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「終わった男」元WBC暫定ライト級王者

林壮一ノンフィクションライター
Esther Lin/SHOWTIME

 明日、催される筈だったWBCスーパーライト級タイトルマッチだが、前日計量で挑戦者のライアン・ガルシアが、3.2パウンド(1.45kg)ものウエイトオーバーという醜態を晒した。

 今週に入ってから、チャンピオンのデヴィン・ヘイニーは、「ヤツは太っているが、流石に試合までには体重を落とすだろう」と繰り返していた。

 現地時間18日に行われた記者会見で、ガルシアは「リミットを上回るようであれば、1パウンドあたり50万ドル支払う」なる約束を、王者と交わした。よって、ガルシアはヘイニーに150万ドルを支払わねばならない。

 そして、明日、万が一ガルシアがヘイニーに勝ったとしても、WBCのベルトを得ることはできない。

 開き直ったガルシアは秤の上で、ビールをラッパ飲みしてチャンピオンやボクシング関係者を挑発した。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 筆者は、今回の一件を耳にした際、さほど驚かなかった。元々ガルシアの精神面が正常ではないと理解しているからだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/81c46c63de0ba0af6621615e643583fe17f4cbd7

 ニューヨーク州アスレチックコミッションが、ガルシアに検査を受けるべきだと主張した折、強引にでもそうすべきではなかったか。

 ガルシアは昨年4月にジャーボンテイ・デービスに7回KOで敗れた際、こんなコメントを残している。

 「試合後、誰一人、俺の傍にいなかった。我が陣営は記者会見にさえ来なかった。自分のチームよりも、デービスのメンバーが俺を気にかけてくれた。裏切られたよ」

 デービス戦後の記者会見に、ガルシアを売り出してきたプロモーター、オスカー・デラホーヤ、そしてゴールデンボーイ社の副社長であるバーナード・ホープキンス、またガルシアのトレーナーを務めたジョー・グーセンが姿を現さなかったことに腹を立てていたようだ。

 しかしそれは、本人の人間性がもたらしたものであろう。

Tom Hogan/Golden Boy
Tom Hogan/Golden Boy

 その後、ガルシアはグーセンを解雇し、デリック・ジェームズを新たな指導者とした。4冠統一戦に向かうエロール・スペンス・ジュニアのキャンプに参加している。

 昨年末の再起戦では咬ませ犬を相手に勝利したものの、WBCスーパーライト級タイトルマッチが決まったというのに「MMAで戦いたい」だの「6月6日にラスベガスとロサンゼルスを大地震が襲う」「宇宙人が存在するという証拠を持っている」などと発言し、精神面が危ぶまれていた。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 ガルシアは、ゴールデンボーイ・プロモーションの庇護があったからこそ、スターになれたという事実を、どうしても把捉できないまま月日を重ねている。ついに今回、奈落の底に沈んでしまった。

 明日の試合もメンタルの弱さを見せ、ヘイニーに敗れるだろう。たとえ勝利したとしても、ガルシアが真の栄光を掴むのは無理である。高価なチケットやPPVを購入したボクシングファンが気の毒でならない。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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