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本当の人手不足はこれから〜採用活動を中止するのはやめましょう〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
(写真:mon_printemps_fleuri/イメージマート)

■確かに「買い手市場」になってきた

コロナ禍により世界経済が打撃を受けたことで、日本の景気が悪化してきているのは皆さんもよく知るところだと思います。

景気が悪化すれば、企業の採用活動意欲も減退します。リクルートワークス研究所調査の新卒求人倍率は2021年卒で1.53倍と、リーマンショックの翌年の1.62倍をきりました。リーマンショックの際にはその後4年間にわたって、1.2倍台の「買い手市場」(採用する側の企業が強い労働市場)が続いたわけですが、その再来もあるかもしれません。

■不安な学生はたくさん企業を受けまくる

それを踏まえてか、不安になった学生たちの就職活動量は増加しています。私が支援している会社でも、インターンシップや本選考への応募者が軒並み倍増しているというような状態です。

実際、昨年までの学生の就職活動量は、年間でおおよそ10社程度しか受験していなかったのですが、リーマンショック後の「買い手市場」時代には、20社〜30社ぐらい受験をするのがふつうでした。現在も同じぐらいの水準に戻っていると考えれば、「応募者倍増」というのも、納得がいきます。

■採用パワーを減らす会社が増えた

そうなると、企業は「簡単に採用できそう」「それなら不景気だから採用のコストやマンパワーを減らしておくか」「採用数も減らすのだし」と、採用にかけるパワーを減らすところが増えています。

採用媒体の掲載量を減らしたり、リファラル(紹介)採用などの、社員や内定者の知人や後輩をたどって候補者集団形成をするのを止めたり、エントリーシートや適性検査などで多くの人を落として面接数を減らしたり、採用担当者の数を減らしたりというようなことです。

■不景気のときこそ優秀な人材が採りやすいのに

たしかに、これから景気もどうなるかわからないということで、採用にパワーをかけられない、そんなにたくさん採用はできないというのはわかります。

わかりますが、しかし、そこを「採用する!」でいくのがよい経営判断ではないかと思います。

理由は簡単で、不景気の時こそ、他の企業が採用を手控えるから、優秀な人材がたくさん比較的容易に採用できるからです。今の社内を見ても、不景気期に採用した社員が活躍しているのではないでしょうか。

ふつうの会社は好景気の時に採用数を増やし、不景気の時に減らします。しかし、採用最適で考えると、それは「採りにくい時に、無理して採り、採りやすい時に、採らない」ということをしているのです。もったいないことです。

■景気は意外と早く戻るかもしれない

加えて申し上げたいのが、コロナによって一瞬「買い手市場」になるでしょうが、それは長くは続かないのではないかということです。

まず、経済的なことは私には正確にはわかりませんが、リーマンショックの時よりも倒産件数や負債総額なども少ないですし、各国政府の財政出動によってか、株価なども堅調です。

さらに、コロナのワクチンなども開発・配布が間近というような話もあり、そうなると、社会が正常化し、景気も早く戻ってくるかもしれません。

ただ、これは本当に私にはわかりませんので、話半分で聞いておいてください。

■確実なのは日本は少子化社会であるということ

採用へ影響を与えるもので、景気よりももっと確実なのは、今の日本は「少子化」であるということです。

昨年生まれた赤ちゃんの人数は、90万人をきっていますし、コロナの影響で婚姻数も妊娠数も下振れしています(これは20年後ぐらいに影響を受ける話ですが)。

これに対して日本は政財界を挙げて「働き方改革」や「定年延長」などの対策を行って、「女性」「シニア」「外国人」などの労働市場への流入を図ってきました。その結果、2012年頃からこれまで、実は労働力人口は300万人以上も増えていたのです。

それでもここ数年は「売り手市場」だったわけですが、この対策の効果による労働力人口の増加に限界が来た時(そろそろ来そうです)、どこまで「売り手市場」になるか、想像すると恐ろしくありませんか。

■対策は既に打って、効果も出たがそれでも足りない

実際、「労働市場の未来推計2030」(パーソル総合研究所)によれば、2030年の労働需要予測が7073万人に対して、労働力人口は6429万人と、644万人も「人手不足」の予想されています(上述の「女性」「シニア」「外国人」などの増加を踏まえて、です)。

つまり、後は「生産性を上げるしかない」という状態なのです。様々な業務改革を行ったり、AIなどで効率を高めたりするのが最後の頼みの綱というわけです。何かしら画期的な発明が行われて、問題なくなるかもしれませんが、当然、確実なことではありません。

■だから、採用を止めてはいけないのです

以上のように、短期的には不景気で、確かに人員ニーズは少ないかも知れませんが、その後ある程度たてば「売り手市場」「人手不足」の大復活はほぼ確実なのですから、短期的視野で、採用をストップしてはいけないのではないかと思います。

採用は一度ストップすれば、候補者への認知度も下がりますし、採用活動量が減ることで担当者のスキルも下がり、結果、組織の採用力も下がります。そしてこれを復活させるためには、また採用担当者の育成をしたり、企業の採用ブランドを高める活動をしたりせねばならず、簡単には戻りません。

経営危機でどうしようもない、という場合はもちろん仕方がありません。しかし、そこまででないのであれば、一旦訪れそうな「買い手市場」に甘えず、採用パワーを減らすことなく採用を継続し、きっちり優秀な人を採りながら、来たるべき「売り手市場」の再来に備えて、採用力を磨いておくというのが、正解ではないでしょうか。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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