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工藤会幹部死刑判決をどう読むか(速報)

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:アフロ)

■はじめに

 本日(24日)、みずからは具体的に実行していない1件の殺人既遂と、3件の殺人未遂について共謀共同正犯として起訴されていた工藤会トップ2名について、死刑と無期懲役の判決が言い渡されました。

 本稿では、共謀共同正犯を認めたこの判決の考え方について検討したいと思います。

【速報】特定危険指定暴力団「工藤会」トップに死刑判決 福岡地裁(RKB毎日放送) - Yahoo!ニュース

■共謀共同正犯論の移り変わり

「共謀」とは

 「共謀」とは、犯罪を行う謀議(意思の連絡)のことです。

 刑法60条は、「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と規定していますが、犯罪の謀議にだけ参加して、殺すとか、殴るといったような具体的な犯罪行為(実行行為)を行わなかった者もこれに当たるというのが、共謀共同正犯論という理論です。

 もともとこのような考え方は明治時代に判例によって主張されたもので、犯罪を計画する謀議の形成過程に参加することによって、犯意をもつ個々人を超えた共同意思主体が形成され、これが犯罪の主体となるので、この共同意思主体の形成に関わった者は結果的に犯罪についての責任を負う、というものでした。

 このような考えは、詐欺や恐喝といった知能犯について犯罪集団に属する者の刑事責任を説明する便利な理論でしたが、やがてこれが傷害や殺人などの実力犯に拡大されていくにつれて、個人が自己の行為によって犯した結果についてのみ処罰されるという個人責任主義に反すると批判されるようになりました。

練馬事件判決

 このような判例の拡大傾向に歯止めをかけたのが練馬事件判決と呼ばれる最高裁判決です(最高裁昭和33年5月28日判決)。これは、警官殺害事件ですが、殺害計画には加わったものの、具体的に殺害を実行しなかった者についても刑法60条が適用されました。

 この判決で最高裁は、共謀共同正犯が成立するためには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって、互に他人の行為を利用し、かつ自己の行為を他人の行為に補充するという意味で、緊密な相互利用相互補充の関係があればよく、必ずしも実際に殺すという具体的な行為を行う必要はない、としました。

 ここにはかつての共同意思主体説の影響が残っていますが、その後の裁判実務は、相互利用相互補充関係として働く共謀の成立を、集団の強固な一体性からも裏付け、首謀者と実行者との支配関係や主従関係、また各人が具体的に担った役割の犯罪計画での重要性などから総合的に判断してきました。

 ただ、暴力団組織の場合、幹部が配下の者に明示的に指示を出さなくとも、配下の者が幹部の意を忖度して犯行に及ぶという場面がありえます。極端にいえば、目配せするだけで犯罪へのスイッチが入ることも予想されます。つまり、直接実行しなかった者の刑事責任を問うために、共謀の形成過程への関与を問題にしてきたわけですが、この共謀の形成過程が不明な場合をどうするかです。

スワット事件判決

 それが問題になったのが、スワット事件判決と呼ばれる最高裁平成15年5月1日判決です。

 この事件は、暴力団の組長のスワット(ボディガード)をしていた組員の拳銃不法所持が問題になったもので、組長がスワットに拳銃の所持を具体的に指示したかどうかは不明でしたが、判決は黙示の共謀を認め、組長を拳銃不法所持の共謀共同正犯としました。

 この犯行時における〈事実としての共謀〉の存在を確認するために、裁判所は暴力団組織の特殊性、組長自身が過去スワットであったときの経験、当該暴力団の日頃の警備体制などに言及しました。

〈行為としての共謀〉から〈事実としての共謀〉へ

 上述のように、従来、実行に直接関与しなかった共謀者の責任は、共謀の形成過程への関与を問題にすることで認められてきました。つまり、それは相互利用相互補充を可能とする強固な意思関係である共謀を作り上げたことについての責任でした。

 ところがスワット事件では、この〈行為としての共謀〉が直接立証できなかったため、実行時における〈事実としての共謀〉の存在が強調されました。そのため、暴力団組織の特殊性、上意下達の組織的支配性などが強調され、それらが犯行時における〈事実としての共謀〉の存在を立証する情況証拠として活用されたのです。

 本件もまさにこの延長線上に位置づけられるのではないかと思います。

 つまり、共謀の形成責任について多方面からの情況証拠を積み上げて立証する方法がとられ、さらにその証明力を後押しするかたちで、工藤会という組織犯罪集団の特殊性、たとえば強固な一体性や上意下達のピラミッド型の支配構造、犯罪遂行そのものが組織の中でプラスに評価される契機となるような、犯罪促進的構造などが強調されたものだと思われます。

■まとめ―今後の影響―

 一定規模の暴力団を「指定暴力団」とする1991年の暴力団対策法(暴対法)の制定、さらに2010年に工藤会の存在を念頭に福岡から始まり全国に広がった、一般企業との一切の関係遮断を要求する暴力団排除条例(暴排条例)によって、わが国の暴力団対策は強力に進められてきました。今日の工藤会への判決によって、この流れは一層強くなることが予想されます。

 しかし、他方で「半グレ」のような組織性の弱い犯罪集団については、本件の判決の論理は妥当しにくく、この部分についてどのような対策を講じていくのかが重要な課題となると思われます。

 また、暴力団離脱者を社会としてどうフォローしていくかも、依然として重要な課題であることは変わりありません。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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