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「オンライン会議は生産的でない」は本当なのか〜むしろ民主化が進み、創造性が高まるという効果も〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
オンライン会議では「空気」が見えないので読む必要がなくなる。(提供:dios51/イメージマート)

■テレワークが進み、オンライン会議は「ふつうのこと」に

新型コロナウイルスの影響で、急速にテレワークが進んだことにより、仕事のあらゆる会議がオンライン上になりました。このことに対して若い人たちは基本的に好感を持っています。

「今まで顔を突き合わせていないといけないのって、一体なんだったんだろうね」という感覚で、オンライン会議は効率的で、生産性を高めると感じています。それはWeb会議システムでの映像による会議でも、チャットツールでのテキストによる議論でも同様です。若い人の間では、リアルからオンラインへの移行は極めてスムーズに進んだと言えます。

■オンライン会議にストレスを感じる上司世代

ところが、おじさん世代、上司世代においてはそうでもないようです。これまでリアルではできていたことがオンライン会議ではできずに、不自由感やストレスを感じている人も少なくありません。

曰く、「メンバーの様子が把握しにくくなった」「深い議論ができなくなった」「自分の思った通りにメンバーが動いてくれなくなった」というのです。恥ずかしながら私も少しは感じます。

そのため、若いメンバーに対して、負荷が高い要望をしてしまっている人が多いようです。若いメンバーがテキストチャットやメールで完結できると思っていることを、Web会議システムで行う。Web会議システムでいいと思っていることを出社させられるといった具合です。

■「あうんの呼吸」が通じなくなった

このようなことが生じる原因は、オンライン会議では「非言語コミュニケーション」が少ないことにあります。「非言語コミュニケーション」とは、うなずきやあいづち、表情や姿勢、声の高低やスピード、身振り手振りなど、言語以外で意図を伝える手段のことを指します。

オンライン会議では、これらの情報が非常に少なくなるために、「非言語コミュニケーション」に頼っていた人はストレスを感じるのです。「非言語コミュニケーション」とは別の言い方をすれば「あうんの呼吸」とか「空気を読む」ということです。

上司世代はある意味、それが上手だったから出世した人が多いわけですが、それが通用しなくなるのがオンライン会議です。オンライン会議では誰も上司の顔色や場の空気を読んではくれないからです。

■要は「言語化能力」の不足

ただ、「非言語コミュニケーション」が通用しないのであれば、「言語」でコミュニケーションをすればいいだけのことです。要は、会議などのコミュニケーションがオンライン化してストレスを感じるのは、「言語化能力」が不足している、あるいは慣れていないのです。

言うまでもなく、若い人たちはチャットツールやSNSを使いこなす「ソーシャルネイティブ」ですから、テキスト文化で育っています。

絵文字、顔文字、スタンプなども含めて、自由に感情表現やコミュニケーションを行っています。それが仕事においても広がっただけです。今度は上司世代の我々がキャッチアップしなければなりません。

■「察してくれ」ではなく「全部言う」

つまり、これまでは「皆まで言うな」「良きに計らえ」「察してくれ」といっていたところを、「全部言う」しかないのです。「察してくれ」だと、曖昧な指示で済みますし、責任も取らなくていい。ある意味、とても「楽」だったわけです。

上司世代は部下だった頃、当時の上司の思いを「察する」ことで出世したので、今のメンバーにもそれを求めようとしてしまいますが、残念ながら時代は変わりました。「言っていないこと」は「無いもの」です。リアル場ならまだ察する人もいようものの、オンラインコミュニケーションでは完全に「無いもの」になってしまいました。「言葉にできない」と言っていてはいけないのです。

■オンラインのほうが「創造性」が高い可能性も

しかも、意外な事実かもしれませんが、さまざまな研究によってテキストチャットなどでの議論のほうが、リアルな議論よりも創造性が高いという結果も出ています。つまり「深い議論」ができるのです。立場や空気などを考慮できなくなるので、議論に参加するメンバーが平等になり、発想が解放されることでアイデアがどんどん出てくるというわけです。

「空気を読まない」発想は、不快感や違和感をもたらすかもしれませんが、創造性とはそういうことです。上司の顔色を読んでいては、新しいものなど生み出されません。オンライン会議にはそういうメリットもあるのに、上司が自分のリテラシー不足から旧来的な方法に戻せと言っていては疎まれてしまうのも当然です。オンライン会議の不便を嘆くのではなく、良い面に目を向けて、我々は適応していかなければならないのです。

OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。よろしければ是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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