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正規王者との統一戦を控えた、WBCミニマム級暫定チャンプ、重岡優大

林壮一ノンフィクションライター
撮影:筆者

 「まだ、自分は本当のチャンピオンになっていない、という気持ちです。夢を叶えるのは次の試合だと」

 4月16日、優大はウィルフレド・メンデスを7回25秒でKOし、WBCミニマム級暫定王者となった。10月7日の次戦は、同正規王者との統一戦である。

 「正直、4月の試合はガッツリと場の空気に吞み込まれました。弟の銀次朗が先に試合をして、初めてのダウンを喰らって……もうウォーミングアップどころじゃなかったんですよ。

 心配し過ぎて、アップ出来ねえよ! って、完全に兄の心境でした。アマ時代も含めて、試合で銀がダウンしたことなんて、無かったですから」

撮影:筆者
撮影:筆者

 専属トレーナーである町田主計(ちから)トレーナーは弟も担当しているため、控室にはいなかった。

 「ミットを持てる人間もいませんでしたし、万全の状態でスイッチを入れて、って暇も無く、気付いたら入場していて『やべえ、もう花道じゃん』みたいな感じだったんです。

 でも、初めてのメインイベンターでしたし、今まで後楽園ホールなどでしか戦ったことのない自分が、代々木体育館という大きな会場でトリですから。銀も、セミファイナルもKOで決着がついていたので、俺も倒さなきゃって、ちょっと荷が重かったです。冷静じゃなかったんですよね。だから、心に余裕も無かったです」

撮影:筆者
撮影:筆者

 それでもKO勝ちして、自身の戦績を7戦全勝5KOとした。とはいえ、ベルトを巻いた喜びこそあったが、粗い内容での勝利に、優大は笑みを浮かべられなかった。

 「正直、1mmも嬉しくなかったんですよ。自分が見せたいのは勿論、KO勝ちです。が、それ以外のテクニック、世界チャンピオンに相応しいコンビネーションとか、『これは世界王者じゃなきゃ打てない』という角度のパンチなどを、見せて、会場がどよめくようなパフォーマンスを披露したいと常々考えています。

 次の試合ではそれをやるために、気持ちを切らさないで、ここまで練習を重ねてきました。いい仕上がりになりそうです」

撮影:筆者 弟、銀次朗と切磋琢磨しながら上って来た
撮影:筆者 弟、銀次朗と切磋琢磨しながら上って来た

 9月の2週目になって、フィリピンから世界ランカー3名が来日し、トレーニングの激しさが増した。

 「ああいうレベルの高い選手との殴り合いは、楽しくて楽しくて。目が覚めたというか、ボクシングがこんなに楽しいのは久しぶりですよ。スタミナも自信はあります。何なら15ラウンドでも戦えますよ」

撮影:筆者
撮影:筆者

 優大は、WBAライト級チャンプ、ジャーボンテイ・デービスの映像を見ることが多い。

 「ファンって訳じゃないんですが、スター性とか、存在感とか、一発で倒す姿とか、あの野獣のようなところがいいなと。彼こそ、ボクシングの世界王者って感じがします。

 自分も世界チャンピオンに相応しいボクシングを見せたいですね。<全てにおいて、世界王者だな>という姿を見せたいです。正直、技術よりもパンチ力で仕留めることに拘っていました。ファンがそれを求めていると感じていたからです。今回は、総合力で会場を沸かせたいですね」

 10月7日、重岡優大の戦いぶりに注目だ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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