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「上司が嫌い!でもまだ辞められない!」と思ったときに、試してみたい3つの方法

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「ほんとにお前なんか大嫌いだ!」(写真:アフロ)

■会社を辞める理由の多くは人間関係

「人は会社を辞めるのではない、嫌な上司の下を去るのだ」――。そんな言葉があるほど、働く人たちが重視する上司との人間関係。人材会社の転職理由アンケ―トでも、「上司との相性の悪さ」が転職原因の上位にあがることが大変多いです。

特に日本人は「何をやるか」よりも「誰とやるか」を重視するタイプが多いことを思えば、さもありなんと思います。しかし、サラリーマンは上司を選ぶことはできません。上司と合わないと感じたとき、一体何をすればよいのでしょうか。辞めるしかないのでしょうか。

1.実は「似た者同士」である可能性を考える

ある会社でストレスチェックテストを実施し、ストレス値が悪く出ていた社員を分析したところ、個々人のパーソナリティに目立った特徴はほとんどなく、ほぼ全員が「上司との相性が悪い」と答えたという結果を見たことがあります。

上司との相性が職場における環境の大部分を占め、その人にとっての「働きやすさ」に多大なる影響を与えるということなのでしょう。そのような上司との相性の悪さを感じたときに、まずすべきことは「本当に合わないのか」を確認することです。

人間はパーソナリティが異なるタイプ同士の方が、仲が悪くなると思われがちです。しかし実際には異質な者同士だと、好き嫌いを判定する前に「よく分からない」となり、憎悪のような強い感情を持たない場合が多いとされています。

むしろ「近親憎悪」という言葉があるように、同質なタイプの方が相手のことがよく分かるがゆえに、強い憎しみの感情を持つことが多いようです。合わないと感じる上司が、実は自分と「似た者同士」であったということは割とあるのです。

近親憎悪は、次のようなメカニズムで生じます。まず、自分の中にある見たくない特徴があった場合、人はたいていできるだけ抑圧して見ないようにし、忘却しようとします。そして、せっかく何とか忘却しようとしていることをあからさまに見せている人がいると、怒りの感情が生じるという流れです。

2.似てない相手なら「穴」を埋めてあげる

自分の中で嫌で仕方ない部分を持つ人に強い憎悪が生まれるのだとすれば、それは自分に対する怒りともいえるかもしれません。しかし、本来的には似ている相手には好感を抱くものです(類似性効果)。深く自省し、上司が実は自分と似ているということを嫌でも認識すれば、それまで合わないと憎んでいた上司が逆に愛おしく思えるかもしれません。

「いやいや、そんなことはない。自分と上司は似ても似つかない。性格も価値観もまったく合わないのは明白だ」

そういう場合には、どうすればよいか。もう一つの解決の糸口は、自分と異なる相手の「穴」を埋めることができないか探ることです。例えば上司が拡散型の性格で、いろいろなことに興味を持っては新しい何かを職場に持ち込んで来るものの、飽き性でもあるために最終的には広げた風呂敷を畳むことができないという問題があったとしましょう。

部下からすると「また何か持ってきたけど、どうせ飽きるんだろ」と嫌気がさすかもしれません。しかし上司のアンテナの高さをきちんと評価して「最後まで完遂しない」という穴をサポートできれば、きっと上司はあなたを頼もしい人材として頼りにするでしょう。

自分と違う性格の上司だからといって「嫌気がさす」で留まるのではなく、むしろ違うことがチャンスであると認識すれば、行動は変わるはずです。このように、上司の穴を埋められるものを自分が持っていないか考え、あればそれを積極的に使うことで上司との相性は改善するかもしれません。

3.思い切って相性の悪さを「可視化」する

以上のように相性というものは複雑で、似ているから相性がよいとか、似ていないから悪いとかという単純なものではありません。今一度「本当に相性が悪いのか」を考え、相手を理解しようとする努力をしないまま「あの人とは合わない」と決めつけると、いろいろな心理的バイアスの罠にはまってしまいます。

例えば「ゴーレム効果」といって、人に対し悪い印象を持って接することにより、その印象が良い印象を打ち消して悪い影響の方が勝ってしまい、相手も実際に悪い人になってしまうことがあります。

また、人には自分がされたことをし返す「返報性」の傾向があることを考えると、自分が上司を嫌うことで、それを敏感に察知した上司が今度は自分を嫌ってくることもあるでしょう。両方とも誤解が誤解を生む悪いスパイラルの典型です。

それでもやっぱり馬が合わないということであれば、最後の手段は「可視化」です。人は意識できていないことはコントロールしにくいですが、可視化などをして意識できたことについてはコントロールすることができるようになったりします。なかなか難しいとは思いますが、勇気を出して上司に時間をもらい、次のような内容を、言葉を尽くして話せば分かってくれるかもしれません。

「私とあなたはこういう点で、パーソナリティの相性がよくありません。だからこういう点で、あなたは私に嫌悪感を持つかもしれませんし、逆に私はこういう点であなたに嫌悪感を持つかもしれません。ですが、そういう性格の不一致を乗り越えて、なんとかあなたと一緒にやっていきたい」

■辞めるのは最後の手段。短気を起こさずに

特に大人度が高い上司であれば、価値観が合わない人とでもうまくやるのは、仕事なら当たり前と思うはずです。辞めるぐらいのパワーがあるなら、一度は試してみてはいかがでしょうか。どうせ辞めるのであれば、何のマイナスもないのですから。

さて、上司と合わない人のために、いろいろ書いてみました。少しでも短気を起こさずに、合わないように見える今の上司となんとかうまくやっていただけることを祈っています。辞めるのは、最後の手段です。

何か問題が起こったときに、そこから立ち去ることで解決すると、それが癖になってしまいます。そうすれば、ジョブホッパーの仲間入りです。転職を否定するわけではありませんが、単なる逃げの転職にならないよう、上司との関係改善の努力を頑張ってみることをお勧めいたします。

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人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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