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マネジャーの「育てる力」をいかに育てるか――知るべき2つのポイントと力がつくワークショップの手順

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
子どもが親を育てるように、部下を育成することが上司を育てるのです(写真:アフロ)

■マネジャーの役目は「人を育てる」こと

マネジャーの仕事にはいろいろなものがありますが、プレイヤーとマネジャーを分ける仕事の代表格といえば「人を育てる」ということです。単なるプロジェクトやタスクのマネジメントではなく、人をマネジメントする場合、そこには必ず「人を育てる」という業務が入ります。多くの会社で「うちの中堅人材たちのマネジメント能力が低い」というときも、その内訳を探っていくと要は「人を育てる力」が不足しているということにたどり着きます。それほどまでに、マネジメントといえば「人を育てる」ということなのです。

■人は「仕事」を通じて育つ

米国の人事コンサルティング会社ロミンガー社によると、人を育てる方法は「仕事」「薫陶」「研修」の3つに大別されるといいます。さらに重要性の観点から、これら人が能力開発を行う機会の割合を考えると、各自が自分の「仕事」の経験を通じて能力開発をする機会が最も多く全体の7割、上司や先輩などから仕事上の体験を話してもらって「薫陶」を受けることで学習する機会が2割、「研修」などの教育訓練の機会が1割となるとしています。実際、私たち自身の経験から考えても、「人は仕事を通じて育つのだ」というのはとても納得感があります。

■「育てる力」の中核はジョブアサイン能力

そう考えると、マネジャーが自分の受け持つ部下を育成するために最も必要な能力とは、その部下に対してどんな仕事を割り振るかという、ジョブアサインの能力と言えるでしょう。適切なジョブアサインをするためには2つのことを知らねばなりません。まずは部下自身のことを知ることが必要です。そして、部下にアサインすることのできる仕事のことを知らねばなりません。これら2つの相性を考えることができて初めて、適切なジョブアサインが可能となります。

(その1)部下を知る

ジョブアサインのために部下のことを知る場合、部下の2つの側面に注意を向けなくてはなりません。それは「能力」と「志向」です。「能力」とは何ができるのか(CAN)であり、「志向」とは何をしたいのか(WILL)ということです。これら2つのバランスが取れれば、その部下は最も効果的な働きを見せてくれることでしょう。やりたいことができるのであれば、モチベーションも高くなるでしょうから成果が出るのは当然です。

しかし、特に若いうちは、やりたい気持ちは強いが能力不足であったり、力はあるが何に対しても動機付けがなされていなかったり、とかくこのバランスは崩れているものです。ですから、上司は部下を知ることで、彼・彼女の能力開発をしなければならないのか、動機付けをしなければならないのかを考えなくてはなりません。そして、アサインするジョブをどちらの観点に重点をおいて考えるのかを検討するのです。

(その2)仕事を知る

次にマネジャーが知っておかなくてはならないのは、自分が差配できる範囲やその周辺領域にどんな仕事があって、そこでどんなことが学べるのかということです。普段は仕事を教育機会として捉えることはなかなかありません。企業における仕事は、通常「顧客にどうやってどんな価値を提供するのか」という「成果」の観点から見るものだからです。

ただ、仕事において人が最も育つという以上、その仕事を経験することで獲得できる「能力」や「動機」についても知らなくてはなりません。場合によっては、自分の部下に必要なものが、自分の差配できる仕事の中では得られないとわかることもあるでしょう。そのときには、部署などの異動も含めて考えてあげなくてはならないかもしれません。

■ジョブアサイン能力を高めるにはジョブアサインをするしかない

この「部下を知る」「仕事を知る」能力を向上させれば、結果としてジョブアサイン能力が高まるわけですが、ではどうすればこれらの能力は向上するのでしょうか。答えは拍子抜けかもしれませんが、このジョブアサインというマネジメント能力も、当然ながら能力の1つなのですから、結局、ジョブアサインという実際の仕事から学ぶということになります。

ただ、先に述べたように漫然とジョブアサインをしていると、どうしても最優先すべき「成果」の観点、つまり「誰がこの仕事で一番成果を上げてくれるだろうか」ということから考えるだけに終わってしまい、「誰がこの仕事で一番学べるだろうか」という育成の観点はなかなかでてきません。

■育成観点でのジョブアサインを行うために

そこでお勧めなのは、自分の部下に成果観点ではなく育成観点でジョブアサインをするならばどうするかということをマネジャー同士で話し合うワークショップを行うことです。アサイン業務のシミュレーション、ロールプレイングと言ってもよいかもしれません。

このワークショップは、私の出身であるリクルートでは「人材開発委員会」と呼ばれて、今では全社員対象に年2回実施しているということです。このジョブアサインのワークショップでは、実際のアサイン時には考慮すべき成果観点をあえて除く代わりに、その結果はあくまでも非公式のものとします。「この人にこういう仕事を割り振るという結論」は実際の人事には直接的には反映しないということです。そうすることで、心置きなく「育成観点でのアサイン」を議論することができるわけです。

ジョブアサインのワークショップの手順は、簡単に言うと以下のとおりです。

ジョブアサインワークショップの手順

1)参加するマネジャーを選抜する。できるだけ似たようなクラスや担当領域のマネジャーを数名(一緒に議論できる人数。4名前後)ずつグルーピングする

2)各マネジャーに、ワークショップでアサインの検討対象とする部下をピックアップしてもらう。「幹部候補生」「自分の後任候補」や「退職リスクのある社員」「ローパフォーマンス社員」などの統一テーマを決めてもよい

3)事前に、部下について「やりたいこと」(WILL)と「できること」(CAN)を整理しておいてもらう。共通のフォーマットを作って埋めてきてもらってもよい

4)当日は、最初に1人のマネジャーがピックアップした部下のWILL・CANや現在の業務などを、グループの残りのマネジャーに説明する。グループの他のマネジャーは、その部下に対する具体的なイメージができるまで質問を繰り返す

5)部下をピックアップしたマネジャーが、その部下のアサイン案とアサインの理由を示し、それについてグループで討議する。討議は、そもそもの部下のWILL・CANについての見立てと、アサインすべき仕事の双方について行う

6)4.と5.をグループ全員繰り返す。1人の部下について、おおよそ30分以上はかかる。これに満たず終わってしまう場合は、情報量が不足しているか、参加姿勢に問題がある場合が多い

ワークショップ後、各マネジャーはワークショップで話し合われた内容やアサインの方向性を踏まえ、日々のジョブアサインに取り組む。ワークショップを通じて自分のジョブアサインをどのように変えようと思ったか、振り返りなどをしてもらってもよい

■マネジャーは人を育てることで育つ

このように、育成観点を強く意識してジョブアサインを行っていくことで、マネジャーは人を育てる能力を徐々に高めていけるはずです。上記のワークショップなどを行っていると、ややもすれば議論の俎上に上がっている部下の育成のために行っているような気になりますが(実際そういう効果もとてもあるのですが)、その実は育成の議論を行っているマネジャーたちが自らのジョブアサイン能力を向上させる努力をしているのです。マネジャーは人を育てることを通じて自身も育つのではないでしょうか。

HRZineより転載・改変

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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