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防衛戦まで1週間、日本ライト級チャンピオンの胸の内

林壮一ノンフィクションライター
渡辺均会長、小林尚睦トレーナーと日本ライト級王者の宇津木秀  撮影:筆者

 11月17日に日本ライト級タイトル2度目の防衛戦として、ジロリアン陸の挑戦を受ける宇津木秀。11戦全勝9KOの日本王者は爽やかに言った。

 「順調に仕上がりました。コンディションも上々です。圧勝しますよ。ジロリアンは『一発が当たれば倒せる』と思っているようですが、何もさせません。触らせもしません。僕には絶対に勝てないということを思い知らせてやります」

 今日までにこなしたスパーリングは、およそ90ラウンド。今回、小林尚睦トレーナーが課題としたのはディフェンス面の強化だ。

 小林トレーナーも話した。

 「ジロリアン陸はパンチに自信があるので、序盤から出てくるでしょう。こちらは慌てず、じっくりとディフェンスして試合を作ります。遅かれ早かれチャンスは訪れるでしょうから、そこで倒せると考えています。判定まではいかないでしょうね」

撮影:筆者
撮影:筆者

 宇津木は、今月1日に"日本人ライト級頂上対決"として催されたWBOアジアパシフィックタイトルマッチ、吉野修一郎vs.中谷正義戦をリングサイドで観戦した。この試合前、中谷のパートナーとして帝拳ジムに通い、計30ラウンドのスパーリングをこなしている。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 試合前日、中谷は宇津木について語った。

 「修正能力が高い選手ですね。課題点に気付いたら、次のスパーではすぐに対応してきます。毎回のようにそれを感じました。こちらも学習し、戦い方を模索することの繰り返しでした。いいスパーでしたよ」

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 "仮想吉野修一郎"役を担った宇津木だが、吉野vs.中谷戦は「予想通りの展開だった」と振り返る。

 「序盤は中谷さんがリードを巧く使って距離を保ちました。吉野さんはやり難そうでしたね。でも、吉野さんがジワジワと懐に入っていきました。4ラウンドくらいから吉野さんは、中谷さんのジャブに対して右を合わせる詰め方に変えましたよね。ジャブの殺し方が良かったと思います。僕がスパーしているのと同じような展開でしたよ。

 吉野さんが接近戦を挑む折、中谷さんの右アッパーも入っていたのですが、首をひねって躱す吉野さんの受け流し方が巧みでした。中谷さんはボディが効いていたのか、スタミナを奪われたのか分かりませんが、5ラウンドから失速しました。6ラウンドの中谷さんは捨て身でパンチを出しましたが、ガードが下がり、攻撃が雑になってしまった。あそこで勝負がつきましたね」

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 6回1分14秒で吉野がKO勝ちし、WBOアジアパシフィックタイトルを守った。

 「吉野さんは強いなぁと思いました。ダメージをもらわないディフェンス力がありますし、後半に自分のボクシングをやれる試合運びの上手さも感じました。

 2021年の春に、僕は吉野さんに挑戦する筈だったんですよ。残念ながら僕がコロナになってしまって流れたんですが、やってみたいですね。嚙み合うと思います。凄い打ち合いになりそうですが、彼に穴が無いわけじゃない」

撮影:筆者
撮影:筆者

 吉野vs.中谷戦が行われた興行のメインイベントは、御承知のようにWBC/WBA統一ライトフライ級タイトルマッチであった。宇津木はジムの先輩である京口紘人をサポートした。

 「5ラウンドにダウンを奪われてからの京口さんの巻き返しは素晴らしかったですね。練習しているからこそ出たものです。本当に尊敬出来ますし、恰好良かったです。

 『何かをひたむきに頑張ってる子供たちに向けて、やれることをやれば必ず結果が出るっていうのを自分が証明したかった。そういった子たちに勇気を与えるような選手になりたいなという思いで頑張ってきた』という試合後の発言も、流石だな、と思いました。自分もああいう風になりたいです」

 ジロリアン陸戦は、京口にもセコンドに付いてもらいたい。そして、自分のボクシングを見せます! と日本チャンピオンは結んだ。

 17日の後楽園ホールで、宇津木秀は何を見せるか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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