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ドン・キングが手掛けたWBAレギュラー・ヘビー級タイトルマッチ

林壮一ノンフィクションライター
David Martin-Warr/Don King Productions

 90歳のドン・キングがプロモートしたWBAレギュラー王座ヘビー級タイトルマッチは、見ていて悲しくなる一戦だった。今日のヘビー級の低迷しか伝わってこなかったからだ。

 David Martin-Warr/Don King Productions
David Martin-Warr/Don King Productions

 32歳の王者、トレバー・ブライアンは、13センチ、9キログラムのアドバンテージを生かせず、終始ベタ足で手打ちを繰り返す。

 180センチとヘビー級ではかなり小柄な13位のジョナサン・ギッドリーも特に決めてのないまま、ダラダラとラウンドが進む。両ファイターが動く度に、腹の贅肉がタプタプと揺れる。

 David Martin-Warr/Don King Productions
David Martin-Warr/Don King Productions

 ブライアンは21戦全勝15KO、ギッドリーも17勝(10KO)無敗2分けであったが、見せ場の無いまま最終ラウンドを迎えた。

 挑戦者はガードを上げる力が残っておらず、チャンピオンの無数のパンチを浴びる。とはいえ、速いコンビネーションを出せないブライアンも仕留め切れない。

 David Martin-Warr/Don King Productions
David Martin-Warr/Don King Productions

 試合終了数秒前、ダメージを蓄積させた挑戦者がダウン。起き上がったところで、ゴングが鳴った。

 118-109、116-111、112-115で、王者がベルトを守ったが、ファンを喜ばせる内容とはとても言えなかった。

 試合後、ブライアンは語った。

 「俺のスキルは向上している。今夜、最後までそれを見せられた。己の才能を、海外まで伝えられたと思う。ヘビー級のトップ3、タイソン・フューリー、アンソニー・ジョシュア、オレクサンドル・ウシクとの試合を希望する。ギッドリーはタフだったが、踏み台にできたな」

 David Martin-Warr/Don King Productions
David Martin-Warr/Don King Productions

 プロ生活における初黒星を喫したギッドリーも言った。

 「接戦でしたよね。この試合が決まったのは4週間前。もう少し準備する時間があれば、もっといいファイトができた筈。体も作れただろうし…。ガスが満タンだったら、ヤツをKOできたと思います。

 最終ラウンド、ブライアンは私の首を打ってきました。ヤツとの間にそんなに差は感じませんでした」

 負け惜しみにも聞こえたが、「4週間前に急遽決まったファイトで、準備する時間が足りなかった」とは、本音であろう。今日も、ドン・キングに泣かされるファイターが存するのである。

写真:ロイター/アフロ

 久しぶりに興行を手掛けたキングは、独特の口調で捲し立てた。

 「見事な試合だったねぇ。ジョナサン・ギッドリーは実に素晴らしい戦いを見せた。トレバー・ブライアンが、なぜ得意の右を使わなかったのか疑問は残るがな。素晴らしいファイトで、プロモーターとして鼻が高いよ」

 悪徳プロモーターとして名を馳せた90歳は、次にどんな動きをするか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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