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世界戦直前「必ず世界を獲ると太鼓判を押された男」

林壮一ノンフィクションライター
スパーリング前にワセリンを塗る銀次朗  撮影:筆者

 来年1月6日にIBFミニマム級王座に挑む重岡銀次朗(23)。

 プロ8戦全勝6KO。アマチュア時代の戦績は56勝1敗となっているが、この1敗は、2つ上の実兄、優大とインターハイ熊本県予選の決勝で当たることとなり、ゴングと同時に顧問がタオルを投げ入れたもの。ボクシング部を預かる顧問は、兄弟に殺し合いをさせる訳にいかなかったのだ。

撮影:筆者
撮影:筆者

 小学4年からボクシングを始めた銀次朗はアマチュア記録に載る前から試合に出ているが、黒星を喫したことは一度もない。一直線に世界タイトル挑戦まで走ってきた。デビュー前から渡辺均・ワタナベジム会長が「絶対に世界チャンピオンになれる逸材」と断言してきた男である。

 銀次朗は言う。

 「調子はいいですね。このところ体が軽くなってきました。戦い方も、新しいことにチャレンジしています。相手がどうこうではなく、自分のボクシングのレベルアップとして、接近戦でのディフェンスや連打の精度を上げよう、と。

 プレッシャーは特に無いです。毎試合、勝って当たり前だと自分は思っていますし、周囲の皆さんも、そう感じてくださっているので、ただ勝つだけじゃなく、しっかり倒して勝つことをテーマとしています」

撮影:筆者
撮影:筆者

 言葉通り、銀次朗は相手に合わせた対策はほぼ立てず、自身のボクシングを磨くことを最優先にしてここまで上がって来た。「仮にDVDや動画で対戦相手を研究しても、試合当日まったく違う動きをする可能性もあります。目の前の敵をいかに料理するかが大事ですから」というスタンスだ。

 しかし、今回はチャンピオンであるダニエル・バラダエスの映像を何度か見ている。

 「自分より強いか弱いか、という視点で動画を見て『これなら勝てるな』といつも安心します(笑)。世界戦ということで、抱え込んじゃってる部分もあるんですかね…。試合のことばかり考えてしまうんですよ。

 今までこんなことは無かったんですが、練習後に一人になると特に。これも世界タイトルを経験するからこそでしょうね。いい経験だと考えるようにしています」

撮影:筆者  WBOチャンプ、谷口と
撮影:筆者  WBOチャンプ、谷口と

 銀次朗はヒップホップを好むが、このところ聴いているのは大阪出身のラッパー、『MC TYSON』。1月6日の入場曲にも、このアーティストの「ローカルスター」を選んだ。

 「今、ロードワークの時も『MC TYSON』をよく聴いているんですよ」 

 ボクシング界でTYSONといえば、誰もが元統一ヘビー級チャンピオンのマイク・タイソンを思い浮かべる。ヘビー級としては極端に背が低かったタイソンは、想像を超えた速度の頭の振りとステップインで相手の懐に潜り、マグネシウムと呼ばれた強打でKOの山を築いた。

写真:ロイター/アフロ

「マイク・タイソンと『MC TYSON』の名前について感じたことは無かったですが、タイソンの戦い方からは学ぶものがありますよね」

 1月6日のメインイベントは、同門の先輩王者である谷口将隆がWBOミニマム級タイトルの防衛戦を行う。銀次朗はセミファイナルに出場だ。谷口も後輩の世界奪取に太鼓判を押す。

 「間違いなく銀ちゃんが勝ちますよ。僕も彼から刺激を受けるし、学ぶことも多いです」

 マイク・タイソンばりのKO勝ちを収め、谷口へバトンを渡してもらいたいものだ。12日後の大阪、エディオンアリーナに注目だ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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