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4冠統一ウエルター級タイトルマッチを、2人の元同級世界チャンプが予想

林壮一ノンフィクションライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 メガ・ファイトとして注目される7月29日の4冠統一ウエルター級タイトルマッチ、WBA/WBC/IBFウエルター級チャンピオン、エロール・スペンス・ジュニアvs.WBO同級王者、テレンス・クロフォードを2名の元同級世界王者が占った。

 両者の言葉をお伝えしよう。まずは、IBF、WBCと147パウンドで王座に就いたショーン・ポーター(35)。

 ポーターは2019年9月28日にWBC王者として、IBFタイトルを保持していたスペンスとの統一戦に挑み、判定負けを喫した。そして、2021年11月20日にはクロフォードの持つWBOタイトルに挑み、10回KO負け。このファイトを最後に引退を決めた。戦績は31勝(17KO)4敗1分けであった。

スペンスとの統一戦前日、計量時のポーター
スペンスとの統一戦前日、計量時のポーター写真:REX/アフロ

 「僕自身、とても興奮してる。先日も教会で、仲間たちとこの試合について話したんだ。近年、稀にみるビッグマッチだね。

 クロフォードはリングで色々なことが出来る。『このラウンドで何をするか』を考えながら戦えるんだ。彼は自分の箱の中に、多くの道具を持っている。

WBOチャンプ、クロフォード Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
WBOチャンプ、クロフォード Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 一方のスペンスは、世界中で最も基本に忠実なボクサーだ。そして、未だかつて持っているもの全てを出したことが無い。

3冠王者のスペンス Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
3冠王者のスペンス Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 両者ともアジャスト力、アグレッシブさ、バックステップして相手のパンチを躱してから、間髪を入れずに攻撃に転じること、そして良いカウンターを備えている。彼らは全ての項目でA+。だから、非常にハイレベルな戦いになるよ。

 ファンは2人から3つの異なる戦略、いや、もしかしたら4つか5つのゲームプランを見ることになるかもしれない。両チャンプはその位、ボクシングを知っている。

すっかりコメンテイターが板についたポーター
すっかりコメンテイターが板についたポーター写真:REX/アフロ

 エロールは計算しながら相手にプレッシャーをかけるが、それを試合中、ずっとやり続けなければいけない。プラス、ボディーを打つ必要があるね。

 クロフォードも、エロールの腹を狙い、精神的に揺さぶることが肝心だ。エロールは本当にディフェンスが巧みで、ガードを崩さない。パンチを打っていない時、必ず、拳を上げているよね。そういう相手には、隙を見付けなければ。隙とは、大抵、パンチが放たれる瞬間に生まれる。

 エロールがパンチを出す際に、クロフォードもパンチを出すんだ。互いに正確さや、鋭さを持つ選手だから、これ以上ない素晴らしいファイトになるさ。お互いのタイミングを掴むのも、距離を測るのも難しい。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 もしクロフォードが自分の能力を完璧にコントロール出来れば、マニー・パッキャオ、アンドレ・ウォード、フロイド・メイウェザー・ジュニアと同列に語られるようになるだろう。彼は僕との試合でも、イラつくことや精神面の不安定さとは無縁だった。

 正直、どちらが勝つかなんて分からない。両者ともパワー、スピード、テクニック、メンタルと、勝つための要素を十二分に持っている。この試合について『〇〇が勝つ』なんて言える人はいないさ。反則やローブロー、頭突き等で試合が早めに終わるってことも無いだろうね。純粋にボクシングに向かう者が勝つんじゃないか」

2022年2月19日にKO勝ちした後、リングに別れを告げたブルック
2022年2月19日にKO勝ちした後、リングに別れを告げたブルック写真:ロイター/アフロ

 2人目は、IBFウエルター級王座を3度防衛した英国人、ケル・ブルック(37歳)。ブルックは2014年8月16日に、ショーン・ポーターからIBFウエルター級タイトルを奪取し、4度目の防衛戦でスペンスに11回KO負けして王座陥落(2017年5月27日)。2020年11月14日には、WBO王者クロフォードに挑戦したが、4ラウンドで沈んでいる。

 「いやぁ、楽しみだ! 誰もがこの試合を話題としている。今や、パウンド・フォー・パウンド最強を争っている両者が、ついに激突するんだもんね。

 エロール・スペンスはウエルター級としてはとても大きく、天性のサウスポーだ。体格が良くて力強く、ボディーブローが得意だ。リングでのIQは本当に高い。

 テレンス・クロフォードはアウトボクシングが出来る。彼のパンチにはキレがあり、フィニッシャーとして非常に優れている。この試合では、あらゆるゲームプランを試みるだろう。本当の意味で、ナンバーワンを決める一戦だな。

ブルックのプロ戦績は40勝28KO3敗
ブルックのプロ戦績は40勝28KO3敗写真:REX/アフロ

 スペンス、クロフォード、ショーン・ポーター、ゲンナジー・ゴロフキンなど、私がこれまで対戦してきた一流選手は、皆オーラがある。そして、彼らには並みの選手には無い、プラスアルファの力を持っている。この試合は、どちらがより良い準備をしたかが明暗を分ける。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 スペンスは計算し尽くしてプレッシャーをかけるだろう。躰は彼の方が大きい。だからクロフォードは、リング全体を使い、適切なタイミングで鋭いパンチを放つべきだ。ラウンドを重ねながらスペンスを崩し、3冠王者が余計だと感じる動きをさせなければ。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 クロフォードは非常にクレバーな男で、キレのあるパンチが持ち味だ。スペンスには削るようなパワーがある。それが2人の違いだと思う。

 2人のスターのぶつかり合いは、ほんの僅かな差で決着がつくだろう。勝利を手にするために、両者は持っているあらゆる能力を発揮しなければならない」

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 ゴングまで、残すところ2週間。両チャンピオンは、いかなるコンディションに仕上げるか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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