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辞退されてしまう内定の出し方〜最も注力すべきところなのに一番手を抜いている〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
プロポーズを受けてもらえるかどうかはやり方次第(写真:Paylessimages/イメージマート)

■今年は内定辞退増加の可能性

求人数はそれほど減っていないのに、コロナ禍によって不安を煽られた学生が就職活動量を増やし、そのために複数内定取得者が増えたため、今年の新卒採用は、内定辞退続出の不安を抱えての採用活動となっていることでしょう。

供給よりも需要が多いのですから、全体を通してみれば当然ながら、内定辞退続出は絶対に避けることはできません。ただ、多くの会社では、やり方次第によって、ある程度辞退を防止することはできると思います。

と言うのも、正直言って学生の側から見て萎えるような内定の出し方をしている会社ばかりだからです。今回は「どうすれば内定を辞退されてしまうのか」について書いてみたいと思います。できるだけ、こういうことはやめてみてください。きっと効果があるはずです。

■みんなに同じ内定の出し方をしている

まず、全然ダメなのは「うちはこういう内定の出し方をしています」と、全員に一律同じ内定の出し方をしている会社です。

内定とは、「あなたを評価しています(あなたが好きです)。だから入社して欲しいです(結婚してください)」というプロポーズのようなものです。それを、コメントをコピペして、たくさんの人に大量に送りつけている状況は萎えます。「まあ、自分はこの会社にとって、one of themに過ぎないんだな」「なら、別にそんな風にしか見てくれないところにコミットすることないや」と、辞退についても気楽に考えることになってしまうかもしれません。

社内の表彰とか、送別会の色紙とか、一律のコメントややり方でメッセージングしないように、内定出しにおいても、個々人の志向などを踏まえて、彼/彼女が重要感を感じるような内容・伝え方をするべきです。

■意思決定スタイルを加味しない

当然ですが、物事を決める際、熟慮型の人もいれば、即決型の人もいます。論理型の人もいれば、直感型の人もいます。そういう「意思決定スタイル」を加味せずに、内定出しをすると、辞退を招きます。

直感・即決型の人に対して、器の広いところを見せようと「十分考えてから結論を出していいよ」とすれば、「なんだ、自分のことをそんなに評価してくれていないんだ。もっと強く迫って欲しかった。拍子抜けだ」と思われ、どこか他所の強く引っ張ってくれた会社に即決してきてしまうかもしれません。

逆に、論理・熟慮型の人に、情熱だけで「もういいじゃないか。僕らは君に入社して欲しいんだ。どうかこの場で意思を固めてくれないか」と懇願しても、「自分を欲しいがために、強引に無茶を言ってくるのは不誠実だなあ。もっとちゃんと考えさせてくれるところに行きたい」と心が離れるかもしれません。

■直接会って内定を告げない

最近ではLINEなどで告白をするなどということも普通になってきているのかもしれませんが、やはりリアル接触をして行うメッセージングが最高であることは今でも変わりないと思います。

電話やメールなどで「内定です」とどれだけ言葉を尽くして告げたとしても、インパクトは薄いものです。人は「簡単に手に入ったものは、価値が低い」と感じる動物です。さらっと告げられた「内定」にはそれだけの軽い価値しか感じません。つまり軽くメール一本で辞退してもよいものと考えるかもしれません。

そうではなく、プロポーズは対面ですべきです。電話等では「合否結果を告げるから」とだけ伝えて来社してもらい、その場で現状の彼/彼女の就職活動状況や意思について確認した上で、「当社の選考結果は、○○○の理由で(できるだけ詳しく)、内定をあなたに出したいと思います。入社してもらえますか」とちゃんと話す方が重要に考えてもらえると思います。その際、採用担当者がその内定を喜んであげたり、握手をしたり(今どきは難しいですが)、いろんな人を連れて来て祝福したり、などをしてもよいかもしれません。

■内定受諾者を放置する

マリッジブルーという言葉があるように、重要な決断をした後は、人は「本当にこれでよかったのだろうか」と思い悩むものです。「選ぶ」ということは「他を捨てる」ということで、もう二度と生きられないその他の可能性について恋々とするのは普通のことです。同じように内定受諾後に、学生は程度の差こそあれ内定ブルーになるのも普通です。

内定を受諾してもらったからと言って、安心して放置するということは、この内定ブルーに寄り添わないということですが、内定ブルーの不安な時期は、他社の採用担当者がつけこみやすい時期です。「そうだよね。心配だよね。え、放置されているの?かわいそうに。(釣った魚に餌はあげない、とは言わないまでも)あまり重要視されていないのではないかな。僕だったら放ってはおかないけどね」(そのまま言う人は皆無でしょうが、意味的にそんなことを)他社の採用担当者は言っているかもしれません。

■採用担当者自身が「謎の人」のまま

最後に、最も重要なことを申し上げます。たくさんの学生の話を聞いていて思うのは、結局彼らの本音は「何をするかよりも、誰とするか」です。私が昔いた会社でも、本音の入社理由は「この会社の人達が、自分を一番理解して評価してくれたから」でした。自分が信頼できる人≒自分を信頼してくれる人、と働きたいと強く願うのが人です。

しかしながら、本当に多くの採用担当者は自分のことをちゃんと語りません。どんな人生を歩んできたのか、どんなトラウマがあるのか、どんな成功体験があるのか、どんな価値観なのか、なんでそうなったのか・・・等々。社会人になってからの仕事内容とかやりがいとかの、通り一遍の話はしますが、経験のない学生にとっては「ふうん、そんなものか」程度の情報であり、聞いたからと言って共感や信頼は生まれません。

そのような状態のまま、「僕は君を評価しているから来てほしい」と言われても、「なんだか得体の知れない謎のおじさんから、君が好きだと言われてるけど、本当に信じて大丈夫なんだろうか」と思うことでしょう。よくわからない人から告白されても不快なだけです。

■採用活動において最もパワーをかけるところが内定出し

合理的に考えれば、玉石混交の参加者に対する説明会運営などよりも、目の前の本当に欲しい人材に対する内定出しに最もパワーを注ぐべきということは明らかです。しかし、多くの会社では実際はそうなっていません。

応募者が目をキラキラさせて自分の話を聞いてくれる「気分の良い」説明会(例えて言うなら合コン等のイベント)ばかりに力を入れるのではなく、引く手あまたの優秀な学生に自分も評価されているような気になる「ドキドキする」内定出し(例えて言うならプロポーズ)こそ、恐れずに立ち向かうべきではないでしょうか。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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