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「終わった男」が勝者となったWBCスーパーライト級タイトルマッチ

林壮一ノンフィクションライター
Esther Lin/SHOWTIME

 3.2パウンド(1.45kg)の差が如実に表れた試合だった。

 現地時間4月20日、ニューヨーク州ブルックリンのバークレイズ・センターで催されたWBCスーパーライト級タイトルマッチは、チャンピオンがプロ生活初黒星を喫した。

 前日計量で挑戦者ライアン・ガルシアは、3.2パウンドのオーバー。よって、ガルシアが勝利しても、タイトルは得られない条件で試合は決行された。

写真:REX/アフロ

 ガルシアとチャンピオンのデヴィン・ヘイニーは、アマチュア時代からのライバルで、6度戦って3勝3敗。相手を熟知した者同士だった。

 初回、ガルシアは左フックをヒットし、早くも王者をグラつかせる。持ち直したヘイニーが2ラウンドに右ストレート、翌3回には左フックをヒットして流れを引き寄せる。

 が、第7ラウンドにガルシアは狙い澄ました左フックを放ってヘイニーを沈める。直後、ガルシアがブレイクの際にパンチを出したことで減点を告げられる。

 10ラウンド、11ラウンドにも、ガルシアはヘイニーからダウンを奪い、試合を決定付ける。だが、チャンピオンも意地を見せ、試合終了のゴングまで粘った。114-110、115-109、112-112のスコアでガルシアは勝利を掴み、自身の戦績を25勝(20KO)1敗とした。ヘイニーは31勝(15KO)1敗となった。

 体重超過しながらもビール瓶を片手に計量会場に現れ、それをラッパ飲みしながら秤に乗ったガルシア。このところ奇行の目立つ彼は、折に触れて言動が疑問視されており、リングに上がって戦えるのか否か、プロボクサーとしての適性があるのかどうかという声が上がっている。しかしながら、チケット、PPVの売れ行きを考慮した興行師たちが、今回のイベントをキャンセルする筈もない。

Chris Esqueda/Golden Boy Promotions
Chris Esqueda/Golden Boy Promotions

 筆者は、ガルシアが自身のスピードを落とさないために、敢えて規定体重である140パウンドのリミットを無視したと見ている。勝つ為には、ルール違反をするしかないと踏んだのだろう。非常に狡猾であり、姑息な手段である。

 両拳に己の体重をかけて殴り合うのがボクシングだ。重い方が有利なのは分かり切っている。だからこそ、ウエイトが細かく区切られているのだ。それを守らずにリングに上がるというのは、暴挙以外の何ものでもない。

2005年10月8日、体重オーバーながら勝利したカスティーリョ
2005年10月8日、体重オーバーながら勝利したカスティーリョ写真:ロイター/アフロ

 ガルシア陣営は2005年10月8日にラスベガス、トーマス&マックセンターで催されたディエゴ・コラレスvs.ホセ・ルイス・カスティーリョ戦を参考にしたのかもしれない。同ファイトの5カ月前、WBOライト級タイトルを保持していたコラレスと、WBC同級王者だったカスティーリョとの統一戦は、激しい打ち合いとなり、ダウンを奪い合いながらコラレスが勝利を掴んだ。

 雪辱を期したカスティーリョだったが、リターンマッチ前日の計量で2パウンド(約0.91kg)の超過。2時間後の再計量では、さらに1.2パウンド膨らみ、計1.45kgのオーバーで、タイトルマッチとしての開催はキャンセルされた。

 カスティーリョは、ファイトマネーの10%にあたる12万ドルの罰金を払ってリングに上がり、ノンタイトル戦ながら4ラウンドでコラレスを沈めてリングを降りている。

写真:ロイター/アフロ

 いずれにしても、ガルシアは真の勝者ではない。ボクシング界はこの男にペナルティーを科すべきだ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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