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世界チャンプの傍にいる「叫び屋」

林壮一ノンフィクションライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 WBA/WBC/IBF/WBO統一ウエルター級タイトルマッチの10日前にラスベガスで行われた公開練習の映像を見直した。テレンス・クロフォードのチームには、<叫び屋>がいた。

 私服姿で、「テレンスこそ、2階級で4団体を統一するチャンピオンだ!」「見ろ!この動きこそ、3階級制覇王者に相応しい!!」「彼以外に、一体誰がパウンド・フォー・パウンドだって言うんだ!」等と、がなり立てていたのである。

 下の写真で赤コーナーのポスト前に立つ彼だ。その名をバーナード・デイビスという。

Alex Sanchez/SHOWTIME
Alex Sanchez/SHOWTIME

 SHOWTIMEはアシスタントトレーナーと表していたが、クロフォードを技術的にサポートするタイプではない。そんなデイビスの姿を目に留めながら、マイク・タイソンの傍らにも「叫び屋」がいたことを思い出した。

写真:ロイター/アフロ
写真:ロイター/アフロ

 クロコダイルなるニックネームで呼ばれていた巨漢で、記者会見や計量の際、タイソンよりも5分ほど早く登場しては「ヘビー級の歴史上、最強の男がまたKO劇を見せる!」「彼こそ、本物のIron(鉄の男)だ!」「マイク・タイソンは統一ヘビー級王者が似合う!!」と大声を出していたものである。

 トーマス・ハーンズは、弟のビリーにそんな役を宛がっていた。

トーマス・ハーンズ
トーマス・ハーンズ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 テレンス・クロフォードは理詰めのボクシングを見せ、スマートな戦い振りで圧勝したが、トレーニング時は己を駆り立ててくれる「叫び屋」を必要としていたのか。

 Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 超一流のチャンピオンの陣営には、こんな仕事もあるらしい。……が、王者がリングを降りた後は、彼らは何をするのだろう。クロコダイルは、今、どうしているのか。ちょっと気になっている。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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