10戦全勝8KOで日本ライト級王座を掴んだ宇津木秀
2月8日に鈴木雅弘を9ラウンド44秒で下し、日本ライト級王座に就いた宇津木秀。彼にとって初のタイトル戦、そして10戦目での戴冠だった。
「試合前日は、ボクシングを始めて以来一番、というくらいにグッスリと眠れました。"やることはやった"という自信がありましたね。小林尚睦トレーナーから、『1分1秒を大切に、集中してやろう』というアドバイスをもらって、リングに上がりました」
小林も振り返る。
「日本タイトルマッチが決まってからは特に、宇津木の納得のいく練習をさせてやろう、と考えました。これまで、彼を担当していた指導者が次々にジムを離れ、5回もトレーナーが代わっていましたから、お前は一人じゃないぞ、と安心感を与えてやりたかったのです。
戦術的には、打った後のディフェンスを徹底させましたね。1ラウンドごとにフルに集中力を切らさない。パンチを出した後に動く。右のガードを下げない。それらを練習時から言い続けました。宇津木は世に出るべき才能の持ち主なので、このチャンスをどうしてもモノにさせたかったです」
戦績とは裏腹に、宇津木は大言壮語するタイプではない。コツコツと白星を積み上げて、今回の日本タイトル戦を迎えた。ジムには同じ歳の元OPBFスーパーフェザー級チャンピオン、三代大訓がおり、ライバルを追いかけてきた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20211221-00272661
再び、宇津木の回想。
「ジムの先輩であり、一緒に練習している京口紘人さん(現WBAライトフライ級王者)にお願いして、セコンドの一員になってもらったんです。心強かったですね。『練習通りやれ!』『固くなるな』という京口さんの声や、小林トレーナーの指示など、コーナーからの声が全部聞こえたんですよ」
「鈴木は1階級上で日本王座に就いていますし、パンチがあるので警戒しました。序盤から思った以上にジャブが当たり、自分の距離で戦えましたよ。ですが、3回に僕がジャブを出して、若干ガードを下げたところに右ストレートをもらいました。ダメージは無かったのですが、ちょっと膝が痺れる感じで、『これを何発ももらったらマズい』と、ディフェンスの意識を更に高めましたね」
第4ラウンド、宇津木の左フックがクリーンヒットし、鈴木からダウンを奪う。
「左ボディアッパー、左フック、右ボディアッパー、左フックのコンビネーションを出し、4つ目で倒したんですが、拳に当たった感覚が無かったんです。顎の先にヒットしたのかな…という程度だったのですが、鈴木が倒れたのでちょっとびっくりしました」
「ダウンはとりましたが、アマチュア時代、チャンスに連打してカウンターを喰らったことがありましたから、落ち着こうと思いました。慌てると躰が浮いてしまうので、気を付けなければな、と。鈴木は左右のフックが上手く、打たれ強いので、顎を引くことや、くっついて距離を潰すなど、防御を忘れないようにしました」
「6ラウンドくらいから、やりたいように試合をコントロール出来ましたね。鈴木は自分から打ってくる選手ではなく、相手に合わせるボクシングをします。ジャブ、そして左右のアッパーが面白いようにきまりましたね。アッパーは、ほぼほぼ全てヒットしたんじゃないですか」
第9ラウンド、宇津木の右がクリーンヒット。チャンスに宇津木は連打を見舞う。
コーナーに詰まった鈴木を救うように、レフェリーが試合終了を宣言した。
小林トレーナーの談。
「正直に言うと、最後まで勝利の確信は出来ませんでした。ただ、8ラウンドはしっかりコントロールしていたので、このまま終わりまで行ってほしいと思っていました」
宇津木は結んだ。
「無茶苦茶嬉しかったです。でも、タイトルは獲るよりも防衛する方が難しいと言われますから、きちんと勝ちます。そして、さらに上を目指してやっていきます」
勝利の美酒に酔いしれてから、早くも2週間が過ぎた。宇津木も小林トレーナーも、既に次に向けて走り始めている。新チャンピオンは、日本ライト級タイトル初防衛戦で、どんな成長ぶりを見せるか。期待したい。