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殿堂入りした72歳の元世界ヘビー級王者が、現役ヘビー級チャンプにアドバイス

林壮一ノンフィクションライター
ラリー・ホームズ(写真:Shutterstock/アフロ)

 WBAヘビー級レギュラー王者のトレバー・ブライアンが6月11日に防衛戦を迎える。相手は同1位のダニエル・デュボイス。32歳のアメリカ人チャンピオン、ブライアンは22戦全勝15KO。24歳の英国人、デュボイスは15勝(14KO)1敗。

 先日、ブライアンはキャンプ地をフロリダ州フォートローダーデールから、ラスベガスに移した。当地を元世界ヘビー級王者、ラリー・ホームズ(72)が訪問した。最重量級タイトルをWBC、IBFと合わせて通算20度防衛したビッグネームである。

トレバー・ブライアン   (C)David Martin-Warr/Don King Productions
トレバー・ブライアン   (C)David Martin-Warr/Don King Productions

 ホームズはモハメド・アリのスパーリングパートナーを長く務め、WBC王者となってから同タイトルを17度防衛した。だが、プロモーターのドン・キングによるピンハネに泣いた。

 自身を守るためにとWBC王座を返上し、IBF認定チャンプとなる。時代としてはアリからバトンを受けた形となったが、常にカリスマと比較され、なかなか人気が出なかった。

ドン・キングも90歳を超えた
ドン・キングも90歳を超えた写真:ロイター/アフロ

 現WBAヘビー級レギュラー王者は、キングとプロモート契約を結んでおり、ホームズはかつての天敵に請われ、ブライアンに自身の経験を語ったのだ。

 ホームズは言った。

 「トレバー・ブライアンは、俺の言葉に静かに耳を傾けていた。俺の言ったことを反芻し、自身に何かを問い掛けていたようだな。おとなしい男で、喋らなかったよ。話していたのは俺だけさ。ただ、学ぶ姿勢は強かったね。

 多くの選手が、ビッグパンチで相手をKOしようと考える。でも、倒し方を知らずにノックアウトは出来ない。全ての第一歩はジャブだ、そんな内容の話をした」

写真:Shutterstock/アフロ

 今年の1月29日、ブライアンは初防衛戦に成功したが内容はお寒かった。6月11日はホームズのアドバイスを生かせるだろうか。

トレバー・ブライアン   (C)David Martin-Warr/Don King Productions
トレバー・ブライアン   (C)David Martin-Warr/Don King Productions

 それ以上に注目すべきは、ホームズが自身を利用し続けたキングの要請に応じた点である。

 1999年、私がホームズをインタビューした際、元チャンプは語った。

 「俺はグレイティストと呼ばれたいとか、有名になりたいなんて思ったことはない。ただ、カネを稼いで家族を守りたかった。だから勝たねばならなかったんだ。家族の幸せ以外に求めるものなんか無い。それ以上に大事なものなんて、存在しないだろう?」

 ホームズは素朴な人だな、という印象を持った。今回も、現役王者の役に立てればと、キングの申し出を引き受けたのか。いずれにしても、ブライアンの変化を期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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