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「自分の実力と報酬が見合っていない」と思って転職する前に考えて欲しいこと〜高待遇は必ずしもよくない〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
報酬は自分への評価の象徴というのはわかるが。(写真:ideyuu1244/イメージマート)

■「報酬が低い」と感じると転職したくなる気持ちはわかる

転職理由の一つに、「今の自分の実力と報酬とが合っていないと感じるから」というものがあります。自分はこれだけ実績を上げていて、能力やスキルもついているのに、会社から得ている報酬はそれに見合っていない。だから、それを解消するために転職をするというものです。

「割安人材」というあなたの感覚が正しければ、人材紹介会社に登録したり、転職メディアから企業に応募したりすれば、おそらくあなたは引く手あまたでしょう。あなたを採用したがる企業は、今よりも高い報酬を提示してくるはずです。

■報酬への不満は「昇格一歩手前」に感じるもの

しかし私は、特に若い人の場合には、このようなタイミングで転職するのは極めてもったいないと思います。理由のひとつは、おおよそ30歳ぐらいまでは、目の前の報酬にこだわりすぎることは得策でないと思うからです。

たいていの会社では、職位が高くなるほど同一職位内の報酬差が大きくなる人事制度を取っています。若いときは数十万円の差が大きな違いに思えますが、歳を重ねて高い報酬を勝ち取れれば、数十万程度は誤差のようなものだったりします。

同年代の社員と比較してどうか、ということも重要です。相対的に自分が自社の中でどのくらいの位置にあるのかを考えて、比較的高い位置にいるのであれば、キャリアを積んでいけば希望の金額に到達するかもしれません。

多くの会社では定期評価よりも、昇格・昇進による報酬アップの金額を高く設定しています。なぜなら、昇格には至らないものの、その職位内で長く働いて欲しい人が多いからです。したがって、人が実力と報酬の差を最も感じるのは「昇格一歩手前」のときなのです。

社内のポストが詰まっているのであれば話は別ですが、少し我慢すれば昇格する可能性のある人が、そのタイミングで辞めるのはもったいない。転職で報酬が一時的に上がっても、次の会社での昇格はしばらくないでしょう。あなたを「適切な報酬」で迎え入れたと思っているからです。

■若いとき「だけ」必要とされる会社ではないのか

早期リタイアを目指す一部の人を除けば、給与というものは「生涯賃金」や「昇給カーブ」といった長い目で見る必要があります。

どんな年齢や職位の社員に、どのくらいの報酬水準を出すかという「昇給カーブ」は、会社の思想によって決まります。若いうちから高い報酬にしている会社は、ベテランになってもそれ以上は上がらない場合があります。

逆に、若いうちの報酬は低くても、ベテランになればなるほど報酬は高くなる会社もあります。あなたが転職しようとしている会社が前者のタイプであれば、高給は一時的なもので、そのうち昇給が停滞するかもしれません。

しかも、前者のような会社は、実は「若い人だけ欲しい」と考えている可能性があります。若いときには高給を支払うけれど、昇給をしなければ徐々に人は辞めていくだろう。むしろそうなって欲しいということです。

そうなると、結局は給与に不満が出て、再び新しい会社を探すことになります。若いうちから活躍したいという気持ちはわかりますが、若いとき「だけ」必要とされる会社に行きたいわけではないでしょうから、ここは是非気をつけてください。

■転職市場は「ポジション」で明確に分かれている

お金の話だけではありません。一時の報酬のために昇格を捨てることは、仕事機会の損失にもつながってきます。報酬を取るか昇格を取るかは、人によって考えが違うと思いますが、一般的にはプレイヤーからマネジャーになる方が大事と思います。

なぜなら、昇格によって権限や責任が広がれば、成長機会が増え、経験値が高くなるからです。もちろん「名ばかり管理職」のような場合もありますが、名前だけでもポジションを得ておくことにはメリットがあります。

転職市場は、プレイヤーは「プレイヤー市場」、マネジャーは「マネジャー市場」、エグゼクティブは「エグゼクティブ市場」に分かれており、昇格することで自分が流通する市場の格が上がります。その意味でも、昇格機会は大事なことなのです。

プレイヤーがマネジャーとして採用されたり、マネジャーがエグゼクティブとして迎えられたりする例もなくはないですが、基本的には横滑りです。マネジャーに昇格しておけば、マネジャー経験者として扱われるようになり、キャリアにおけるチャンスが増えるのです。

■目の前の報酬より、能力開発機会の重視を

現代の人材市場は年々流動化しており、そのため実力と報酬が結局は見合うようになっていくと思います。能力だけきちんと身につけておけば、いつか適切な報酬を携えて機会の方からやってくることでしょう。

それが、本稿で述べてきたような「筋の良くない高給」なのか、満を持して受けるべき「筋の良い高給」なのかを見極めることが必要です。

特に若いうちは、報酬にこだわりすぎないことが、昇格や成長機会を生み、自分の能力を高めることにつながり、結果として高給を得ることができるようになるはずです。

生物的に見ても、若いときこそ能力開発をすべき時期です。基本的には目の前の報酬よりも、能力開発機会にフォーカスして、キャリアを中長期的に考えることをお勧めいたします。

キャリコネニュースにて人と組織に関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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