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オフィスのゴミを拾わない人はリーダーにしてはいけない〜所詮、会社は他人事と思っている証拠〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
自分の部屋であれば、ゴミがあれば拾うはず(写真:Paylessimages/イメージマート)

■オフィスのきれいさは業績に比例する?

私は日々様々な会社の人事コンサルティングなどをさせていただいているのですが、組織運営がうまくいっている会社のオフィスはきれいだなと感じることが多く、逆にうまくいっていないところはゴミが落ちていたり、片付けがきちんとなされていなかったりすることが多いように思います。その背景には、単に礼儀作法や倫理観、ルールが徹底されているかどうかという問題以上のものがあるのではないかと、私は考えています。本稿では、なぜ働きやすい職場はオフィスがきれいなのかについて、述べてみたいと思います。

■ゴミの片付けは組織コミットメントの象徴

オフィスが汚いのは、そこで働く人々が常日頃からオフィスをきれいにしようとしていないからです。ゴミが落ちていれば拾う。使ったものは元に戻す。壊れたものは修理する。そういうことの積み重ねがオフィスをきれいにします。

社員の行動にそのような違いが生じるのはなぜでしょうか。理由の一つは「オフィスを自分の部屋のように感じているかどうか」、言い換えればオフィスを「内」と感じているかどうかということです。

人は基本的には利己的なもので、他人のものや公共のものよりも自分のものを大事にするものです。自分の部屋であれば、ゴミが落ちていれば拾うでしょう。それをオフィスだとしないのであれば、「オフィスは外」だと思っているということです。

「どこまでを内(自分)とするか」によって、公を大事にする人としない人の違いが生じます。例えば子どもができると、自分の領域が広がって家族全体が自分になり、子どもにまつわる物事に対して自分のことのように大事にするようになるものです。

会社に愛着を感じて自分の一部のように思っている人は、会社にまつわる物事を大事にするはずです。逆にいえば、どこまでの物事を大事にしているかによって、その人がどこまでを自分の一部であると感じているのかがわかるわけです。つまり、オフィスを「内」とみてきれいに使うか、「外」とみて汚く使うかは、組織コミットメントの象徴なのです。

■組織コミットメントと働きやすさの深い関係

この社員個々人の組織コミットメントは、働きやすさに対しても大きな影響を与えます。組織を自分事とみていない組織コミットメントの低い人は、極端に言えば、組織は一時的な自分の利益を満たすための道具であると考えており、そこから外れたことには関心を持ちません。どうなってもよいのです。だから、職場の同僚が困っていても手を貸さないかもしれません。メンバーのキャリアがどうなろうと知ったことではありません。

自分のデスクが仕事に支障のない範囲で整っていれば、後の職場はどうなっていても気になりません。オフィスの玄関が汚れていても、自分の恥だとは感じません。だから、組織コミットメントの低い人は、組織全体に対する貢献行動をあまりしません。そういう人が多い職場では、仲間意識や一体感も生じず、助け合いも起こらず、働きにくい職場になっていくことでしょう。

特に、組織コミットメントの低い人をリーダーにしてしまうと、職場の働きにくさはさらに進みます。組織に愛着を感じておらず、単に自分の出世や成長の道具としかみていないような人が率いている組織は魅力的でしょうか。そういうリーダーのもとで働くメンバーは、組織にコミットできるでしょうか。

組織コミットメントの低い人をリーダーにしてしまうと、職場は荒れてしまい、結果、社員のパフォーマンスは下がり、業績にも影響が出ると思います。だから、いくら個人的には有能であっても、組織コミットメントの低い人をリーダーにしてはいけません。

一事が万事ではありませんが、組織コミットメントの象徴が本稿のテーマである「オフィスのきれいさ」に対する姿勢です。つまり、オフィスのゴミを拾わない人、汚いオフィスをどうとも思わない人はリーダーにしてはいけないのです。

■「こんな組織、大事に思う必要がないんだ」とならないように

さらに困ったことに、この組織コミットメントは、人の間に伝播します。リーダーの組織コミットメントはもちろんですが、メンバー同士でも伝播します。

みんなが大事にしているものは自分も大事にしようとしますが、みんなが大事にしていないものを自分だけが大事にしようとする人は多くはありません。「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」という「割れ窓理論」と呼ばれる考え方にも似ています。

組織に対するコミット度合い自体は目に見えないものですが、オフィスのきれいさにそれが現れれば、「こんな組織、大事に思う必要がないんだ」と、組織コミットメントは一斉に下がってしまうかもしれません。

ですから、一見すると本業に関係なく、生産性を下げるようにも思えるオフィスの掃除のような作業を、様々な会社において社員自ら頑張って行うというようなことをしているのでしょう。オフィスをきれいにすることは単なる精神論ではなく、組織コミットメントを上げる有効な手法だと思いますので、是非皆様の職場でも行ってみてください。

キャリコネニュースで人と組織に関するコラムを連載しています。そちらも併せてご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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