断したといいます。

最初のNTTデータは新卒応募、次のリクルートは日経新聞の日曜版の転職情報欄を見て応募したそうですが、それ以降のキャリアについては自ら応募して転職する、という機会はなかったそうです。Livedoorには、Livedoorの前身であるオン・ザ・エッジの関係者に新メディアの事業担当者としてどうかと声をかけられ、当時から有名であった創業者の堀江貴文さんに「会えるなら会ってみようかな」なんてノリで面会したのがきっかけだといいます。コンデナストもメディア事業を得意とする田端さんの実績がもとになり、ヘッドハントされたそうです。

田端さんはもともとプラットフォーマー(SNS等)運営という事業を軸に、プラットフォームの中でフォロワーを持つ個人という立場でもコンテンツ発信をしています。プラットフォーム運営側とプラットフォーム上の発信者という両軸からプラットフォームビジネスを熟知している人材はが非常に希少です。プラットフォーム自体のマネタイズはもちろん、運営側の方針やそれとどう付き合うかを知っているからこそ個人コンテンツの価値向上にもつなげられるといいます。

田端さんのように、常々注目度の高い事業で実績を残すような活躍は誰もができることではないです。しかし、キャリアを“ピボット”して、オンリーワンな職能なりビジネス手腕を身に着けるというセオリーは真似できそうです。

一般のビジネスマンでも田端さんが描いてきたルートの本質を知り、ちょっとでもその手法を真似てみることができれば、スーパーサラリーマンとして活躍できるチャンスにつながるのではないでしょうか。それを直接指南してもらえる機会は貴重だと思います。今後、「転職ブートキャンプ」から、どんなスーパーサラリーマンが爆誕するのか、楽しみにしたいと思います。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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