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VUCAの時代なんてウソ。今の日本の会社がやるべきことなど決まっている。むしろJust Do It!

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
もうあとはただ走るだけ!(写真:アフロ)

■もともとVUCAとは軍事用語

VUCAとは、そもそもは軍事用語として誕生した言葉で、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたものです。

冷戦以前の時代の戦争は、国同士が、参謀本部の作った作戦を現場の部隊が実行するというわかりやすいものでした。

しかし2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件以降、敵が誰かも、トップが誰かも、何が勝ち負けかもわからない戦争を行わねばならなくなりました。そういう状態をVUCAと呼ぶようになったそうです。

それが、’10年ごろより、「VUCA時代」のようにビジネスでも用いられるようになったわけです。

■本当はいつだって「変化の激しい時代」

10年前ぐらいにビジネス界にあったことと言えば、’08年9月15日にリーマンブラザーズが経営破綻したことで起こったいわゆる「リーマンショック」が最も大きなことでしょうか。

しかし、その前にも1990年から数年間で株価が大暴落した「バブル崩壊」や、’00年末からの「ITバブル崩壊」などもありました。

また、もっと古い時代を見れば、’60年代の日本は、経済成長率が年平均10%を超え、諸外国にも例を見ない急速な経済成長を遂げたり、その前は戦争で焼け野原になっていたりと、振り返れば、「なんだ、いつだって変化の激しい時代だったじゃないか」とも思えます。

■なんなら今は「停滞の時代」

逆に、これまでの時代と比較すると、もしかすると今は「停滞の時代」つまり「変化していない時代」と言えるかもしれません。

日経平均は1万円から2万5千円ぐらいを行ったり来たりしているだけですし(NYダウは100年以上右肩上がり)、国税庁の民間給与実態調査による日本人の平均給与も10年前とほぼ同じです。

GDP(名目)でも、10年間、500兆円超をうろうろしておりほとんど変わりません(中国は10年で倍)。インフレ率などもずっと0%前後で、物価は’95年からほぼ変わっていません。

けしてお金だけを基準にする話ではありませんが、「どこが変化の激しい時代なのだ」と思う人もいるでしょう。

■上司の世代が「停滞」を招いたという気持ち

確かに世界を見ればVUCAとも言える状況です。しかし、こと日本に限って見れば、上述のように変化は緩やかでしょう。

欧米や中国で起きていることと比べると、日本は「失われた数十年」と言われるように、むしろ変わっていません。

それなのに「今はVUCAだ」「変化の激しい時代だ」とか、もし我々中高年の上司世代が口にすれば、若手は「どの口が言っているのか」と思うのではないでしょうか。

「あなた方の世代がこの停滞を招いたのではないですか?」と言い返したくもなります(私はもちろん言い返されるほうの世代ですが)。

■言葉の由来に戻るなら、「現場起点」に

また、もともと軍事用語であったVUCAに適した方法として、アメリカの軍事研究家ジョン・ボイドに考案された行動サイクルがOODA(Observe〈観察〉、Orient〈状況判断、方向づけ〉、Decide〈意思決定〉、Act〈行動〉)です。

以前、こんな記事を書いていたのにすみません。正式な詳細説明は別の方にお任せしますが、私の理解では要は「現場起点で判断し臨機応変に素早くどんどん動け」ということです。

つまり、上司がVUCAを言うなら、同時に「メンバーの皆さんは現場でどんどん自分の頭で考えて動いてください」とでも言わなくてはなりません。

俺の指示通りに動け、そして報連相を欠かさずしろ(PDCA的)、ではダメということです。

■「責任は俺が取る」の一言が足りない

さらに、そのように現場に権限移譲して自由に動いてもらいたいのであれば、言わなければならない言葉があります。それが「責任は俺が取る」です。

かの大宰相・田中角栄が大蔵大臣(現在の財務大臣)に就任した際に、官僚たちに言ったという言葉もこれです。

彼は「君たちは天下の秀才、思うことがあれば何でも言いに来い。できることはやる。できないことはやらない。しかし、すべての責任はこの田中角栄が背負う。以上!」(筆者要約)と言われた当時の大蔵官僚たちは心酔したそうです。

この「責任は俺が取る」がなければ、いくら自由にさせて権限移譲したつもりでも、メンバーは「責任放棄」と捉えるだけです。

■今の日本はむしろ「ただやるべきことをやる」が必要では

さて、ここからは素人の私見ですが、私は今の日本はそもそもVUCAというより、落ちるところまで落ちてしまっているために、そこからやるべきことははっきりしている時代ではないかと思っています。

VUCAとは以前の日本のように世界のトップに近づいてしまい、何をすべきかわからないときに言うことでしょう。負けている国や会社だらけ、言い換えれば見本となる国や会社だらけということです。

やるべきことはわかっているのです。ですから、VUCAとか聞いてしまうと「どこがやねん」とどうしても思ってしまいます。

今の日本に必要なのは、むしろNikeのスローガンで有名な“Just Do It.”ではないでしょうか。

OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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