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若者は恵まれていないし、ダメな世代なのか〜マネジメントを蝕む「世代論」の危険性〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「ったく、最近の若いやつは・・・」(写真:アフロ)

■おじさんvs ゆとり世代?

これまで様々な年代の人々が「◯◯世代」とレッテルを貼られてきました。すぐ思いつくだけでも、「団塊の世代(1940年代後半生まれ)」「新人類(1950年代後半〜1960年代前半生まれ)」「バブル世代(1960年代後半生まれ)」「氷河期世代/団塊ジュニア(1970年〜1980年代前半生まれ)」などがあります。我々おじさん世代は、氷河期世代あたりの人が多いでしょうか(私はそうです)。

そして、今の20代が入る、1980年代後半〜2000年代前半生まれの人たちは、ご存知のように「ゆとり世代」を呼ばれています。これまでこのシリーズでテーマにしてきたものは、主に「バブル世代」や「氷河期世代」のおじさん達と「ゆとり世代」の若者達のいろいろな摩擦の形と言ってもよいかもしれません。

■おじさん世代にもいろいろある

さて、その「ゆとり世代」が本当に恵まれていないのか、特に経済的にどうかということを検討してみます。そもそも、若者が比較対象としているおじさん世代がどの世代の人を指すのかによって異なります。

例えば、上司が定年間際の方でしたら新人類、50前後ならバブル、40前後なら氷河期と様々です。新人類なら20代で高度成長期後のオイルショックなどを経験しています。今と比べればマシかもしれませんが、けして順風満帆な時期ではありません。

バブル世代はその名の通り20代でバブル景気を経験しており、そういう意味では若いうちにいい目を見たとも言えるかもしれませんが、その後、脂の乗り切った時期に不況を経験しているリストラ世代でもあります。氷河期世代は、バブル後の不景気時代に育っていますが、2008年のリーマンショック前の数年間、いざなみ景気と呼ばれる好況期もありました。世代ごとに良いことも悪いこともあったことがわかります。

■若者が恵まれていないと感じる理由

これに対し、いわゆる「ゆとり世代」の若者は、幼少期にいざなみ景気を経験してはいますが、物心がついていたかどうかわかりません。ようやく大人になった頃には長く続くデフレ不況真っ只中で、好景気を経験していません。

厚生労働省の調査では、サラリーマンの年収は2001年に平均500万を超えてピークとなった後は、徐々に減少を続け、平成29年度調査では432万円となっており、待っていれば自然に給料が上がる時代でもありません。

少子化により年金や医療費などの負担は徐々に増え、今の若者達は支払った分を将来的にも回収できない可能性もあります。日本全体の人口減も現実となり、市場規模が小さくなることで消費も減少し、このままでいくと不景気はさらに続くかもしれません。確かに先の見えない暗い時代。そう考えると、やはり「確かに恵まれない世代」かもしれません。

■しかし、いいこともたくさんある

ただ、若者世代にしても悪いことばかりではありません。少子化による人手不足は求人倍率を向上させ、失業率を低下させます。求人倍率は1.50倍(2022年新卒対象、リクルート調べ。以下同様)と、このコロナ禍の不景気の中ですら氷河期とは言えない底堅い数字です。

先進国の共通課題と言われる若年層の失業率においても、20代前半で4.7%と、北米やEUなどの他の先進国平均で15%を超える現状(国際労働機関調べ)を考えると極めて良好と言えます。

ほかにも、大学進学率は、団塊ジュニア世代でも40%弱だったのが、現在では60%近くになっており、より多くの人が高等教育を受けることができるようになっています。経済的な面でも、俗に6ポケットと言われるように、少子化で増えた一人っ子の場合、父母に祖父母2組を加えると6人の「財源」があり経済的なバックアップをしてもらえる立場にいます。このように他世代が羨むようなこともあるわけです。

■世代間対立は若さへの嫉妬

つまり、結局のところ、若い世代も、おじさん世代と同じように「良いことも悪いこともある」世代なのではないでしょうか。どんな時代も似たようなものなのです。思えば、新人類もバブル世代も氷河期世代も、すべてある種の非難めいたニュアンスがあります。

先行世代が後進世代のことを悪く言うという現象は、プラトンが著書で述べていたとか、古代パピルス文書にそういう文面があったとか、まことしやかに言われるように太古の昔からあったのではないかと思います(このあたりは、実際には真偽のほどは怪しいらしいのですが、そう信じられるのは人々に思い当たる節があるからでしょう)。

動機は、それぞれの時代におけるおじさん世代の人達の若い人への嫉妬や羨望ではないかと思います。私自身が感じることでもあるのですが、人は年をとるごとに頑固になります(とある適性検査でも、検証されています)。

自分の信じる価値を絶対視するようになるということですが、柔軟な発想を持つ若者達を見て、彼らに優越しようと思えば、「なってない」と相手を批判するしかないのです。

■矛盾だらけの世代論から逃れることがスタートライン

世代論を作るのは常におじさん世代です。彼らは最初から結論ありきで、若い世代の人々がやることなすことにケチをつけます。その証拠に彼らの世代論は矛盾だらけです。直近の「ゆとり世代」でも、彼らを評する言葉を拾い集めると、「一体どっちやねん」と言いたくなります。

ある人は「自己中心的でわがまま」と言い、ある人は「対人摩擦を避けて従順」と言う。また、ある人は「自分で考えずに反応的」と言い、ある人は「自分の考えに固執してやりたいことしかしない」と言う。「根拠のない自信がある」と同時に「ストレスに弱い」とも言われる。何を見ても批判しようとしているから、矛盾した発言につながるのです。

世代間融和のスタートラインは、こういう偏見から逃れ、目の前の若者を素直に受け止めることです。そうすれば、言われなき批判を受けた若者達が、本当はそうでもないのに「恵まれていない世代」だとうそぶいて、おじさん世代に対峙することから逃げることもなくなるでしょう。

若者はいつか来た道、おじさんはいつか行く道で、道はひとつです。無意味な世代間対立を避けることができれば、どんな世代にとっても住みやすい世界になっていくのではないでしょうか。

OCEANSでは若者のマネジメントに関する連載をしています。こちらもぜひご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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