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「ゴロフキンvs.村田諒太」の激闘について語った帝拳ジムの先輩世界チャンプ

林壮一ノンフィクションライター
写真:山口裕朗

 WBA/IBF統一ミドル級タイトルマッチの余韻が冷めやらぬ4月13日、さいたまスーパーアリーナから南に3.2キロの地にあるSugar Fit Boxing Gymを訪ねた。WBAスーパーバンタム級チャンプだった下田昭文が、2019年11月20日にオープンしたジムだ。

 JR北浦和駅前(さいたま市浦和区北浦和3-8ー2)に建つ同ジムで、下田は4日前の試合を振り返り、言った。

 「村田諒太にも、興行にも感動しました。また一つ、ボクシングが好きになりましたよ」

 帝拳ジムの後輩である村田について、彼は語った。

撮影:筆者
撮影:筆者

 「花道に現れた村田は、覚悟を決めた表情に見えました。何度も試合が延期になりながら、この日を迎えた。まして相手はゲンナジー・ゴロフキンという物凄いチャンピオンです。肩に乗ったプレッシャーは相当なものだったんじゃないかな。でも、村田はいい緊張感で歩いて来ましたよね。

 こりゃあ入場シーンだけでカネを取れるんじゃないか、って思いました。鳥肌が立ちましたよ。素直に、村田が格好良かったです。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 初回、ゴロフキンのジャブがシャープで速いな、と。これをもらったらヤバイと感じました。でも、村田の左ボディーアッパーも効いていたように見えました。2、3ラウンドは、村田が押しましたよね。もしかしたら、このままKO勝ちもあり得るか、という展開でした。

現役時代の下田氏
現役時代の下田氏写真:ロイター/アフロ

 ですが、その後、ゴロフキンはちょっとずつ村田のパンチを外していきましたね。右ストレートをおデコでうけたり、ギリギリで躱すのが上手かった。近距離で村田のガードの合間からパンチを当てたり、打ち分ける技術が高かったです。特にフックは見たことの無い角度でした。

 ゴロフキンのパンチを実際に僕が受けた訳ではありませんが、本物のハードパンチャーのパンチを喰らうと足が重くなってしまうものです。踏ん張りがきかなくなるんです。スタミナ切れとはまた違うんですが、消耗しちゃうんですね。

 ゴロフキンのパンチは、そういう種類のものじゃないですか。嫌な角度から何度も打ってきましたね。村田もロープを背負って、打たれながらも打ち返しましたが、後半はうまくゴロフキンがガードしていた。その対応力が見事でした。ゴロフキンは圧倒的なパワーではなく、技術を見せましたよ。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 村田は頑張りましたね。心から感動しました。コロナで2年4カ月も試合が出来ず、苦しかったでしょう。マイナス面を全て呑み込み、プラスに変えてリングで死力を尽くして戦った。ボクサーとしての在り方を、後輩たちに見せたんじゃないでしょうか。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 試合後、村田はマイクを向けられて、辛いだろうにきちんと話しましたよね。悔しさをグッと堪えているように、自分には見えました。あと、本田明彦会長が村田を労っていましたね。『出せるものを全部出した。良くやった』というような言葉だったらしいですが、僕も試合前に落ち込んでいる時に、絶妙のタイミングでモチベーションが上がる言葉を掛けてもらったことを思い出しました。具体的な内容は忘れてしまったのですが、会長って2歩、3歩先を見ているんですよ。

 村田には、お疲れ様。格好良かった、って言いたいです」 

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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