Yahoo!ニュース

危ない人事コンサルタントの見分け方

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
(写真:アフロ)

■人事実務家と人事コンサルタント

私は今年でもう50歳になります。社会に出てから四半世紀以上、人事の仕事をしてきました。40歳までは人事実務家、そしてその後のここ10年はコンサルタントという立場で人事をサポートする側にまわりました。

そこで、感じたことは、自分の所属する組織ですら人事のことを扱うのはとても難しいし、組織は不可逆なので安易な実験などしてはいけないのに、人事コンサルタントとか人事サポートツールのベンダーの人たちは、よくあんな気軽に「こうした方がいいですよ」と根拠もなく(もちろんすべてのことに根拠など持てないのですが)提案するものだということです。

自戒を込めて(と言っておけば許されるものではないですが)、そういう適当な提案によって、せっかく先人達が苦労して作り上げた、皆さんの組織が壊れてしまわないように、外部の人事コンサルタントやベンダーの方々の見分け方をお伝えしたいと思います。

■組織を壊す危ない人事コンサルタントの特徴

※順不同

・素直にオーダーされた通りのものを作る

→お客様の言うことを聞いていれば無難と思っている「ガキの使い」的コンサルタント。たとえそれが間違ってそうだと思っても、ただやる。本当は「逆命利君」(命にそむいて、君を利する)くらいでちょうどいいのではないでしょうか。素直なコンサルタントには注意が必要。

・情報を直に取りに行かない

→現地視察、インタビューやサーベイ、様々な人事データなど、ローデータに近いものを見ないと真実は分からないのに、一部の経営者や人事の話だけで物事を判断し進めていく。むしろ、経営者や人事の「認識の誤り」を正すことができることに価値があるのに。

・経営者に会わせて欲しいと言わない

→経営最適ではなく、人事最適で動いているのがバレるのが怖い。しかし、組織は外界の制約条件に適応させないとパフォーマンスが下がる。居心地のよいだけの組織を作っていては、そのうち「ゆでガエル」の寓話のように、組織は死んでしまう。

・経営を知らない、興味がない

→人事は経営目標を実現するための手段。組織維持が自己目的化してしまっているかもしれない。ミクロ視野しかない人は、優しい人事コンサルタントに多い。しかし、残念ながら従業員満足度やモチベーション、組織コミットメントなどとパフォーマンスの間に、直接の相関があるという絶対的な証拠は少ない。

・定義のはっきりしない流行り言葉を使う

→たぶん、その人も分かっていないか、煙に巻こうとしている。人事に新しい概念は滅多になく、きちんと定義された明快な言葉で語れないことは少ない。「モチベーション」「ロイヤルティ」「コミットメント」「エンゲージメント」と言葉は変遷していっても、その違いはほとんどない。「違う」と多くの人は言うが、「では、それをどうやって測定するのか」とサーベイの項目内容などまで遡ると全く同じようなことは多々ある。

・「トレンドだから」が提案の理由

→人事に流行はいらない。流行だから自社に合うとは限らない。「これからはこう」と根拠なく言う人は大変怪しい。時代評論と個社のコンサルティングは違う。トレンド的には確かに多くの会社が取り入れているという制度でも、自社は正反対の制度の方が適しているかもしれない。

・「これがふつう」が提案の理由

→人事にふつうはない。みんな違う会社。同じ業界でも制約条件は全然違うことも多い。

・「事例」が提案の理由

→欲しがる方も悪いが、他社でうまくいっているから、ではなく、原理原則とファクトから説明できないといけない。社内での説明などで必要なのかもしれないが、人事側も「事例」など気にせずに、ファクト(事実)とロジック(論理)とセオリー(理論)のみから考えて判断すべき。

・そもそも最初から提案したいソリューションが決まっている

→最も多い。そのソリューション(解決策)より、もっと効果的なものがあっても、探さない、考えない。コンサルティングではなく、それはモノ売り(モノ売りが悪いわけではないですが)。「あー、だったらこうしたらどうですか?」と言っても、そのソリューションを最初から後ろに隠し持っている。

・数字やデータに弱い。使わない

→人事は曖昧だからこそ、できる限り数値化して可視化したいとふつうは思う。しかも、今は結構いろいろなデータが取れるし、残念ながら人の感覚よりもデータの方に予測力があるという研究結果が出ていることも多い。それを使わない手はない。

・数字やデータを絶対視する

→統計の限界が分かっていない可能性がある。「有意差」があるというだけで、鬼の首を取ったように過度の一般化をしたりしてはいけない。因果関係と相関関係がごっちゃになっている。データだけで本当の因果関係まではなかなか分からない。また、定量分析だけでなく、定性分析からのアプローチも大事。

・ものすごい短納期

→人事は拙速はダメ。寝かしておくことの大事さ。お客様の腹落ちや気が変わるのを待てない。組織の変化が不可逆であることが分かっていない。

・心理学を勉強していない

→結構、いろいろなことが既に何十年も前から分かってきているのにそれを使わない。しかも、一般的に信じられているものと異なる事実が分かっているのに。人事は心理学の応用分野。物理学を学ばない機械の設計士はいない。

・労働法や社会保険を勉強していない

→そのコンサルタントは公道を走れないF1ドライバーかもしれない。悪法も法なり。心理学的に正しくても、法を犯しては実施できない。

・自信満々でやたら断言する

→基本、「かもしれない」しか言えないことばかりのはず。それを分かった上で、できるだけ真実に近づいて、最後は意思を持って決めて、決めたらそれを正解にする努力をする、というのが実態ではないか。

・スコープ外の人事施策を見ない

→人事は諸施策の一貫性が大事。例えば、採用だけ見ていては、経営や組織にとって本当に良い採用かは分からないはず。評価報酬制度などを決める際にも、必ず採用・育成・配置などの現状や方針を見ておく必要がある。

・因果関係分析をしない

→組織で生じている様々な現象は全て繋がっている。何をいじれば何が動くのかをしっかり理解しなければ、問題を解決するためにしたことで、その会社の命を潰すこともある。自社の強みを作っているコアの副作用は、根本治療してはいけない。積極的な対症療法をすべきときもある。

・話が抽象的で、具体性がない

→言っている本人がイメージできていない可能性がある。人事は企画より運用こそが大事。運用時に起こる様々なアクシデントへの想像力に欠けていないか。事例がないということではなく、実際にオペレーションをする時にどれぐらいパワーがかかるのかとか、人事考課表を作った際に、埋めてみると例えばどうなるのかとかを考えていないなどのこと。

・最終的な提案施策が面倒くさい

→理論に合っていても、運用・実行されなければ意味がない。人は認知資源に限界があるので、面倒くさいものはなかなかやらない。人事施策の優先順位は概して高くない。

・これを読んで、自分には当てはまらないと思っている

→人事コンサルタントに限らず、そんな完璧な人はおらず、いるのは「完璧だと思っている人」だけ。そういう人が一番危ない。正直、私もまだまだ修行中です。

など。

■そうは言っても外部の力を借りることも重要

こんな風に、「これはダメ、あれもダメ」と言っていると、外部の力を借りて人事の問題を解決することが怖くなってきそうですが、内部だけでやったからと言ってOKなわけでもありません。上述したポイントは、すべて中の人事の人にも当てはまるからです。

要は、経営者は、リソースは中でも外でも必要なものを必要な時に使うべきであり、中でも外でもいいものあれば悪いものもあるという、至極当たり前のことです。「とにかく内製」とか「とにかく外注」ではなく、フラットに考えて最善の体制で難問に取り組んでいくことが重要ではないかと思います。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

曽和利光の最近の記事